第七話
こうして勉強に集中しだした頃、壱夜の手がピタリ
と止まった。
行き詰まったのだろう。
今日の復習のあとは、明日の予習もある。
こんなところで止まっていては困る。
「何?どこが分からないの?」
耳に息がかかるくらい近いところに陸に顔がきてい
た。
びっくりして席を立ちかけたが、すぐに肩に重みが
かかって座り直した。
「あっ…えーっと、ここなんだけど…なんだっけ?」
「今日授業聞いてた?」
「聞いてた……はずなんだけど……」
全く覚えていなかった。
「素直なことはいい事だよ。ほら、こっちをみて」
「うん…」
頭を撫でられながら耳元からずっと話かけられた
のだった。
話す度に息がかかってゾクゾクする。
あれ?なんで?
いつも一緒にいるから何も感じてなかったけど、
間近で陸を見上げるとまつ毛も長くてカッコよ
く見えた。
ぷるぷると首を振ると、頭を切り替える。
陸は幼馴染みで、男で……。
「壱夜?どうしたの?熱でもある?」
「えっ……いや……」
すると、目の前に回ってくると額に手を当てて
から目の前に顔が近づいてきたのだった。
咄嗟に目を瞑っていると、そっと離れていった。
「少し熱いけど……問題なさそうなんだけどな…
勉強は朝起きてからにする?」
「いや……大丈夫…」
朝が弱い壱夜には夜の方がまだマシだった。
勉強と今日は簡単な柔軟だけにした。
壱夜の体調に合わせていく事にしたのだった。
学校では、数人の生徒達が先輩からの勧誘を受け
て部活動に参加し始めていた。
同じクラスで、同じ寮の仙堂は全く興味はないと
ばかりに全く動じなかった。
「瀬尾君だよね?バスケ入らない?確か君って中
学の時もバスケやってたって聞いたけど。うち
結構強いから、全国も目指せるぜ?」
「いえ、興味ないので…」
「そんな事言わないでさ〜、ほら、そっちの友達
も一緒にどう?」
友達と言われたのは一緒に横にいた壱夜だった。
壱夜は勉強も運動神経も良い方ではない。
体育の授業でやっても、ワンゴールすら決められ
ないほどだった。
「運動苦手だから…」
「瀬尾君、バスケ入ったら……女子にモテるぞ?」
「……」
周りに聞こえる様に言う先輩に他の生徒達の目が
煌めくのがわかった。
「バスケ入りたい人はこれ書いてな!絶対モテる!
どうだ?」
「結構です」
陸には全く響かないセリフだったらしい。
そういえば中学から一気にモテ出した陸は誰にも
振り向かなかった。
それは高校に入っても一緒だ。
「なぁ〜、陸ってどんな子が好みなの?」
気になって聞いてしまった。
多分、クラスの女子達が一斉に聞き耳を立ててい
ただろう教室でだ。
少し失敗したと思った。
ここで聞くべきではなかったかもしれない。
「やっぱりいいや……」
「元気な子……ショートが可愛いくて、腕にすっぽ
りはいるくらいの、いつも元気でまっすぐな子」
「ははは……結構具体的なんだな?」
「そうかな?そう言う壱夜は?」
「俺は……そうだな〜、おっぱいデカくて綺麗な子
かな〜」
一般的男子が思い描く水着モデルの子を想像してい
たのだった。
その日からクラスではショートヘアーの女子が一気
に増えた事は、きっと昨日の事が影響しているのだ
ろう。