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杖を無くした魔法使い2

(おい、なんなんだこいつ。急に落ちてきて頼みがあるとか言ってくるぞ)

(わたしだって知らないよ。こんな人今まで見たことない)


「返事が無いってことは肯定ってことだね。頼みを聞いてくれてありがとう」

「「ちょっと待て!」」


 二人が混乱して話し合っていると、何故か頼みを聞く流れになっていて急いで止めようとする。しかし、目の前にいる人は人の話を全く聞いていなかった。


「僕の頼み事はね『まだ聞くっていってねぇだろ!』ということなんだよ。それじゃあさっそく始めようか」


 そう言って目の前にいる人は案内を始めた。今の状況が本当に理解できない。混乱しすぎているせいで怒りさえも湧いて来ない。


「ちょっと待って、しっかり説明してよ。名前さえもまだ聞いてない」

「ん?そういやそうだった。ごめんごめん、つい気持ちが早ってね。僕の名前はルーク、これからよろしく」

「よろしくじゃねぇよ」


 まだ頼みを聞いてくれると思い込んでいるルークを見て、本当に頭がどうかしている奴だと言うことを理解した。

 こんなに頭がおかしい奴は今まで生きていて一度もあったことがない。何とかミナが意思疎通を測っていて、今までで一番感謝している。


「一旦落ち着いて、詳しく説明してくれない?」

「いいよ。僕は1週間くらい前にここら辺で昼寝をしていたんだ」

「何でこんなところで寝るんだよ」

「それアレクが言うの⁉︎今まで路地裏で寝ていたのに⁉︎」

「それはここみたいな自然が近くにあるところで寝るとよく寝れるからだよ」

「これは返事してくれるの⁉︎今までろくに話を聞いてくれなかったのに⁉︎」


 そんな感じで話を続けていく。たまにアレクが要らないことを呟いて、それに関してはしっかり返事をしてくれるが、必要なことに関しては頻繁に省くせいで話の進みがすごく遅かった。


「つまり……杖を無くしたから一緒に探して欲しいってことだね」

「そうなんだよ、どれだけ探しても見つからなくてね。君たちが来てくれて助かったよ」

「何で内容を聞くのにこんなに時間が掛かるんだよ」

「…………………………アレクにも責任があるからね」


 何故かミナが睨んでくるがその理由が全く分からない。自分が一体何をしたと言うのか、全部ルークのせいなのに。


「それでどうするんだ?こんな奴を助けるのか?」

「うん………………嫌だけど」

「そうか、俺もその意見に従うよ………………嫌だけど」


 そんなやり取りがあってルークを助けることになった。こんな人の話を聞かない奴を助けるなんて嫌だったけど。


「ルークさん、わたしたちも手伝うよ」

「おお、ありがとう感謝しかない。これも僕の人望のおかげかな」

「こいつ殴っていいか?」

「駄目っ!気持ちは分かるけどそれは禁止!」


 やっぱりこんな奴も助けるなんて嫌だ。


 *


「それにしても杖って必要なのか?元気そうだけど」


 三人で杖を探しながら歩いている時に、アレクが気になったことをルークに尋ねていた。ルークはこの森の中を軽々歩いていて、杖が必要そうには見えなかったからだ。


「この人が持っている杖はアレクが想像している物じゃないよ。その杖は魔法の補助に使う物なんだ」


 その質問に答えたのはルークではなくミナだった。探している杖が魔法に関する物だったから説明したのかもしれないが、アレクにはルークに話させたくないから説明したように思えた。


(それにしても「この人」って、ミナも大概こいつのことを嫌っているんだな……)


