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残り少ししか生きられない老婆2

「はぁ……次からはわたしに相談してからあんな質問をしてよ。今回は許してもらったからいいけど、普通の人は許してくれないからね」

「…………すまん、悪かった」

「でも、その質問はアレクにとって重要なものってことは分かっているからわたしも協力するよ」

「………………ありがとう」


 二人は老婆の頼みごとを聞く前に、アレクの鼻を治していた。ミナはかなり強くアレクの顔を机に叩きつけていたようで、アレクの鼻から血が止まることが無かったからだ。ミナもそのことを反省しているようで、何度も謝ってきた。

 アレクからしてみれば、ミナにこんなことをされるのは当然のことであり、謝る必要なんてないと思っていたが、それでもしっかり謝ってきてやっぱり優しいなと思っていた。


「どう?もう血が止まった?」

「はい、止まりました。ごめんなさい、話を中断してしまって」

「いいよ、時間はまだあるんだし。それより頼みことをしていい?」

「はい、アレクもいいよね?」

「ああ」


 アレクにはどんな頼みごとが来るのか少しも予想できなかった。だけど、どんな頼み事だったとしても、老婆が死んでしまう前にその頼みごとを成し遂げようと心に決めていた。

 そんなアレクの様子を見て、老婆は優しく笑いながら頼みごとを二人に伝えた。


「あたしゃ三十年くらい前に夫と一緒にいろんなものを埋めたんだ。だけど、その場所を忘れてしまってね、掘り返すことができなくなってしまったんだ。二人にはそれを見つけてほしい」

「なるほど、タイムカプセルを見つけるってことか」

「たいむかぷせる?」

「そっか、アレクは知らないんだ。タイムカプセルってのは未来に向けて手紙や大切なものを埋めといて、何十年後にそれを振り返すんだよ」

「へーそんなもんがあるんだ」


 アレクはタイムカプセルというものを聞いて、もしそのことをずっと前から知っていて、リーネ達とできていたらなと思っていたが、そもそも字は読めないし埋めるものは無いなと思い返してすぐにその思考を変える。


(それにしても、埋めた場所を忘れてしまっただと……つまり、最悪の場合はこの家の周り全てを掘り返す必要があるっていうことか?それだとしたら老婆が生きている間に見つけることは不可能だぞ)


 アレクはこの家の周りの様子を思い出す。ここは町のはずれにあるせいで周りに建物なんて無く、空き地が広がっているのでタイムカプセルが埋まっている可能性がある場所がかなり多い。アレクはそのことに気付いて気が遠くなっていた。


「さすがにこの家の周りを全部掘り返したりはしないと思うよ。タイムカプセルを埋める場所って大抵目印があるから」

「へえ、そうなんだ。それならまだ見つけることができるか」


 ミナの言葉を聞いてアレクは少し安心することができた。目印があるところに埋めてあるならば、まだ間に会う可能性は高かったからだ。

 でも、三十年くらい前ならば目印が消えている可能性があるのではないか。そんなことが起きていないと信じたい。


「じゃあ、さっさと掘りに行くか」

「あ、道具はここにあるからね」


 すぐに家から出ようとしているアレクを見て、老婆は道具があるところを指差した。そこにはいくつかのスコップがあり、物が少ないこの家の中で異色を放っていた。


「そういえば魔法で掘ることはできないのか?」


 ふと、気になったことを老婆に尋ねる。老婆は今までいろんなことに魔法を使ってたので、地面を掘ることもできると思っていたのだ。


「流石にそれはできないね。あたしの魔力は少ないからそこまでのことはできないよ」

「それもそうか、そんな魔法が使えるのならもう掘り終えているか」

「そういえばまだ自己紹介していませんでしたね。わたしはミナで、こいつはアレクです」

「…………こいつってなんだよ」

「そうかい、あたしゃマリアだよ。これからよろしくね」


 *


「ぜぇ……ぜぇ……こんなに……大変だなんて……聞いてないぞ」

「頑張れー」

「最近の若い子は体力あるねぇ」

「コイツら……」


 数時間後、アレクは仰向けに倒れ込んで息を整えていた。アレクは休みなく続けていたが、ミナはかなり前から休憩し続けている。

 しかも、ミナはマリアと一緒にお茶を飲みながら地面を掘っているアレクに対して応援しているだけだ。何も手伝ってくれない。


「少しは……くらいは……手伝え……」

「一時間くらいは手伝ったよ」

「…………」

「それに今女子会をしているの、そっちに手伝う暇がない」


 もう返事をする気力すら失った。そもそも女子会って何なんだよ、それを理由にしてサボるな。リーネ達もたまに女子会と言っていた気がするが、一体何なんだそれは?


「それにしても大変そうだね」

「あたり……まえだろ……」


 アレクがこれ程疲れている理由はミナがサボっていることだけではない。ここら一帯の地面はかなり硬く、少し掘るだけでも体力をかなり使うからだ。

 そのせいで数時間かけても二箇所しか掘ることができなかった。この調子でいけば、タイムカプセルを見つけるなんて夢のまた夢だ。


「そろそろいいか、わたしも手伝うよ」


 そう言ってミナは倒れているアレクに近づいて手を差し出してる。その手を掴むと体力が見る見るうちに回復していき、三分くらい経った時には体力が全快していた。

 そのことに驚いてアレクは呆然としていた。三分くらいで体力が全快するなんて少しも予想していなかったからだ。しかし、何でミナはこの魔法をもっと前に使ってくれなかったのだろうか、そうしたらもっと楽に地面を掘ることができたのに。


「ミナの魔法って体力まで回復するのか?ありがたいが何で今まで使ってくれなかったんだ?」

「罰に決まっているでしょ」


 罰?言っている意味が分からない。何か悪いことをしたのだろうか、心当たりが全くない。

 ミナの言葉の意味が分からなくて混乱しているアレクの様子を見て、ミナはため息を吐いて罰を与えた理由を解説していく。その理由は納得できるものだった。

「マリアさんに言ったことを忘れたの?わたしはまだ怒っているんだよ。顔を机に叩きつけたことは悪いことをしたと思っているけど、まだ許したわけではないから」

「いや……それは……」

「何か文句あるの?」

「ありません!あの件は申し訳ございませんでした!」


 あの時のことを蒸し返されると本当に頭が上がらなくなる。自分でもあれは言ってはいけないとわかっているのだ。常識があるミナが怒っているのは当然のことだ。

 いくら何でも長すぎだろとは思わない。このことは一生許されなくても構わない。


「まあいいや、そのことは一旦置いといて。これからはわたしもしっかり手伝うから安心していいよ」


 そう言ってミナはスコップを持って地面を掘り始めた。ミナはアレクよりも力が無いためこの地面を掘るのに苦労しているが、それでも手伝ってくれるだけでかなり楽になった。

 しかし、ミナの様子を見るとアレクは一つの疑問が頭に浮かんだ。それはミナが手伝いに来るタイミングだ。


(今までならもっと早く手伝いに来てたんだがな。それほど怒っていたのか、体調が悪いようには見えないし)


 わざわざ怒りを煽る必要なんてないと思い、その疑問を口に出すことはしなかった。そして、その質問をしなかったことに後悔することになる。


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