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迷子の少女2

 三人は当たりを見渡しながら歩いていた。最初はアレクが探そうとしておらず、ミナが叱ることで探し始めたのだ。


「全く、どこにいんだよ」

「そうだね、憲兵の詰所に行ったけど、誰も来ていなかったようだし」


 アレクが不満をあげる。しかし、ミナはそのことを止めなかった。

 何故なら、一向にアリスの母親を見つけることができる気配が無く、もう昼食の時間が過ぎてしまいそうになっていたからだ。


「アリスちゃん、お腹減った?」

「まだ大丈夫ですけど……」

「遠慮しないでいいから。一緒にご飯食べよう」


 そう言ってアリスと手を繋いで、飲食店の方に向かっていく。


「君も行くんだよ、付いて来て」


 遠くで見ているだけでついて来ず、じっと待とうとしているアレクに対して、付いて来るように言う。

 その言葉を聞いたアレクは少し驚いたように目を開いたが、それも一瞬のことで何も言わずに付いて来る。

 そんなアレクの反応に少し疑問を抱いたものの、今は母親と逸れて不安になっているアリスの方を優先する。


「何か食べたいものはある?お金はあるから何でもいいよ」

「それなら屋台で売っている肉とかで……」

「それでいいの?もっと高い物でもいいけど」

「はい、それがいいです」

「それならそうしよっか。君もそれでいい?」

「ああ」


 そんなやり取りをしながら、屋台に向けて歩いていた。その間はミナとアリスが会話していて、時々ミナやアリスに話を振られ時だけアレクが会話に参加していた。

 そんなことをしているうちに、三人は屋台にたどり着いた。


「おじさん、焼き鳥三つ!」

「あいよ、あんたら兄妹かい?仲良いね」

「「それはない!」」


 口を揃えて、二人は否定する。互いに仲が良いと勘違いされるのはとても嫌だったからだ。


「はははっ、やっぱり息ぴったしだ。嬢ちゃんもそう思わない?」

「わたしもそう思います。二人とも似ているところなありますし」

「「何処が!」」


 屋台のおじさんだけでなく、アリスにまでそのようなことを言われて、二人は心底嫌そうな顔をする。

 その様子を見ていたおじさんは腹を抱えて笑い、頼んだ数より多い六本の焼き鳥を三人に渡してきた。


「面白いね、君たちは。はい、この三本はおまけだよ」

「え、いいの?まだお金はあるけど」

「いらんいらん、おまけなんだからそんなもん気にすんな」

「えぇ」


 おまけだからと言っても、三本も無料で売ってくれたおじさんに驚きながら、焼き鳥をもらう。

 その時、おじさんが二人に、少なくともアレクには聞こえないほどの小さな声で話しかけてきた。


「なあ、あいつ新品の服を着ているけど、よく物を盗んで暮らしている奴だよな」


 できるだけバレないように身だしなみを整えさせてはいたが、それでも見破られてミナは息を詰める。しかし、その後に続いた言葉は予想もしていない言葉だった。


「その反応は正解ってことか。それなら嬢ちゃん、頼みがある。あの怖がりを助けてやってくれ」

「怖がり?あいつが?」

「ああ、まだわからないようだが、そのうちわかるはずだ。頼んだぞ、この三本の焼き鳥がその代金だ」

「そういうことだったんだ。まあ、いいけど、本当にあいつが怖がりなの?」

「ああ、そうだよ。頼んだぞ」


 そんな会話をして、ミナは二人が待っているところに行った。

 *

 小さい声で屋台のおじさんがミナに話していることに気付き、アレクはアリスに話しかける。


「おい、少し離れるぞ」

「は、はい」


 アレクが歩いていくのを見て、アリスは慌ててついていく。その顔には疑念が浮かんでいたが、恐れているのか尋ねてくる様子は無かった。

 その態度が気に障ったのか、アレクはアリスに対して尋ねる。


「何だよ、言いたいことがあるなら言え」

「は、はい。何を話しているのか気にならないんですか?」

「小さい声で話してんだ、聞いてほしくないことなんだろ。それをわざわざ聞く趣味はねぇ」


 それはアレクの本心だった。

 その言葉を聞いたアリスは驚いた表情をして、何か考えている様子だった。そんなアリスを見て、アレクは何も言わずにずっと待っていた。

 そして、何かに気付いたのかアリスが尋ねてくる。


「わたしがぶつかった時、もしかして怒っていませんでしたか?」

「…………さあな」


 その言葉を聞くとアリスは近づいてきて、すぐそばで歩き始めた。


「あ?何で近づいてくるんだよ」

「別にいいじゃないですか。そんなことより、ここらへんで待ちませんか?もう声なんて聞こえませんし」