 人の話を聞かない人はミナでも嫌うことが分かり、自分はこれからしっかり人の話を聞こうと思った。こいつが酷すぎるだけかもしれないが。


「ん?それなら何でミナは杖を持っていないのか?」

「……………………高い」

「あー,なるほど」


 そのことを聞いて、ミナが買い渋るほど高い物なら今度杖を使っている人を見かけたら盗「あーれーくー」もうとは考えていない。


「な、何だ?」

「じー」

「ごめんなさい、申し訳ございません」


 何とか誤魔化そうとしたが、ミナには一切通用しなかった。何で考えていることをこんなに見透かされるんだろうか。


「はぁ、アレクのことは放っておこう。そんなことより、杖を見つける当てはあるんですか?」

「ないよ」

「え?」

「有ったらもう見つけてるよ」

「……………………この辺の枝でいいかな」


 ミナが苦労しているように見えて、少し優しくしようと思えてきた。まあ、こんなことを言ったら怒られるに決まっているが。

 それにしても、どんな状況で杖をなくすのだろうか。いくらなんでも一週間探しても見つからないのは考えにくいことだ。こう言うことが起きるのは誰かに盗まれたに決まっている。

 その時だった。


 ピーーーー


 鳥の鳴き声が森の中で鳴り響く。上を見上げてみると大人くらいの大きさの鳥が三人の上を旋回していた。

 アレだ。あの目線は見覚えがある。俺の、俺たちの物を盗もうとしているなんて、そんなこと許すわけないだろう。


「見つけた」

「「え?」」


 それだけは絶対に許さない。相手にどんな理由があろうと、絶対に。


 *


(急にどうしたんだろう?)


 あの鳥を見た瞬間、アレクの纏っている空気が変わった。何かが逆鱗に触れたのだろう。今までに見た怒りとは違い、心の奥底から湧き出ているような怒りだった。


(それに見つけたって言っていたけど、どう言うことなんだろう?アレクは街から出たことがないからあの鳥を見たことはないはずなのに)


 アレクの変わりようにミナは戸惑っている。それはルークも同じだった。他人の話を話を一切聞かないような人でさえ、その怒りに呆然としている。

 その怒りに当てられたのか、空を旋回していた大鳥が遠く飛び去っていく。


「追うぞ!」


 アレクがその大鳥を追いかけていく。急な展開に頭が追い付かないが、それでもアレクを信じて追いかけることにした。森の中は走ることが難しく、大鳥との距離がぐんぐん離れていくが、それでも走り続ける。


「ははは、森の中を全力で走ったのは初めてだよ」


 ルークが後ろで走りながらそんなことを言ってくる。何故こんな状況でしゃべる余裕があるのか、走りながら疑問が湧いてきたが、今はそんなことを無視して走り続けなければならない。

 しかし、大鳥と人間、空と地面、その差は埋められない。どんどん大鳥が遠ざかり、やがて見えなくなってしまった。


「チッ、逃したか。まぁ、方角が分かっただけマシか」


 それを見てアレクはやっと足を止めた。だけど、大鳥を追いかけることはまだ諦めていない様子で、大鳥が消えた方角へ歩き出そうとする。


「ちょっと…………待って…………急に……どうしたの……」


 息も絶え絶えになりながら、急に走り出した理由を問う。それを聞かないと、これから頑張れる気がしなかったから。


「そうだね、僕も気になっていたんだ」


 隣でルークも同じ質問をする。わたしとは違って息を荒げておらず、まだ余裕がありそうな事に腹が立ってくるが、わたしの変わりに質問してくれそうで少し安心する。


「それは杖を盗んだのはアイツだから」


 アレクは完結に説明してくるが、何でそのことに気付いたのかさっぱりわからない。

 しかし、アレクはその説明で充分だと思ったのか、また歩き出して行く。しかも、ルークもそれで納得したようで、一緒に歩き出していた。


「待って……何で……気付いたの……」

「あれは俺と同じ目をしていたから」


 アレクはまた簡潔に説明してきた。

 その説明で鳥が杖を盗んだことに気付けた理由は理解できたが、アレクの怒りの原因までは分からなかった。ミナはそのことも聞こうとしていたが、それを聞くことができる様子ではなかった。


(怒ってるね……でも、理由が分からない。過去に何かあったのかな?)


 アレクの過去にいったい何があったのか、そんなことを考えながらミナは二人を追っていく。

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