第三話
食堂のご飯は少し薄味だったが、壱夜には美味し
く感じた。
一人ではない食事は大体は美味しいのだ。
「ねぇ、陸のもちょっと食べていい?」
「さては…味見したいんだろ?」
「えへへ…だって、そっちも美味しそうなんだもん」
「全く、ほら口開けろ」
そう言って陸は箸で掴むと壱夜の口の中に入れる。
それはいつもやっているかの様に自然で何もおかし
い事などない。
ただ、それを側から見るとどうにも二人の距離が近
い気がするのだった。
「君たちは……同室なのか?」
「うん、そうだよ。陸とは幼馴染みでね。一緒にこ
の学校受けたんだぁ〜、それに寮も一緒で安心し
てたところだよ。」
「……」
普通高校生にもなって、そんなに距離が近いものだ
ろうか?
そもそも、二人は距離が近い事に何も感じていない
のだろうか?
「いつもそんな距離なのか?」
「距離?何かおかしいのか?」
「そんな事はないよ。壱夜は普通だと思うよ?」
「だよね?仙堂くんって変わってるね〜」
壱夜の方は何も気づいていない様子だ。
だが、隣にいる瀬尾陸の方は確実に気づいている。
自分たちの距離の近さも、無条件で食べさせた時
も、あえて見せつけているかの様に感じる。
目が合うと、真っ直ぐに見つめる目が何も言うな
とでも言う様にキッと睨んでいた。
「まぁ、仲がいいのはいい事だな……」
「だよね〜。仙堂くんとも仲良くなりたいな〜」
「それは……ちょっと」
「なんで?せっかく同じ寮に住むんだし。これか
らもよろしくね」
「あ……あぁ……」
なぜだが、ぎこちない気がする。
その理由を壱夜はまだ、知らない。
風呂場は広く銭湯にでもきている様な大きさだっ
た。
洗い場で泡を立てて体を洗うと後ろから来た陸が
タオルをヒョイっと取り上げた。
「ん?りく?」
「貸せっ、背中届かないだろ?」
「お!いいの?ありがとう。次変わるよ」
「あぁ。頼む」
「任せろって」
男同士だからこそ、裸の付き合いができる。
これが女の幼馴染みだったら?
とたまに考えてしまうが、全く想像がつかない。
壱夜はまだ女の子と手も繋いだ事がないのだ。
高校に入ってからも童貞のまま。
早く彼女を作りたいとは思うが、それもなかなか
叶わない。
その最たる所以が隣にいるこの男。
瀬尾陸が原因である事を、全く気づいていない。
いつも牽制する様に側にいる上に、女性の目をい
つも釘付けにしてしまうほどのイケメン顔。
そんな男の横にいれば誰だって霞んでしまう。
天海壱夜とて、顔は可愛い系で、元気な爽やか青
年なのだ。
年の割に少し幼さが残る顔や性格から、誰からも
好まれる小動物的な立ち位置に見られがちだ。
「なぁ〜、なんか筋肉ついてる?」
壱夜は陸の体を洗いながらポツリと漏らしたのだ
った。






