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杖を無くした魔法使い4

(アレク!)


 ミナはアレクの危機に気づいて慌てている。このままでは大鳥に撃ち落とされてしまう。そうなってしまったらミナの回復魔法で元通りになる保証は無い。


(それだけは何とかして避けないと!)


 しかし、できることはかなり少ない。大鳥とアレクがいる位置はかなり高くてここからは何もできなくて、かといって落下してきたアレクを受け止めようとしても、その衝撃を受け止めることはできない。


「ルークさん、飛行ができるって言ってましたよね。アレクを助けることはできますか?」

「ごめん、それは難しい。飛行の効果は僕だけにしかないし、そもそも杖が無いから使うことができない」


 ルークが使うことができる魔法も今この状況で役に立たない。このまま何もできることは無く、アレクが落ちるところを見ることしかできないのかと思った時、アレクと目が合った。

 

((そうか、この方法なら!))


 その方法は一人の力だけではできないし、二人で協力したとしても失敗する可能性が高く、言葉を交わさずにタイミングを合わせるなんてことは不可能に近かった。

 しかも、相手が気付いているかも確認できない。どれだけ頑張っても相手がその方法に気付いていないと成功する可能性は零だ。

 しかし、成功するような気がしていた。何故なのかは分からない、気分だけで失敗するかもしれない、だけどその気持ちに従った。

 大鳥が突進してくる。足をこっちに向けてきて蹴り落そうとしていることが、やることは一つだけだ。

 周りが砂埃に包まれる。大鳥はこれで盗人を蹴り落すことができたと思ったのか、上に向かって飛んでいき巣に戻ろうとしていた。

 そして大鳥が巣に戻った時、何者かの手が杖に向かって伸ばされ。その杖を掴んだ。その腕は大鳥の足を掴んで巣があるところまで昇ってきていたアレクの物だった。

 大鳥は驚愕していた。あの時、蹴り落すことができたと思っていた盗人は、足を掴むことで落下することを防ぎ、しかも巣に辿り着くことができていたのだ。

 そのことに気付いた大鳥は慌てて盗人を振り落とそうとする。しかし、それはできなかった。急に盗人の腕が重くなり、足を動かすことはできなくなってしまう。


「悪いな、一緒に墜ちようか」


 それはミナの魔法が原因だった。アレクの身体に埋め込まれている楔の効果で手を放そうとすると体が重くなり、動かすことができなくなってしまう。その禁止される行動は、前もって打ち合わせなどしておらず、これを禁止すると予想しただけであって、もし間違えていたら今頃墜落して地面とぶつかっていた。


(危ない危ない、あっててよかった)


