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残り少ししか生きられない老婆4

 マリアが倒れてから数時間後、二人はベットで寝ているマリアのそばにいた。マリアはあれからずっと寝ていて、目覚める気配がしない。


「マリアを治すことはできないのか?」


 今までミナの魔法が治せなかったものを見たことが無く、アレクは治すことができないか尋ねていた。

 だけど、そんなことはできないと自分でも分かっている。そんなことができるのなら、ミナはとっくにやっているだろうから。


「それはできない。わたしの魔法は怪我や疲労を治すことはできるが、病気や寿命はどうすることもできないから」


 それからは無言の時が続いていた。話すことが何も無く、軽口を言えるような雰囲気ではなかったから。

 それでも、ずっと聞きたかったことがあるから、アレクは勇気を出してミナに尋ねる。


「なぁ……こうなることを予想していたのか?」


 ミナはマリアがこのような状態になったことにあまり動揺している気配が無く、どちらかと言うと、ついにこの時が来たかという表情をしていたから。

 ミナはアレクが尋ねてくることを予想していたようで、その言葉を聞いた後にすぐ答えてきた。


「うん、こうなることはね。マリアさんくらいの魔法使いだと症状を和らげることくらいはできるから」


 それでも、ここまで急に変わることがあるのだろうか。和らげると言われたが、今までのマリアの様子はとても元気で病の症状なんて少しもなかったじゃないか、信じることができそうもない。

 だけど、実際にそうなっている。そうなっている以上、ミナの言葉を信じないといけない。

 もう日が暮れてきた。どんどん暗くなっていき、辺りが闇に包まれていく。これからマリアが太陽を見ることができるのか、そのように不安になるほど目覚める気配がなかった。


「うっ…………」


 そんなことを考えていたら、マリアが目を開いていた。おぼつかない目をしていたが、それでも二人のことを見つけて何かを伝えようとして口を開いた。


「ごめんね……こんな状態になってしまって……」

「謝る必要なんて有りませんよ、今は安静にしてください」

「でも……まだ伝えることが…………できていない……」


 そう、間に合わなかったのだ。アレク達はマリアが倒れるまでにタイムカプセルを見つけることができず、答えを教えてもらうことができなかった。

 しかし、アレクはそんなことを気にしていなかった。確かにそれは気になってはいるが、ミナはその答えを知っているようなので後から聞けばいいだけだから。

 そんなことはマリアも分かっているようだったが、それでも自分の口から言えないことをとても悔やんでいた。


(それなら今言えばいいのに、何で駄目なんだろうか)


 こんなことになっても、マリアは答えを伝えてくれない。しかし、マリアの様子を見ていると、伝えることができていないことを本気で悔いている様子だったため、マリアが何を考えているのか少しも分からなくなってしまう。

 そんなことを考えていると、ミナがマリアの手をとって何かを伝えている様子だった。それは小さい声だったので何を言っているかは聞き取れなかったが、マリアはその言葉を聞いて驚いたように目を見開き、安心したように弱く頷いていた。


「そうかい……頼んだよ…………」

「ええ、後は任せてください。アレク、手伝って」

「あ、ああ」


 ミナが何をしようとしているのか分からないが、そうすれば良い結果になると信じてマリアを外に連れていくことの手伝いをする。アリアは運んでいる間もじっとしていて、今すぐにでも死んでしまいそうな状態だった。

 魔法のおかげとは言え、よくここまで持ったなと思う。

 三人は外に出ていた。その時にはもう日が暮れていて辺りが暗くなっており、夜空で星が輝いている。そう言えば、アリスと別れた時もこのように星が輝いている夜空だったな。誰かと別れる時は綺麗な夜空ばかりで嫌いになってくる。


「今から何をするんだ。わざわざ外に出たってことはそれなりに重要なことなんだろ」

「うん、見てて」


 ミナはそう言って地面に手をつけて、そこから魔力を流し始める。すると、少し離れた地点から光が浮かび上がり、淡く輝き始めてきた。急なことにアレクは驚いて固まっていた。おそらく、これがミナの言っていた探す方法なんだろう。もし昼にこの方法をしてしまうと、太陽のせいでこの淡い光がかき消されてしまうため、夜にしかできない方法だ。


「あれを掘ればいいのか?」

「うん、頑張ってね」


 アレクは言われた通りに地面を掘り始め、しばらくたつと小さな箱のようなものを掘り起こすことができた。それを持ってみると見た目よりも軽く感じ、中に物が入っているのか不安になってくる。

 だけど、その箱を見たマリアは驚いたように目を見開いていたので、これが探していたものだということは理解できた。


「これでいいのか?」

「うん、ちょっと貸してくれない?」

「いいけど、何するんだ?」


 ミナはアレクから箱を受け取ると、箱に対して魔力を流し始めていた。すると、箱が赤く点滅し始めた。

 そして、ミナはその箱を遠くに放り投げた。アレクはミナの行動が信じられなくて目を丸くして驚いていたが、マリアは驚いている様子は無く、その箱の行方をじっと見ていた。

 アレクがミナに行動の意図を問いただそうとした時、その箱から何かが爆発するような音がした。慌てて振り返ると。箱が爆発していて、何かが夜空に向かって上昇していく。

 それが充分に上昇した後、もう一度爆音を鳴らし、夜空に無数の花が咲いた。

 花火。今までアレクはそれを見たことが無く、それどころか存在すら知らなかった。初めて見る花火はとても美しく感じ、この世界が綺麗な物だと錯覚させてくる。

 こんな美しいものの裏でリーネ達のように死んでしまう人がいる、そんな世界を綺麗なものだと思いたくない。そして、仲間たちはもう死んでしまっているのに、こんな綺麗な物を一人で独占している自分はとても醜いと思う。


