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ある日の記憶(前)

『はぁ……はぁ……盗んできたぞ』

『しかも、今日はいつもより多くの物を盗むことができたぞ!』


 とある街の路地裏で二人の少年がたくさんの物を持ちながら走っていて、二人の少女と一人の男の子に呼び掛けていた。二人が帰ってきたことに気付いた少女たちは慌てて駆け寄っていく。


『やっと帰ってきた。大丈夫?今日は怪我していない?』

『おう、俺が怪我するわけねぇだろ』

『またそう言って……アレク、コイツが言っていることは本当?今日は怪我しそうにならなかった?』


 一人の少年と言い合いしていた少女はもう一人の少年に向かって解いかけた。アレクと呼ばれた少年は呆れた様子をしていたが、しっかりと質問に答えようとしていた。


『はぁ、レンもセラも大声で騒ぐな、耳が痛い。今日は誰にも見つからなかったから大丈夫だよ』

『ははは、あの二人はいつも喧嘩しているから仕方ないよ』

『リーネも呆れてないであの二人を止めてくれ』

『わたしはロイの世話があるから』

『リーネお姉ちゃん、アレクお兄ちゃん、どうしたの?』

『何でもないよ』

『あの二人に呆れてただけだ』


 そんな会話をしていた。その風景は家族のように見え、五人の仲の良さが感じられる。まあ、そのうちの二人はずっと喧嘩をしていたわけだが……。

 そんな二人を放っておいて、三人は盗んできたものを漁っていく。その中には盗んだばかりでまだ熱いパンや売れば高そうなアクセサリーなどたくさんの物があった。


『今日はたくさん盗むことができたんだね』

『ああ、これだけあったらしばらく生きることができるな。ロイ、これを食べて置け』

『いいの、このパンはまだ熱くて美味しいよ』

『気にするな。それに申し訳ないんだったら大人になった時に俺たちに返してくれ』

『分かった!』

『待て!俺たちを放っておくな!』

『わたしの取り分はまだ残っているよね⁉』


 喧嘩していた二人も参加してくる。そのように五人は暮らしていた。アレクとレンが物を盗み、その間はセラとリーネが盗んだ物の管理をしながらロイの世話をする。

 それで上手く暮らすことができていた。たから、この時は全員がこのままずっと暮らしていけると信じ込んでいた。


 *


『今日は盗みに行くの?』


 リーネがアレクに尋ねる。昨日盗んだ物で一週間くらいは生きる事ができるため、今日は盗みに行かなくてもよかった。

 しかし、アレクは盗みに行くことに決めていた。何故なら、盗める時に盗めるだけ盗んだかなければ後悔するかもしれなかったからだ。


(無くて困ることはあるが、有って困ることはないだろ)


『今日も盗み行くよ。ロイにたくさん食べさせてあげたいし』

『それならロイと盗んだ物はわたしたちに任せといて』

『ん?今日も盗みに行くのか?』

『あんたはアレクの足を引っ張らないでよ』

『お前は俺のことを何だと思っているんだ』

『『はぁ……』』


 相変わらず喧嘩し始めている二人を見て、アレクとリーネは心底呆れていた。一日に少なくとも三回は喧嘩しているため、よく飽きないなと思う。


『レンお兄ちゃんもセラお姉ちゃんも仲良くしてよ。仲良くしないと怒るよ』

『『だって、こいつが』』

『こらっ』

『『ごめんなさい……』』


 レンとセラはロイに怒られるまでは喧嘩を止めることが無いため、よくロイに怒られていた。その姿を見ていると、どっちが年上なのか分からなくなってしまう。


『ふふっ変わらないね、あの二人は』


 リーネはいつまでも変わらない二人を見て笑っているが、いい加減少しは変わって欲しいと思う。


『さっさと変わって欲しいけどな。…………それじゃあ行ってくるよ。レン、行くぞ』

『ああ、今行く!』

『足引っ張らないでよ』

『アレクお兄ちゃんもレンお兄ちゃんも頑張って』

『いってらっしゃい』


 二人はリーネたちにロイと今まで盗んだ物を預けて中央通りへ向かった。そうすれば、日々の暮らしがより良くなるとおもっていたから。


 *


『今日は何を盗むんだ?』


 レンがアレクに尋ねる。何故なら、アレクが五人の中でのリーダーであり、盗む物もこれからの方針も決めていたからだ。

 それで今までは成功し続けていた。だから、四人はアレクの言うことに従うし、アレクは自分の判断に絶対の自信を持っていた。


『昨日に食料は充分盗むことができたから、今日は金目の物を盗むか』

『りょーかい』


 そんなことを話していると、中央通りにたどり着く。

 騒ぎが起きないように巡回している憲兵、食材を買おうとしている主婦、屋台で焼き鳥を売っている男性、遠くから運んできた物を取引している商人、そこにはたくさんの人々がいた。

 二人は所々破れている服を着ているし、それに加えて多少顔を覚えられているため、そのまま中央通りを歩くとすぐに目をつけられてしまうので、物陰に隠れながら歩いていかなければならない。あいにく、道の端の方には複数の木箱があったため何とか隠れることができていた。


(今日はどれを盗むことができそうだ?)

(えーっと、あそこにいる商人が腰に掛けている革袋かな。さすがにあれを盗むと憲兵に追われることになるだろうけど、それはいつも通り路地裏を使って撒けばいいだけだし)

(りょーかい)

(リーネ達が待っているんだから、捕まらないでよ)

(はっ、それもそうだな)


 二人は物陰から出て商人に向かって走り始め、アレクが一瞬で商人の革袋を盗んでいく。その中にはたくさんの硬貨が合って、これからの生活が楽になるのは確実だった。


(これがあるならあいつらも)


『いた!今日こそは捕まえるぞ!』


 アレクが革袋を盗んだことに気付き、三人の憲兵が追いかけてくるが、それを予想していたアレクは素早く逃げ出していく。大通りにはたくさんの人がいるため、小柄なアレクは問題なく走ることができるが、鎧や武器などがある憲兵は簡単に走ることはできない。

 そのため、アレクはぐんぐんと憲兵と距離を離すことができていた。このまま行けば路地裏を使わなくても逃げ切ることができそうに思える。

 しかし、憲兵もそのことを理解しているため対策を立てていた。

 目の前に三人の憲兵が見える。なるほど、あの商人は仕込みだということだ。わざと盗みやすい位置に革袋を着けることによってアレク達をおびき出し、そのまま挟み撃ちにするという算段だった。


(へぇ、少しはやるじゃん。だけど、まだ甘いよ)


 アレクはそんなことを思いながら手に持った革袋を前にいる憲兵たちの頭上を越えるように投げる。憲兵たちがその革袋を目で追っていると、その落下地点に一人の少年、レンがいて革袋を掴んだ。そして、そのことに気を取られているうちにアレクが横を抜けていく。


『しまった…………急いで追いかけるぞ!』

『まだ追ってきそうだな、このまま路地裏に入って撒くか』

『いつもの道でいいか?』

『ああ』


 二人は路地裏に入って行く。そこは細かく入り組んでいる道だったが、何度も使っているので目を瞑って歩くことができるほど慣れている。だから、この道に入ってしまえば誰にも捕まることは無い。

 そのまま二人は逃走していき、昼過ぎまで誰にも捕まることは無く、完全に憲兵を撒くことができた。

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