 ミナはこの行動を禁止すると思ってはいたが、間違っていた場合のことを考えると背筋が凍る思いをする。

 大鳥は全力で羽根を動かして上空へ飛ぼうとしていたが、何をやってもアレクが足を話さなかったせいで、ゆっくり地面に墜ちていく。


 「ルーク!」


 アレクは手に持った杖をルークに向けて投げる。その杖は正確にルークが立っている場所に落ちていき、ルークの手の中に納まった。


「結構高かったんだからもっと丁寧に扱ってほしいな。まあ、君がいなかったら見つけることができなかったからいいんだけど。さて、この恩を返すとするか」


 そう言って、ルークは浮かび上がってアレク達のところまで飛行していく。その飛行はとても速く、一瞬でアレクと会話できるとこまでたどり着いた。

 そして、ルークはアレクの方を見て話しかけた。


「やあ、心の友よ。助けに来たよ」

「いつから心の友なんかになった!」

「今、僕が決めた」

「勝手に決めんな!」

「そんなことよりこの状況をどうにかするよ」

「無視すんな!」


 そう言って、ルークは大鳥の近づいていく。大鳥はルークの方を睨んで攻撃しようとしていたが、アレクが足にしがみついているせいで何もすることができない。


「僕の杖を盗んだんだ。それ相応の報いは受けてもらうよ」


 ルークは大鳥の額に杖の先端を当て、何かをしている様子だった。すると、急に大鳥が意識を失っていまいアレクごと墜落していく。


「おい待て!俺がいるんだぞ」

「それは大丈夫。しっかり回収するから」


 大鳥が落下するより速く動いて、ルークがアレクを回収する。その時にはもうミナの魔法は解除されていて、アレクを抱えて飛ぶことができていた。

 そして、大鳥は墜落していき地面に衝突した。しかし、頭を打っている様子は無くて、まだ生き残っているように見えた。


「なんだ、生き残ったんだ」


 アレクは興味なさげに呟いていた。あれほどの怒りを見せていたのに、その生死には一切の興味が無いなんて予想外のことで、ルークは驚いて目を見開いていた。

 そのことに気付いたアレクは、少し考えた後に口を開いた。


「別に死んでほしいとは思ってない、嫌なことを思い出すから苛立っていただけ。これから盗むことはできなくなるだろうから生きていようが死んでいようが関係ない」

「それはどういう?」

「すぐにわかる」


 そんなやり取りをしながら二人は地上に降り立っていく。そして、地面に着地すると同時にミナが駆け寄ってきて、頭を叩いてきた。予想外のこと驚いてミナの方を睨む。


「急になにすんだ!」

「何であんなことをするの!もう少しで死ぬところだったんだよ!」

「仕方ないだろ、あれ以外に生き残る方法なんて無かったんだから」

「そっちのことじゃない、何も相談せずに一人で岩壁に昇ったこと」

「…………………………」


 何も言い返せず、ミナから目を逸らす。あれは怒りに身を任せて自分の身体のことなんて気にせず行動していたため、ミナに責められても仕方が無かった。

 それでも、この行動には後悔は無い。もし、あの時に戻ったとしても同じように一人で岩壁を登るだろう。


 (そんなこと言ったら、怒られるから言わないけど)


 そんなことを考えているとミナが睨んできた。こんな考えなんて見破られていて、内心ではかなり怒っていることがひしひしと伝わってくる。

 それを表に出さないのは生き残ることができたからなのか、それとも呆れて何を言っても無駄だと思っているからなのか。前者の方だと願いたい。


「…………そんなことより、あれはどうするんだ?」


 大鳥の方を指さして話を逸らそうとする。生きていようが死んでいようが興味は無いが、ミナやルークがどんな扱いをするのかは気になっていた。

 その言葉を聞いたミナは心底呆れた様子でもうアレクのことを責めようとしなかった。少し悲しい。


「はぁ、また話を逸らそうとする。…………まあ、いいや。ルークさんは大鳥のことをどうしたいですか?」

「杖を取り返すことができたし、もうどうでもいいかな。もう一回盗みに来るのなら容赦はしないけど」

「それならわたしが大鳥の扱いを決めてもいいですか?」

「うん、いいよ」


 その返事を聞くとミナは大鳥に近づいて行った。その様子を見てルークは疑問を浮かべている様子だったが、アレクにはミナが何をしようとしているのか予想できていた。

 ミナが大鳥の頭のそばでしゃがみ、手で大鳥の頭を優しく包んでいく。すると、ミナの手の平から光が出てきて大鳥の身体を覆っていった。

 そして、大鳥が意識を取り戻していき、目を開けて三人の方を睨む。その瞳は憎悪に染められていて、どれだけの怒りを三人に向けているのか理解できる。自分は他人から物を盗むのに自分の物を盗まれることは嫌う、なんて傲慢だろうか盗むのは盗まれる覚悟がある奴だけがすべきだ。


(まあ、俺はそんなこと言う権利は無いな。俺だって物を盗まれること嫌いだし許せない、理由はコイツと違うがな)


 他人から見たらこれは同族嫌悪なのかもしれないが、実際はそうではない。コイツとは表だけを見ると似ているが、根本は全くの別物だ。

 そんなことを考えていると大鳥が動き出し、杖を持っているルークに向かって襲い掛かる。だけど、そんなことは成功するはずがない。大鳥の翼が重くなり、地面にへばりつくことしかできなくなってしまう。


「はぁ、やっぱりこんなことになった。前もって楔を埋めていてよかったよ」


 大鳥が動けなくなった理由は単純なことだった。ミナは大鳥を治療している最中に楔を埋め込んでいて、治った後に三人が襲われることを防いでいたのだ。その手法は自分が治療された時にもされたことであり、また大鳥との共通点が増えてしまった。それだけは嫌だった。


「どんなことを禁止したんだ?」

「人間を襲うことと物を盗むこと、その二つは無くても生きていくことはできるでしょ」

「確かにな」


 これから大鳥は人間の物を盗むことができなくなる。大鳥にとって盗みを働くことは生きていくのに不要なことであり、それができなくなったところで生活できないわけではない。

 それは物を盗んだ割にずいぶんと甘い罰だった。まあ、大鳥と人間という種族の違いがあるため、罰を与える方がおかしいのかもしれないが。


「ルークさん、これでいい?」

「うん、いいよ。そもそも、僕はミナちゃんに任せたんだから、どんな罰を与えようが文句は言わないよ」


 そうやって話しているうちに大鳥は逃げていく。自分がどういう状態になったのか理解しているようで、人間を襲ったり、物を盗んだりすることを行おうとしている様子は無い。だから、翼の重みも解除されていて、大空に向かって飛び去って行った。


「ルーク、終わったぞ」


 これでルークの頼み事、杖探しは終わらせることができた。一週間見つかっていないと言われた時は、どれだけの時間が掛かるのか分からなくて不安になっていたが、結果は一日もかからずに見つけることができて二人は安心していた。


