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魔法

「それにしても、俺が逃げることを想定していないのか?」


 アレクは部屋から出て、ミナと一緒に歩いていた。

 しかし、ミナはアレクが逃げ出すことを警戒している様子は無く、逃げようとしたらいつでも逃げることができるほど隙だらけだった。


「あ、そんなことするの?さっき付いてくるって言ったのに?まあ、どうせ逃げることなんてできないから別にいいんだけど」

「は?どういうことだ。俺を舐めてんのか?」


 ミナに挑発されていると思い、アレクは喧嘩腰になっていた。今日捕まるまでは何年も失敗せずに盗みを続けることができていたのだ。目の前にいる女から逃げることなんて容易い。


「挑発とかではないよ、ただ単に事実を言っただけだから。今すぐ逃げてもいいよ」


 そんなことを言われたから、アレクはすぐに逃げ出そうとした。ぐっと地面を踏み込んで一気に距離を離そうとする。だけど、足が石になったかにように重くなり、動かすことができない。


(なんだこれ⁉全く足が動かねぇ)


「すごいね、逃げてもいいって言った瞬間に逃げ出すなんて。その行動力は尊敬できるよ」

「おい!馬鹿女!これは何だ、どうなっているんだ!」

「それはね、わたしの魔法だよ。君の身体を治した時に楔を埋め込んでいてね、ある程度の行動は制限できるんだよ。…………あ、それはわたしの意志で解除できるから一生続くってことは無いから安心していいよ」


(チッ、そんなんずるだろ。行動を制限できる?ある程度って言っていたから全部の行動が禁止されているわけではないだろうが、それでもどこまで禁止されているか分からないのはマズイな)


 ミナの発言を聞き、自分の行動が制限されていることを知って危機感を覚える。その内容次第で今後生きていけなくなる可能性があるからだ。

 その禁止されている内容を探るために、アレクは横を通りかかった人の持ち物を盗もうとしたが、今度は腕が重くなり、動かすことができない。


「え、制限されてるって聞いた後にすることが盗み?その行動力はすごいと思うよ、本当に」

「おい!これまで禁止されるなんて聞いてないぞ!これからどうやって生きていけばいいんだよ!」

「いや、あのねぇ、わたしも傍で盗みをするなんて許すわけないでしょ。逆に何でできると思ったの?それに一緒にいる間はわたしが衣食住を提供するんだから問題ないでしょ」

「…………旅が終わった後には解除するんだよな?」


 それは大事なことだった。ミナと別れた後で盗みができないとなると、もう食料などを手にいてる手段なんてものは存在しておらず、そのまま餓死してしまう。


「ああ、それは解除するから安心して。まあ、その時には盗みなんてしなくなっていると思うけど」

「……それならいいや、これからも盗みができるのなら問題ない」


 ミナが言った言葉の後半は全く理解できなかったが、それでもこれから盗みを続けることができることが分かり、安心して息を吐く。死ぬのは別に問題ないけども、飢餓に何度も陥っているが、いまだに慣れておらず、もうそんな状態になりたくなかったからだ。


「そもいや魔法ってなんだよ、そんなもんこの世にあんのか?」

「えっ、魔法を見たことないの?使っている人はたくさんいると思うけど。……んー、例えば水を出したりしている人とか見たことない?」

「そういえば、炎を出して追いかけてきたやつもいたな。あれって魔法なのか?」

 物を盗んで逃げている時に炎を使われた時のことを思い出す。あの時は何とか逃げ切ることができたが、命を失うような逃走劇で、もう二度としたくなかった。

「えっ……良く生きてたね。そんなことされていたなんて」

「その辺に置いてあった粉が入った袋を投げたら爆発して逃げ出した」

「………………その人も良く生きてたね」

 あの時は爆発のせいで憲兵が普段なら良くても二、三人しか追ってこないのに十人以上もやってきて、逃げるのにとても苦労した。


「まあ、それは置いといて。魔法ってのは魔力を使って物理法則以外の方法で現象を起こすことなんだよ。理屈では説明できないこともたくさんあるし、不明なこともまだまだあるんだ」

「魔力?物理現象?よくわからないが、不思議な力ってことでいいのか?」

「そんなイメージでいいよ。君の身体も魔法で治したんだよ、だから、あんな怪我でもすぐに直すことができたんだよ」

「魔法って何でもありなのか?それが使えたらもっと簡単に物を盗めるのに……痛っ!」


 もし自分が魔法を使うことができれば、もっと簡単に盗みができるようになることを考えて呟いていると、またミナに頭を叩かれた。

 しかし、叩かれた理由は理解しているので、睨んだものの声を荒げることは無かった。


「全く、盗むことしか頭に無いんだから。それに魔法は何でもありっていうわけでもないんだよ。練習もたくさんしないといけないし、才能もいるんだから」

「ちぇ、使えねぇ」

「はぁ、もういいや」


 そんな会話をしながら二人は道を歩いていた。ミナの方はしっかしとした服を着ているが、アレクの服は所々破れているので、そんな二人が一緒に歩いていることは注目を浴びていた。

 しかし、二人はその目線のことを全く気にしていない。アレクは嫌な目で見られることに慣れているし、ミナはそもそも気づいていないのかもしれない。

 そのおかげでアレクはあることに気付く。ミナは他の人とは違いアレクのことを嫌な目で見たりせず、対等な人間として接しているのだ。今までミナのように接してくれる人はおらず、初めてのことに戸惑う。


「どうしたの?」


 そんなアレクの様子に気付いたミナが声を掛けてくる。周りの人の目には一切気付いていないのに、アレクの様子には一瞬で気づいてくる。

 しかし、正直に話す気にならなくて、適当にごまかそうとした。


「いや、魔法を使うのに才能っているんだろ?お前に才能ってあるのか?」

「それって喧嘩売ってるの?実際にあるから君の身体を治せたんでしょ!」


 ごまかし方が悪かったのか、ミナが足を踏んで来る。アレクはそれを避けることができず、足を踏まれ蹲る。


「痛っ!急に足を踏むな!」

「君が悪い、さっさと行くよ」

「でも、避けることを魔法で禁止にするのはやりすぎだろ!」

「自業自得」


 そんなやり取りをして、二人は目的地までたどり着いた。

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