表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
望郷のその先へ  作者: 柊明人
プロローグ
1/2

再誕

 順風満帆ではないにしろ、俺の人生は普通に充実していたと思う。幼いころに両親を事故で亡くしたが、当時は幼少であったため、記憶も朧気でほとんど実感というものは湧いていなかった。恋人もできた。大学に入学し、就職面接で有利になるようなエピソードも経験した。このままいけば、ちゃんと仕事も見つかって安泰な暮らしができたはずであった。

 だが、それは突然終わりを迎える。きっかけは単純な交通事故だった。大学の帰り道に歩道を歩いていると、前から大型トラックが中央線をはみ出してこちらに突っ込んできたのだ。トラックと俺との間には十分な距離があったため回避の余裕はあったが、俺の数メートル先に小学生の少女が立っていた。少女の脚力とトラックとの距離を考えれば逃げる余地はもうどこにも無いことは明らかであった。

 そこで、俺の身体がほとんど無意識といってもいいほどとっさに動いた。素早く駆け出し、少女のフードをつかみあらんかぎりの力を以て横に引っ張る。

 少女の身体は大きく横に飛び、トラックが通過するルートから外れた。が、俺にできたのはそこまでであった。アニメやドラマでよくあるようなぶつかる寸前に起きるスローモーションなど無く、なんの動作も出来ぬうちに数トンの鉄の塊が破壊的なスピードで俺にぶつかる。恐らく即死だったのか、俺の意識はぶつかると同時にプツンと途切れた。




 人は死んだらどうなるのか、誰しもが一度は考えたことがあるだろう。世間でもその話題や研究は絶えることなく、臨死体験をした人物が死後の世界を見たとかで騒がせたこともあった。

 宗教的視点で見てもとある宗教では、生前の行いに応じて死後に極楽か地獄のどちるかに向かうという極楽浄土などの教えや、身体という器から魂が抜け、浄化された後に新たな器に宿るという輪廻転生という考え方も存在している。それほど、人の死というのはまだ生きている人間にとって気にせずにはいられない現象であり体験なのだ。死後の世界がどうなっているかは本当に死んだ者にしか分からない、究極の証明に他ならない。

 かく言う俺もそういうのは熱心と言うほどでは無いにしろ興味はあった。高校や大学で倫理学、心理学、宗教学などを専攻し文献を読み漁った。

 どれだけ勉強しても体験してみないと分からない、そんなもどかしさと儚さを滲ませながら生きてきた訳だが、その『答え』は唐突として知ることになる。




 途切れた意識が回復していく、そんな感覚がなんとなくではあるが感じられた。まるで深い水底から水面に向かって浮かび上がるように、徐々に()の前の景色が明るくなっていく。


(あれ、確か俺は女の子を助けて、それで...)


 トラックにはねられて死んだはずだった。自信があるわけではないが、恐らく即死だったと思う。そう思うほどまでに、あのトラックはかなりのスピードを出していた。

 だのに、まだこうして「意識」がある。手足の感覚などは感じられないが、こうして柳裕翔の意識が存在しているのは明らかだった。

 俺は、意識の海の中で必死にもがきながら水面へと目指す。そうすれば、また新しい感覚を手に入れられると思ったが。なんとか思考を、脳を回すようにイメージしていると世界はどんどん明るくなっていく。そして...


「.........」


 周りの世界が明るくなったらと思ったら、急に目の前に見知らぬ景色が広がっていた。天井、照明、カーテンなど、自分が見知る物であったが、心なしかどれも古臭く見える。

 それよりも、目に入ったのは自分の目の前にいる男だった。視界がぼやけていてよく見えなかったが、かなり大柄な気がする。


「.....ろだと!?」


 その男は、何やら言葉を発していた。どうやら日本語のようだが、視覚と同じくまだ本調子でなく何となくでしか聞き取れない。だが、声色からして慌てているというのは分かる。


「....を持ってこい!今すぐにだ!」

「は、はい!」


 男がそばにいた女性に指示をだす。何かを持ってこいとは言っていたのだが、聞きなれない単語だったのか正確に聞き取ることはできなかった。


(なんだ、どうなってるんだ...?あれ)


 ここで初めて、身体が動かせるようになっていることに気づく。手も足も、ちゃんとある。恐る恐る手を握ってみると、しっかりとした感覚が返ってきた。指を動かすたびに、筋肉の収縮を感じる。この感覚は確かに自分のものであることを確信した。次に足を動かしてみると、少しぎこちないが、ちゃんと動く。

 だが、ここで決定的な違和感を感じてしまった。目に映った自分の手があまりにも小さく、そして感触も柔らかかった。そして身体を起こそうと思っても、手足をじたばたするのが精いっぱいで起き上がれる気配はみじんもない。


「あ、う...?」


 そして、この言葉足らずな舌。書物で何度も見た現象で俺はすぐに察してしまった。これは転生なのだと。




 



見切り発車&初投稿作品でございます。文章表現の違和感や誤字脱字があるかもしれないですが、なるべくそのようなことは無いように注意していきます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