「そうだね、君たちには感謝の気持ちしかないよ。もし、君たちと出会うことが無いかったらこの杖を見つけることができなかった。そうだ!お礼を渡さなくては」


 ルークはそう言って、自便の持ち物の中から渡せるものが無いかと探し始めた。ミナはその様子を見て「お礼なんていらないよ」と言っていたが、その言葉を無視して探していた。やっぱりルークはこういう奴だ。

 しばらく時間がたってやっと見つけることができたようで、手には何個か石が握られていた。それは何の変哲もないように見えるが、ルークのような魔法使いが持っているものならば、何か予想もできない効果があるかもしれない。


「君たちにはこの石をあげるよ。この石は僕の魔法が埋め込まれていてね、壊すと身体強化や飛行することができるようになるんだよ」


 なるほど、便利なものだ。この石を使えば身体強化などができるようになるならば、これから盗みがしやすくなる。相変わらずアレクはそんなことを考えていた。

 そして、今までそんなことを考えていたらミナに何度も怒られたことを思い出して恐る恐るミナの方を見てみると、ミナは目を白黒させて固まっていた。何故そんな反応をしているのか分らない、どこに驚く要素があったのか。


「どうしたんだ?」

「えっ、アレクは驚かないの?」

「何がだ?」

「そっか、アレクは知らないんだった。石に魔法を埋め込むっていう手法はかなり難しくて、わたしの師匠のような例外は何人かいるけど、基本的には宮廷魔術師しか使うことが出いないんだよ」


 その宮廷魔術師というものがどれだけすごい人なのか分からない。だけど、ミナの反応から予測すると本当にすごい人だということが理解できた。

 つまり、石に魔法を埋め込むことができるルークは宮廷魔術師というすごい人というわけだ。


(は?こいつが?)


 それは本当に信じられなかった。人の話は聞かず、こんなところで昼寝をして杖を盗まれるような人が実はすごい人だと言われても、そう簡単に納得できない。

 何かの間違いじゃないのか、こんな奴がすごい人なんて信じたくない。


「おおー、良く気付いたね。僕は宮廷魔術師なんだよ」

 それはルークが勝手に言っていることだ、嘘に決まっている。

「あれ?信じてくれていない様子だ。それなら証拠に杖のマークを見る?」


 そう言ってルークは杖を二人に見せてくる。その杖には六芒星の印が書かれてあり、それを見たミナは心底驚いていで「本物だ……」と呟いていた。

 そのせいでどんなに否定したくてもルークが宮廷魔術師だということを否定できなくなってしまった。こんな奴がそんなすごい職業について大丈夫なんだろうか、いや大丈夫じゃないだろうな。


 「同僚の人に何か言われていませんか?」


 ミナが尋ねていた。その答えは簡単に予想することができたが、間違えている可能性もあるので耳を傾ける。むしろ、間違っていてほしい。


「ん?そういえば他の人に宮廷魔術師だと話すなっていわれてたっけ。イメージが悪くなるからって言われたけど、どういうことなんだろう?二人は分かる?」


 何も言うことができなかった。予想通りのことで呆れていたのもあったし、それを指摘してもルークが治そうとしているところが想像できないので言ったところで無駄だと思ったからだ。


「何でそんな奴がこんなところに居るんだよ」

「仕事が嫌になったから逃げているだけだよ」

「「……」」


 何でこんな奴が宮廷魔術師になることができたんだろうか。そう思いながらミナを見てみると、かなりショックを受けている様子だった。

 もしかしたら、宮廷魔術師というものに憧れを抱いていたのかもしれないが、ルークのせいで幻想が壊されたのかもしれない。これから優しくしよう。


「僕はそろそろ出発するね。二人とも、出会えてよかったよ。また会おう」


 そう言ってルークは飛び去って行った。その早さに付いていけず、二人は目を白黒させて茫然としていた。別れの時すらも自分のペースだったルークを見て、やっぱしルークはルークだと思う。


「嵐のような人だったね」

「ああ、悪い奴ではないんだけどな……」

「ふふっ、そうだね。また会えるかな?」

「生きているならまた会えるだろ」


 アレクは気付いていない。昨日までは死んでも問題ないと言っていたのに、今は生きているならまた会えるなんて言っていることを。それは無意識ではあるものの、これからも生きていこうとしているからであり、ミナの目標に近づいてきているということだった。

 ミナはそのことに気付いているが指摘しようとしない。指摘してしまったら意固地になってまた元の考えに戻る可能性があるからだ。

 それでも、アレクがこれからも生きていこうとしていることが嬉しくて満面の笑みを浮かべている。


「それじゃ、わたしたちも出発しようか」

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