第十五話
結局夜遅くまでかかってしまった。
あのあと美術部部長から本当に感謝され、色々と
お菓子も貰ってしまった。
「わかった?俺が逆らえない理由」
「あぁ、お姉さんの友人だったなら理解出来る
かも」
「だろ?だからこれからは壱夜も連れていくか
らな!」
「……うん」
誰か一人の女性と一緒にいるんじゃなくてよか
った。
ホッとした様に胸を撫で下ろすと、さっきまで
自分が抱いていた気持ちに名前がつく。
嫉妬。
そうだ、陸の彼女に嫉妬していたのだ。
結局は彼女でもなんでもなかったけど。
それでも、イライラして自分の感情が抑えきれ
なかった。
こんな気持ち、初めてだった。
ずっとそばにいて、ずっと一緒だと思っていた
から、気づく事ができなかった。
陸と付き合い初めてから、部屋にあるベッドは
片方しか使われなくなった。
毎晩勉強が終わると、誘われるように陸のベッ
ドに一緒に入る。
ただ、くっついて寝るだけなのだが最初は緊張
していたせいで、寝不足になったが、慣れてく
ると、隣にある暖かさにくっついて寝るのがあ
たり前になってしまった。
そして、今日も眠い目を擦ると陸より先にベッ
ドへと入り込んだ。
勿論、陸が使っている方のベッドだ。
陸も嬉しいのか、すぐに自分の身体を滑り込ま
せると布団の中に入ってくる。
いつのまにか抱き寄せられ暖かい熱に包み込ま
れる。
「愛してるよ、壱夜……おやすみ」
いつも眠る様に意識がなくなる前に言ってくる
台詞にも慣れてしまった。
「うん」と返事を返すとすやすやと寝息を立て
るのだった。
「テスト終わったし、週末デートしよう」
「……うん」
「約束だよ」
眠っている人にそういう約束はしないで欲しい。
しっかり聞こえているけど……。
こうして、朝になるといきなり昨日の約束を切り
出した。
「壱夜、昨日言ってた約束覚えてる?」
「約束?いつしたっけ?」
「夜に言ったでしょ?週末デートしよって」
「………」
「ほらほら、すぐ忘れるんだから。着替えて飯行こ」
「あぁ…うん」
知っている。
昨日壱夜が寝てから言っていた言葉だ。
勝手に約束を取り付けるのだ。
嬉しいからいいけど、週末……デートか……。
今日も気分が一気に浮上する。
教室では女子が囲う様に陸の周りを取り囲む。
全く脈無しなのに、それにすら気づかない。
「瀬尾君って今週末って暇?」
「忙しいから…」
「でもさぁ〜、勉強ばかりじゃ息抜きって必要
だよ?」
「そうだね……だったら好きな子とデートして
みよっかな〜」
「え…、好きな子?」
「うん、黒髪ショートの可愛い子なんだ」
「「!?」」
その場の女子の驚いた顔といったらなかった。
本当に見ものだった。
誰にも見向きもしない陸が、断る口実として
言っていた理想の彼女とデートをすると言った
からだ。
それは驚くよな〜。
最初は壱夜も驚いていたのだから……。
じっと眺めていると、陸と一瞬目があった。
いきなり微笑まれると、ドキリと胸が鷲掴みに
されたようにキュンとなる。
あぁ、これは心臓に悪い……。
真っ赤になって壱夜は顔を逸らしたが、その瞬間
バッチリ見ていた人物と目があってしまい、恥ず
かしくなったのだった。




