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残り少ししか生きられない老婆3

 二週間後


「ぜぇ……ぜぇ……全く……見つからねえぞ……」

「はぁ……はぁ……そうだね……ここまで……見つからないのは……予想外だよ……」


 二人がタイムカプセルを探し始めてから二週間ほどたったが、まだ見つけることはできないでいた。木の根元や家のそばなどの目印になりそうな物の近くを掘り尽くしていたが、それでも見つからない。

 ここまで掘っても見つからないってことは目印が無くなっている可能性が極めて高く、そうだとしたら見つかる可能性なんてないようなものだ。そのことに気付いて二人は心が折れそうになっていた。


「あらあら、大変そうだね。どう?お茶でも飲む?」


 そんな二人に見かねたのかマリアがお茶を持ってきた。

 アレクはそんな物を受け取る暇は無いと思い、また地面を掘ることを再開しようとしたが、ミナがアレクの手を引っ張ってマリアの方に連れて行く。それは予想外の行動で、アレクは驚いて付いて行くことしかできなかった。

 時間が残り少ないことなんてミナも理解しているはずなのに、どうしてそんなことをするんだろうか。協力するって言っていたはずだよな。


「焦ったところで成功しないよ、まずは休憩しよう」


 わかってる、そんなことは。しかし、頭では理解していても感情が勝手に身体を動かしてしまい、じっとすることができないのだ。答えを手に入れることさえできればこれから生きていくことができるはずなんだ。

 そう思って抵抗しようとしてもミナの魔法のせいで逃れることができない。本当にこの魔法は鬱陶しい。


「それにこのまま闇雲に探したところで見つかる可能性はかなり低いよ。そんなことをするよりかはマリアさんに埋めた場所を思い出してもらう方がいいと思う」


 何とかミナから逃れようとした時、ミナがそう言ってきた。

 それはこのまま探すよりはずっといい考えだった。アレクはその意見を無視するわけにはいかず、黙って付いて行くことにした。その様子を見てミナが笑っているが、そんなことは無視する。いや、無視できそうにないかも。

 そうして二人はマリアがいるところに行き、三人でテーブルを囲んでいた。マリアはテーブルの上にお茶だけではなく、菓子が複数置いてあり、どれだけ休憩する気なんだと思う。

 そもそも、さっきまで地面を掘っていたんだから手が汚れていて、その状態で食器などを触るのは駄目ではないのか。ミナにそう習った気がするんだが。


「はい、魔法で綺麗にしたから気にしないで食べていいよ」


 そうだった。魔法って便利だな…………。

 そして、アレクは目の前に置いてある菓子を見る。それは今まで見たことはあったが食べたことが無く、どんな味がするのか分からない。

 アレクは恐る恐る菓子に向けて手を伸ばし、そっと手に取った。指先に伝わるザクザクとした感触に期待を膨らませ、ひと口かじると、香ばしい風味がじんわりと広がってきた。


(おいしいな……これをリーネ達に食べさせてあげることができたらよかったのに)


 気が付くとアレクは手を止めていた。何故なら、その菓子を食べているとリーネ達のことを思い出してしまい、罪悪感が湧いてきてしまうからだ。何故自分だけこのようなものを食べることができているのか、何故リーネ達がこれを食べることができないのか。

 そう思ってしまうと自分が生きていてもいいのか疑問を抱いてしまう。リーネ達は生きるために全力だったのにも関わらず死んでしまい、自分は何となく生きているにも関わらずまだ死ぬ気配がない。それはリーネ達への侮辱ではないのか。


「あたしゃそんなことないと思うけどねぇ」


 マリアがアレクの思考を読み取るようにして、慰めのような言葉を言っていた。だけど、アレクはその言葉を素直に受け取ることができない。何故なら、マリアはアレクの過去なんて少しも知らないので、この苦しみがどんなものか分からないはずだから。

 そう、知らないはずなのに。


「分かるよ、その気持ちが。何で自分が生きているのか、自分は生きる資格があるのか。その苦しみはとても辛いことだよね」


 その言葉はマリアがアレクの苦しみを理解している上に、その苦しみを味わったことがないといつことができない言葉だった。マリアにもそんな過去があったのだろうか、とてもじゃないが想像できない。

 でも、そう思わざるを得なかった。それほどまでにマリアの言葉は重かったから。


「そういえばアレクには此処で住んでいる理由を話したことは無かったね。あたしゃ昔に魔女と言われて町から追い出されたんだよ」

「追い出された………………?」

「そう、師匠のおかげで魔法が他人より使うことができるというだけでね」


 マリアの話を整理するとこういうことらしい。マリアは昔、山の中で彷徨い山の中の家に辿り着いた。そこで十年ほど魔法について学び、町に戻ってくると魔女と迫害され街を追い出されたということだった。

 その話はミナも聞いたことがあったようで所々補完してくれた。補完してくれた内容の中には迫害した人々の中には親も居たという。アレクは親なんて知らず、そのことでマリアがどんなことを思ったのか予想もできなかったが、それでもとても辛いということだけは理解できた。

