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杖を無くした魔法使い3

(遠くに行きやがったな)


 時刻が昼過ぎになっても、三人は大鳥が飛び去って行った方角へ歩き続けていた。しかし、どれだけ歩いても、その大鳥がいた形跡すら見つけることができない。


「もう疲れたよ、お昼ごはんにしないかい?」


(どうせこのまま歩いても一向に見つけることができないだろうし、今のうちに休んでいくべきか)


 ルークがそう呼び掛けてきて、それに賛成することにした。さすがにアレクも空腹になっていたし、何よりミナが休憩したそうな顔でアレクの方をずっと見ていたからだ。


「わかったよ、ここで休憩しよう」

「昼ご飯は用意しているからすぐに食べよう!」

「お、おう」


 休憩しようと言った瞬間、ミナが満面の笑みを受かべてそんなことを言い出しているのを見て、少し引きながらミナの疲労を考慮するべきだったと反省した。

 そんなことを考えていると、ミナが一瞬で昼飯の用意を終わらして、地面に座っていた。あまりにも用意が早く、本当は疲れていないと思ってしまった。


「あれ?僕の分もあるのかい?ありがたいね、この一週間は山菜しか食べてなかったから」

「よく生きていましたね…………」


 そんなやり取りをして三人で昼飯を食べ始めた。それは二つのパンで肉を挟んだもので、今までで食べた物の中で二番目においしかったものだった。


「それにしても、鳥が杖を盗んでいたとは…………何で気付かなかったんだろう」

「どんなに眠りが深かったんだよ。普通あんなに大きな鳥が近づいてきたら気付くだろ」

「ま、まぁ、そんなこともあるよ」

「何かが羽ばたいている音が聞こえたせいで中々眠れなかったんだけど、そのせいだったんだね」

「「気づけよ!」」


 杖を無くしたのはルークの自業自得だと思う。何でこんな奴の手伝いをしなければならないのか、ミナの方を見てみると同じようなことを思っているような顔をしていて、ルークは本当にダメなんだなと理解した。

 そして、昼飯を食べながら、頭の中で杖を取り返す方法を考えていく。おそらく、杖は大鳥の巣の中にあると思うが、そこから回収することができるか分からない。あれほどの大きさの鳥だと巣はかなり高いところにありそうな気がして、そこまで登ることができるのか不安になる。


 「そういえばルークさんはどんな魔法を使うことができるんですか?」


 そんなことを考えていると、ミナがルークに質問をしていた。その内容にはまだ知らないところがあり、耳を傾ける。


「僕が使うことができるのは飛行と身体強化くらいだよ。杖が無いせいで飛行は少し浮くくらいのことしかできないけれど、身体強化は結構使えるかな」

「それでさっき走っている時に全く疲れていなかったんですね」

「そうだよ、君はどんな魔法を使えるの?」

「わたしが使うことができる魔法は回復などですね」

「なるほど、君はそういうタイプなんだ」


 魔法が使うことができないアレクにとって意味の分からない言葉が多かったものの、ある言葉を聞いて解決策のようなものを思いついた。


「身体強化って他人に使うことができるのか?」

「使うことができるよ。だけど、他人に使った場合は制御が難しくて複雑な動きができなくなるからおすすめはしないけどね」

「分かった。それなら問題ない」

「まさか……そんなこと考えてないよね……」

「ははは、そういうことか、君は面白いことを考える」


 その言葉を聞いて二人はアレクの考えたことを理解して、ミナは引いた表情を作り、ルークは腹を抱えて笑っていた。


「それじゃあ、食べ終わったことだしあの鳥を追いかけるか」

「食べ終わってすぐに走るのはさすがにやめてよ」

「さすがに僕もそれは勘弁してほしいな」


 そして、三人はまた大鳥を追いかけていく。


 *


 「アレク、何であの鳥に対してあそこまで怒ってたの?」


 三人が大鳥を追って森の中を歩いていると、ミナがルークに聞こえないくらい小さな声で質問してきた。それは今まで物を盗んで暮らしていたことを気遣っていたからなのかもしれない。