 アレクにとって、何故近づいてくるのか理解できない。このような態度で接していくと離れていくと思っていたのに、中々思い通りにはいかない。

 そうして、二人が待っていると、やっとミナが焼き鳥をもってやってきた。


「はい、熱いうちにどうぞー」


 ミナは二本ずつ焼き鳥を配っていく。アリスはその焼き鳥を見て目を輝かせて、受け取ると同時にかぶりついた。


「おっ、おいしそうに食べてるね。まだ食べたくなったら言ってね。わたしの焼き鳥もあげるから。……………………それに対して、君は食べないの?」


 アリスとは違い、アレクは焼き肉を受け取っても、すぐにかぶりついたりせず、じっと見ているだけだった。

 その時、アリスがアレクの方にきて、手に持っている焼き鳥を一口だけ食べていった。


「あっ、てめぇ!」

「え⁉アリスちゃん⁉」


 そんな二人の反応をよそに、アリスはそれはもうおいしそうに焼き鳥を味わっていた。そんな様子を見たら、全く責める気にもならず、アレクは残った焼き鳥を食べていった。


「まあ、さっさと食べなかったアレクが悪いか」


 ミナもそう判断して焼き鳥を食べていく。

 そうして、三人は焼き鳥を食べていった。アリスは母親とはぐれている不安を紛らわせ、アレクは久しぶりに食べるしっかりとした食べ物を味わい、ミナはその二人の様子を観察している。


「よし、食べ終わったね。アリスのお母さんを探しに行こっか」


 ミナが全員が食べ終わったことを確認して、これからアリスの母親を探すために気合を入れて、歩き出そうとした。

 だけど、そこにアレクが水を差してきた。


「探すのはいいけどよ、このままだと見つからねぇぞ。探し方を変えるべきだ」

「そうですね。……………………お母さん、どこ行ったんだろう」


 その二人の言葉を聞いて、ミナは立ち止まり考え始める。


「そうだよね、どうやって探そうか」

「そもそも、どういう時にはぐれたんだよ」


 アレクがアリスに尋ねる。今までは母親の見た目だけ聞いていたが、はぐれた経緯を聞いていなかったからだ。


「それは…………一緒に歩いていたんですけど、気がついたらはぐれていました」


 二人ははぐれた経緯を聞いたが、余り参考にならない。何処ではぐれたか分かれば、まだ探すことが出来たかもしれないが、それも分からないため探しようがない。


「そっかー、手当たり次第探すしかないか」

「待て、はぐれたことに気付いたところは何処だ?」

「それは……」


 二人はアリスが母親とはぐれたこと気付いた場所を聞く。この街に来てから少ししか立っていないミナには何処か分からなかったが、アレクはそこが何処か分かっているようであり、何かに気付いた様子だった。


「何か気づいたの?」

「いや…………何でもない」

「何でもないって…………もういいや」


 それでも、アレクは何も言ってくれなくて腹が立ってきたが、何とか我慢する。


「もう大丈夫です……あとはわたしだけで探します」

「それは駄目、ここまで来たんだから最後までやるよ」

「で、でも……」


 アリスはこれ以上迷惑を掛けれないと思い、ここからは自分一人で探そうとしていたが、それをミナが許すことは無い。


「そもそも、小さい子を一人にさせると危ないんだから一緒に探さないなんて選択肢はないの」


 ミナは一切引く気が無く、何があってもアリスを一人にさせないようにしていた。そして、アリスを手伝うのはミナだけではない。


「おまえら、さっさと動け。そんなやり取りをしている暇があんなら探せべきだ」


 今まであまり乗り気ではなかったはずのアレクまで母親を探そうとしており、アリスは驚いて目が点のようになっていた。

 そうなっているのもアリスだけではない。ミナは信じられないものを見たような目をアレクに向けて絶句していた。


「あ?どうした、さっさと動け」

「ごめん、焼き鳥しっかり焼けてなかったかも。そうじゃないと、こんなこと言うわけない」

「てめぇ、喧嘩売ってんのか!」


 しかし、そう思うのも無理はない。今まではあまり乗り気ではなく、自分から動くということをしたことがなかったからだ。


(急にどうしたの?さっきの何かに気付いた様子だったけど、それと関係があるのかな?)


 アレクが手伝おうとしている原因を考えるが、アレクとは互いに理解しているところは少なく、何を考えているのかさっぱり分からない。


「まあ、言っていることは間違ってないか。アリスちゃん、アレクが言ったようにお母さんを探しに行こうか」

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