「ああ……そうだ……あの時埋めたのは…………こんな花火だったんだ…………」


 その花火を見て、マリアの目から涙が流れだしていた。今のマリアはどんなことを思い出しているのだろうか。おそらく、大切な人との輝かしい記憶だと思う。

 そして、花火がすべて咲き終わり静寂の時が来た。それでも、三人は余韻に浸って何も話そうとはせず、ただ時間だけが過ぎていく。

 その静寂の時を打ち破ったのはマリアの咳だった。そもそも、マリアの身体は限界を迎えており、いつ死んでもおかしくはない。そして、その咳はとうとう死が迎えに来たことを意味していた。


「マリアさん…………」

「いいの……二人ともありがとうね…………死ぬ直前にこんな良い物を見れたんだ…………これ以上の幸せは無いよ……」

 マリアは二人に感謝を伝えるために最後の言葉を紡いでいく。たどたどしい言葉ではあったが、それでも今思っていることをすべて二人に伝えようとしていた。


「それに……まだ答えを言って無かったね……今から伝えるよ…………」


 アレクはその言葉を聞いて息を飲み込んでいた。今までずっと求めていたものが、やっと手に入れることができるのだ。それさえ手に入れることができれば、この罪悪感が無くなってくれるだろうから。

 ミナもマリアの言葉をずっと待っている。もしかしたら、ミナもその答えを知る必要があったのかもしれない。もし、剃るだとしたら、この出会いは三人にとってとても良かった物なのかもしれない。


「それはね…………素晴らしい物……楽しいかったこと……美味しい物…………あらゆる物事を大切な人に伝える為なんだよ…………君はそういう物に接すると…………罪悪感が湧いてくるのかもしれない…………だけど……そう思う必要は無いんだよ………だって……後から死ぬ人として…………それを伝える義務があるんだから…………」


 マリアの言葉は途切れ途切れだったものの、しっかりとアレクに伝わっていた。そして、その言葉はアレクに新たな考えを与えていた。

 先に逝った仲間達に色んなことを伝えるために生きる。そのためにできるだけ長く生きなければならないし、それに色んなことを経験しなければならない。

 そう思えば、今までに感じていた罪悪感は無くなるし、動く屍のように生きることは許されなくなる。


(リーネ達に色んなことを伝えるために生きる……か。さっきの花火みたいな物を伝えるのか。ははっ、そうか、それでいいんだ、俺は生きていていいんだ)


 マリアの考え方はアレクがずっと求めていた物だった。その考えのおかげでアレクは自分がこれから生きていくことを許すことができるし、これからの目標も手に入れることができた。

 そのことに気が付くと笑いが込み上げてくる。何でこんな簡単なことに今まで気づかなかったんだろう。あいつらは…………特にロイとかはこんな話を聞くと喜ぶと決まっているのにな。


「そう……これからは……大丈夫そうだね……」

「ああ……これからは生きていける……」


 今ならミナやマリアがこれまで伝えなかった理由が理解できる。あの花火を見る前だったら、こんなことを言われても、到底納得できるような気がしないから。

 そして、マリアはもう息を引き取る寸前になっていた。こんな状態になっても他人のことを気に掛けてくれていることに感謝しかない。


「アレク…………」


 ミナが肘で突いてくる。何を伝えたいかは理解できた。マリアに対しての最後の言葉を言うように促しているのだ。最後の言葉………………か。


「マリアさん……本当にありがとうございました」


 ありがとう。この言葉を大人に対して使うのはこれが初めてだし、今後言う場面が来ないかもしれない。それでも、その言葉を使う。

 アレクにとって、マリアさんは最も尊敬できる大人であり、一生感謝しても足りないほどの存在だったからだ。

 心残りが無いわけではない。これ程の恩があるにも関わらず、何も返せてない。花火を見つけたのはミナの力だけだから、自分ができたことなんて何もない。


「それは……違うよ…………迷っている青年を……救うことができた……という話が……できるんだから……さ」


 そして、マリアさんは息を引き取った。最後の最後まで気に掛けて貰って、感謝で胸がいっぱいになる。マリアさんに出会えて本当に良かったと思う。


「こんな人もいるんだな」

「そうだね……マリアさんは本当に凄い人だよ。わたしも助けられたしね」


 知らないうちにミナもマリアさんに救われていたようだ。それが何なのかは分からないが、ミナにとって、それはとても重要なことだったと言うことが、その言い方から理解できる。


「埋葬しよっか」

「そうだな」


 二人で墓を建てる。あまり立派なものは作れなかったが、それでも心を込めて作れたからマリアさんは喜んでいると思う。


 *

『最後にあんな出会いがあるとはね。長生きしてみるもんだよ』

『いい出会いがあったんだね、僕に教えてくれない?』

『もちろん!言いたい事はたっくさんあるんだから、最後まで聞いてよね』

『うん、楽しみだよ』

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