「いろいろあってな…………」


 その出来事はしっかり覚えているが、話そうとは思えなくて口に出すことは無かった。


『アレク……ごめんね…………』


 アイツらとの思い出は絶対に忘れたくないけれど、それでも所々消えてしまっていて、しっかり覚えている所はあまり無い。


「ふぅん、まあいいけど」


 その答えを聞いてミナはつまらなさそうに返事をしていたが,気にしている様子は無いように見えた。もしかしたら、この気持ちでさえ見透かされているのかもしれない。


「君たち内緒話をしないでよ。僕も入れてくれない?」

「こっちくんな」

「……ははは」

「君たち酷くない⁉︎」


 そこまで気を許していない。


「それにしても中々見つからないね」

「そんなもんだろ。そう簡単に見つかるようなところで巣を作るわけねぇし」

「僕もそう思うよ。あの鳥は寝込みを襲うほど狡賢いんだからね」

「それはお前の不注意」

「同意見」

「うっ、何も言い返せない……」


 アレクとミナは適度にルークを弄りながら歩いていた。ルークはしっかり反応してくれて、二人を笑わせてくれる。そのおかげで最初の悪印象も大分薄れてきた。

 そして、やっと巣を見つける事ができた。……予想していないところにあったが。


 *


 そこは岩壁だった。周りにある木よりも高い位置に巣があり、そこに杖がある事も確認できた。しかも、杖以外にも沢山のものがあり、あの大鳥がどれだけの物を盗んでいたのか理解する事ができた。


「すごいね、アレほどのものを盗んでいるとは。予想の遥か上だよ」

「しかもあの位置にあるのはかなり難しいですね。登れそうもない」


 杖を見つけることはできたが、回収をすることは困難だった。しかも、今は大鳥いないため何をしても邪魔されないが、大鳥がやってきたら難易度が跳ね上がることは明らかだった。


「……あの馬鹿鳥の奴はこんなこともしやがるのかよ」


 盗んだ物を一箇所に貯める、その行動を見ると嫌な過去を思い出してしまう。盗んだ物を溜めたりするな、盗んだらすぐに使え、そうしないと………………。


(チッ、今は昔のことを思い出している暇なんてねぇ。そんなことより、さっさと杖を盗む方法を考えろ)


「おいルーク、俺に身体強化を掛けろ」

「いいのかい?怪我をするかもしれないよ」

「ミナが治す」

「えっ,待って!」

「了解、掛けたよ」

「待ってよ!」


 戸惑っているミナを無視して岩壁を駆け上がっていく。確かに身体強化の影響で細かい動きができなくなり、何回か落ちそうになる。だけど、その程度に収まっているのは異常なことだ。普通の人がこのようなことをした場合は一瞬で落下してしまう。


「すごいね、あれは僕でもできないよ」


 アレクを見てルークが呟いていた。自分自身で身体強化を使った場合は、他人に使った時に比べて制御しやすいはずなのに、それでもできないようなことをアレクは成し遂げている。


「くっ」


 巣があるところまであと半分くらい登った時、岩壁のへこんでいるところを掴んで、両腕の力でぶら下がる。


(ここからどうすれば巣のところまで行ける?)


 アレクは上の方を見て、これからどうやって登って行くか考えていた。しかし、下の方から声がして、そっちの方を気にかける。


(なんだ?)


「アレク!鳥が来た!」


 その声に気付いて見上げてみると巣に戻ってきた大鳥が睨んでいた。この状況はとても不味い、少し攻撃されるだけでも落ちてしまう。しかも、今いる場所から動くことはできなくて、避けることすらもできない。


(この野郎、タイミングが悪いんだよ)


 もう少し前に来たのならまだやりようはあったが、一番来てほしくないタイミングで来てしまった。

 何とかここから逃げる方法を考えていくが、そんな方法なんて思いつくわけない。だって一人の力だけでこの状況を乗り越える方法は無いんだから。

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