 マリアの話はとても衝撃的なもので、アレクは絶句して何も言うことができなかった。その話が本当ならマリアには救いが無い。

 アレクにはリーネ達という仲間がいて、一緒にいれば毎日楽しく生きることができたが、マリアにはそんな人などおらず、楽しいことがあっても、辛いことがあっても共感してくれる人などいない。それがどれだけ辛いことかはリーネ達が死んだ後の暮らしから理解できる。


「ああ、大丈夫だよ。誰もいなかったのは数年程度で、それ以降は夫がいてくれたからね」


 そうだったのか。だけど、夫がいない数年間の希望もない状況を耐えていたことはとてもすごいことだと思う。もし、自分が同じ状況になったとしたら耐えれる気がしない。

 しかし、マリアの意見は違うようだった。


「そんなことないよ。あの時は抜け殻のように生きていただけで、耐えていたわけではない。毎日をただ一人で何となく生きているだけで、いつ死んでも良いと思っていたんだ」


 それはアレクと同じ状態だった。生きている理由もなく何となく生きているだけ、まるで動く屍のような状態で生きていた。

 マリアが昔、そんな状態になっていたことは予想もしていないことだった。それは今のマリアとかけ離れれたものであり、想像もできないようなことだったからだ。


(やっぱし、仲間がいるってことはいいことなのか。だけど、今はマリアの夫がいないはずなのに楽しそうに生きているし、どういうことなんだ?)


 アレクはそれが仲間ができたおかげだと思っていたが、それだとするとマリアがまだ楽しそうに生きている理由が説明できなくなってしまう。その理由が分かると自分もマリアのように生きていくことができるのだろうか。

 アレクはその答えを聞こうとしたが、それをミナが遮ってきた。


「まだタイムカプセルを見つけていないでしょ。答えを聞くことはできないよ」

「…………そうだけど」

「それにタイムカプセルを埋めた場所の手がかりが無いのか聞くんじゃないの?」

「…………はぁ、分かったよ」


 それにしても、ミナの行動はいつもと違う。普段なら手伝ってくれるにもかかわらず、今は答えを知ることができそうになったのに、それを妨害してくる。

 もしかして、ミナは答えを知っているのか?そうだとしたら何故隠す必要がある?


(はぁ……何を考えているのか全くわからねぇ。まあ、ミナがそうするべきだと思っているのならそれが正解なんだろ)


 疑問はどんどん湧いて出ているが、聞いたところで教えてくれないことは分かっているし、それにミナの判断が今までで間違っていることはほとんど無かったので黙って従うことにする。


「埋めた場所の手がかりねぇ、何かあったかな…………そういえば、夜に埋めたんだっけ?」

「夜?なんでそんな時間なんだ?こんなところだと地面なんて見えないだろ」

「さぁね、あたしゃもう忘れてしまったよ」


 この家があるところには街灯なんてものは無く、夜になってしまうと真っ暗になってしまい何も見えなくなってしまう。何故そんな状態で地面を掘っていたのか、少しも理解できない。

 さらに、そのことはタイムカプセルを探す手掛かりになるようなものではなく、何も参考にならなかった。

 しかし、ミナの考えは違うようでマリアの話を聞いた後、黙りこんでずっと何かを考えていた。タイムカプセルを埋めた時間が何か参考になるのだろうか。


「何かわかったのか?」

「埋めたものと見つける方法はね…………確証は無いけど」

「っ……それは何だ?」

「今すぐにはできないことかな、その時になったら言うよ」

「そうか……それならまた探し始めるよ」

「頑張ってね」


 ミナが思いついた方法はまだ使えないらしい。ミナが言ったからにはそれは本当のことだと思うし、それに嘘だったとしたら思いついたという必要が無いため、それを信じることにした。

 そして、ミナが思いついた方法を使えるようになるまで暇なので、アレクはまた当てもなく地面を掘ろうとする。ミナはアレクを手伝う気が無い様で、まだ菓子を食べていた。


(やっぱしおかしいな、普段なら手伝ってくれたのに。これに関しては何か嫌な予感だするんだけどな)


 アレクはそんなことを考えていた。ここ最近、ミナの様子がいつもと違い、不安になってくる。だけど、体調が悪いようにも見えず、思い当たる節は無い。

 その時だった。コップが割れる音がして、振り返るとマリアが倒れていた。それは当然のことだ、元から残り数週間しか生きられないと言っていたので、いつこうなってもおかしくなかった。

 だけど、少し前まで元気そうに見えていたので、急な変わりように驚いてなにもすることができない。


「マリアさん‼︎」


 呆然としているアレクとは違い、ミナは慌ててマリアに駆け寄っていく。そうなってしまうこと前もって予測していたのか、それとも誰かが急に倒れてしまうことに慣れているのか、それは分からなかった。


「マリアさん、大丈夫ですか⁉︎」

「うっ…………ごめんね……少し気を失ってた」

「マリアさん、ベットまで運びますよ。ほら、アレクも手伝って」

「あ、ああ」


 アレクはミナの言うことを聞くことしかできない。倒れた時のマリアの表情を見たため、頭の中が疑問で埋め尽くされてしまっていたから。


(何で……何で笑っているんだ?生きていく理由があるんだろ?)


 意味が分からない。何故笑っているのか、何故満足しているのか。

 本当に意味が分からない。

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