魔王復活
100年前、勇者ロトライト・グレイムーンが仲間たちと共に討伐し、この世界に平和をもたらした魔王ノクターヴァルス。その名は歴史書の中の伝説と化し、人々は長きにわたって安らかな生活を送っていた。しかし、その平穏は、ある日突然崩れ去る。
漆黒の夜空に、不吉な暗雲が渦巻き、雷鳴が大地を震わせる。冷たく不穏な風が吹き荒れる中、大陸全土に広がる邪悪な気配が、再び災厄の到来を告げていた。
「……まさか……魔王が、復活したのか……?」
その報せが王国中枢の魔法塔に届くのは時間の問題だった。魔導士たちは、この信じがたい事実に震え上がりながら、次なる指示を待っていた。
「……勇者の末裔を、全員集めよ!」
その命令が下されるや否や、各地に散らばるロトライトの子孫、グレイムーン一族の末裔500人が一斉に招集されることとなった。だが、ここで一つの疑問が浮かぶ――なぜ、こんなにも多くの子孫が存在するのか?それは、ロトライトが生前に無類の女好きで、各地に多くの子どもをもうけたためである。その結果、グレイムーン家は、今や一大勢力を成すほどに繁栄していたのだった。
王都の広場には、続々と集まるグレイムーン一族の末裔たち。戦士や魔導士、騎士たちがそれぞれの思いを胸に、大陸の運命を懸けた戦いに備えていた。その中には、17歳の青年ユウキ・グレイムーンもいた。
「魔王が復活……こんな時が本当に来るとはな……」
彼は剣の柄に手をかけ、不安と決意の入り混じる感情を抱えていた。ユウキは、標準的な剣術と基本的な魔法を使いこなすが、特に目立つ才能はなく、自分を「器用貧乏」と感じることが多かった。だが、彼がここに立っているのは、それだけが理由ではない。
「……アカリ……」
ユウキの脳裏には、幼馴染であり、かつての恋人でもあるアカリ・グレイムーンの姿が浮かんでいた。彼女とは数年前に別れたが、その未練はまだ彼の心に残っていた。そして、魔王討伐の使命を果たしつつ、彼女との関係を再び取り戻すことが、ユウキにとって最大の目標となっていた。
「ユウキ!」
その声に振り返ると、そこにはアカリがいた。彼女は相変わらず輝くような笑顔を浮かべ、ユウキに手を振っていた。アカリは17歳にして既に光の精霊術を使いこなし、その美貌と優れた技量で周囲から勇者の後継者として期待されている。彼女の真っすぐで健気な性格は、誰からも好かれる存在だった。流れるような黒髪に、大きな瞳――そして、凛とした表情が印象的な彼女は、まさに「次代の勇者」にふさわしい姿をしていた。
「アカリ……」
ユウキはその声に少し戸惑いながらも、彼女の姿を見て心が安堵するのを感じた。しかし、その安堵も彼女の次の言葉で一気にかき消された。
「私ね、カイルとリックを誘って、一緒にパーティを組もうと思ってるんだ!」
「……え?」
カイルとリック――彼らはどちらもアカリの元彼だった。カイル・ヴァルシアは派手な二刀流使いで、リック・ロベリアは頭脳明晰だが運動が苦手。彼女の過去の恋愛の相手であり、ユウキにとっては嫌でも意識せざるを得ない存在であった。
「二人とも、昔は色々あったけど、今は戦いが最優先だからね。きっと協力してくれると思うの。」
アカリの言葉は明るく前向きで、その場の空気を軽くしようとしていたが、ユウキの心は複雑だった。元カレたちとの再会――それが戦いの中でのことだとはいえ、心の整理がつかないままでは、すぐには割り切れない感情が湧き上がってきていた。
「……俺も、一緒に行くよ。」
ユウキは、アカリにそう伝えた。もちろん魔王討伐に参加するという使命感もあったが、それ以上に彼女との距離をもう一度縮めるための強い意志が彼を突き動かしていた。
「本当に?ありがとう、ユウキ!君が一緒にいてくれると、すごく心強いよ!」
アカリは無邪気に微笑んだが、その笑顔はユウキの心をさらに揺さぶった。自分の想いが彼女に届いているのか、それともただの友人としての絆なのか、彼はその答えを見つけることができないままだった。
翌日、ユウキとアカリは、王宮で行われる魔王討伐のための会議に出席した。広間にはグレイムーン一族の末裔たちが500人も集まり、彼ら全員が魔王復活という現実に直面し、重々しい空気の中で黙していた。
「勇者の一族たるグレイムーンよ!」
壇上に立つ王は、その重々しい声で彼らに訴えかけた。
「魔王ノクターヴァルスが復活した!かつてロトライト・グレイムーンが滅ぼしたその魔王が、再びこの地を脅かしているのだ。お前たちこそが、この国の希望だ!王国の未来は、お前たちに託されている!」
王の言葉に、広間中の空気が一層引き締まる。全員がその重大さを理解していた。歴史の中で語られる英雄の末裔として、自分たちが今その役目を果たす時が来たのだと。
「全ては……この戦いにかかっているんだな……」
ユウキは剣の柄を強く握りしめ、改めて決意を固めた。魔王を倒し、この国を守る――そして、アカリとの未来を再び手に入れる。その二つの目標が、今彼の中で熱く燃えていた。