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 二人は互いに言葉を交わすことはせずに黙って憎く感じるほど星が輝いている夜空を見上げている。アリスが消えてしまったこと、その悲しみを一人で抱え込んでいる。互いに共有すれば、少しはましになるかもしれないのに。


「これからどうするんだ?」


 しばらくたった後、アレクはミナに尋ねた。今日は旅に出る予定だったが、アリスの母親探しに一日使ってしまい、もう日が暮れていて今から出発するのには遅すぎたからだ。

 ミナはその言葉を聞いた後、少し考えて口を開いた。


「そうだね、今日は遅いから宿に泊まって明日の朝に出発しようか」


 そう言って宿に向かい始めた。いつもならもっと明るい様子だったが、今はとても話しかけることができるような雰囲気ではない。そのこともあって、アレクも黙って付いていくだけだった。

 そうして二人は夜の街を歩いていく。酔っぱらって騒いでいる男たち、客引きに勤しむ娼婦、いろんな人たちが二人の心を無視して通り過ぎていく。


「ねぇ、わたしはアリスちゃんに何かしてあげることができたのかな」


 そんな中、ミナはアレクに問いかける。自分は何かできたのか、もっとできることがあったのか。

 何故そんなことを問いかけているか自分でもわからない。自分のことを責めてほしいのか、慰めてほしいのか、それとも全く別の理由なのか。

 でも、質問をする相手が悪い。


「さあな、自分で考えろ。それを考えるのは俺じゃねぇ」


 慰めるどころか責めることさえしてくれない、そんな思いやりのない言葉がミナの心を抉っていく。

 それ以降、二人は何も言葉を交わさなかった。周りにいる人々とは違い、重い雰囲気を醸し出して輝かしい夜の街を歩いている。ああ、本当に嫌だ。周りがこんなにも輝いていることが、こんなにもわたしの心をいらだたせる。

 そんなことを考えながら宿にたどり着いた。部屋が一つしか相手無くて一緒に寝ることになってしまう。


「さっさと寝るよ」


 ミナはそっけない言葉でアレクに話しかけ、すぐにベットの中に入って寝ようとする。

 しかし、あることを忘れていた。それは、アレクが今まで盗みをしないと生きていけないほど困窮した暮らしをしていて、知らないことがたくさんあることだ。

 アレクは部屋に入ってからどうすればいいのか分からない様子で、床に寝転がって寝ようとしていたのだった。その様子を見てミナはそのことを思い出し、アリスのことで落ち込んでいた気持ちを切り替えてようとした。


「そんなところで寝なくていいよ、ここで一緒に寝よう」

「いいのか?狭くなるが」

「いいよ、ぎりぎり二人で寝ることができそうだし」


 そんなやり取りをして二人は同じベットの中で寝転がった。しかし、互いに向き合うことはせず、背を向けて寝ていたが。

 無言の時が続いていく。互いに相手がまだ起きていることは分かっていたが、何を話していいか分からないため話しかけることができず、相手も話しかけてこないから会話をすることが無い。

 そんな中、ミナが勇気を振り絞ってアレクに一つの質問をした。


「ねぇ、今までこんな経験をしたことはある?」


 ずっと気になっていたことを聞く。アリスがもう死んでいるということに気付いてから、アリスを楽しませるために動いていたことは何か思うことがあったからだと予想していたから。

 少し無言の時間が続いていた。もう寝ていると勘違いするほど、アレクは全く答えようとはしない。


 「何度も」


 アレクが口を開いてそう答える。

 その答えを言って満足したのか、もう眠り始めてこれ以上の質問をしても答えてくれそうになかった。

 だけど、その答えだけで充分だ、これで屋台のおじさんやアリスが言っていたことの意味が分かったような気がしたから。


 (みんなアレクのことを怖がりだって言ってたけど、その意味がようやく分かったよ)


 そに答えは周りの人がいなくなってしまう、死んでしまうということが怖いのだ。だから、アレクはきつい態度をとって他人を自分のそばに近づけようとはしない。もしかしたら今までアレクが経験した別れの中では自分と一緒にいたから死んでしまった人がいるのかもしれない。

 そして、アリスに対して態度を急に変えた理由はもう死んでしまうとわかっていたから、そばに近づけなくても結果は変わらないと思ったからであろう。きつい態度をやめた後のアリスへの接し方から考えると、元のアレクは他人のために動くことができる善良な人であることが予想できる。


(ふふっ、いくらなんでも拗らせすぎでしょ)


 自分のそばにいる人が死んでほしくないから、他人に対してきつい態度をとって自分から離れるようにする。決して褒められて物ではないけれど、ミナにはその性格が好ましいものに思えた。

 アレクの頭を撫でながらそんなことを考えていると、なんだか子供のように見えてきた。宿で喧嘩をしていた時、精神年齢三歳児と罵倒したことがあったが、案外あっているかもしてないと思い笑いがこみ上げてくる。


(だけど、アレクが怖がっていることがそれなんだとしたら…………わたしは………………)


 自分の身体のことを考える。もしかしたら……アレクに対してとてもひどいことをしてしまうかもしれない。そう思うと胸がとても苦しくなる。


 ――――ごめんね――――


 後悔しないように今のうちに言っておく。この言葉を必要になる時が来ないことを願ってはいるが、今のうちに言っておかないといけないような気がしたから。

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