ロボ
三題噺もどき―よんひゃくななじゅうよん。
楽し気なトークが目の前で繰り広げられている。
久しぶりの妹宅。
もう時間も遅く、甥っ子は義弟と先に眠りについた。
妹は食後に風呂に入る派なので、今から風呂だと言っていた。
私は、夕食前には甥っ子と一緒に入ったので、リビングで1人。
「……」
テレビなんて、この家に来ないと見ない。
携帯でも今は見られるのだろうけど、あまり携帯の画面を長時間見続けて居られないので、私には向いていない。
テレビの大画面も、明滅が激しすぎると見てられないが、いま見ている番組はそこまでなのでぼうっと見る程度なら見て居られる。
「……」
これ美味しくなかったから飲んでみてと言われた缶酎ハイをちびちび飲みつつ、テレビをぼうっと眺めている。しかし、これホントに美味しくない。私なら気に入るとでも思ったんだろうか……それとも単に飲ませたかっただけか。
まぁ、飲めなくはない。
「……」
もう一口、口に運びながら、ぼうっとする。
いま見ている番組は、人間とロボットの特集をしているらしい。
近年よくささやかれている、AIの発展と、それに伴う人々の生活の移り変わりって感じだろうか。仕事がなくなるとか、無くならないとか。
「……」
まぁ、でも色々と便利ではあるよなぁ。
セルフレジとかも、その一環だろうし。あれがあれば、人件費は削減になるが、働く場所は減る。とか、そういう感じなんだろう。
なんか、今更感はあるが、今更というものでもないのだろう。これからの話だ。
……だからと言って、真面目に見たりはしないけど。
「……」
番組では、街灯インタビューが流れている。
人間がすることがなくなると言われているけど、どう思いますか―てな感じの質問。
見る限り、若者よりは人生の先輩方へのインタビューが多いように見える。
うんうん。彼らのお言葉はためになるなぁ……なんてことを、ぼうっと思いつつ。正直言うと、聞くべきはもう少し若い世代だと思うなぁなんてことも思う。
「……」
今後働いていくのは、人生の先輩ではなく、若者だろうに。
まぁ、でも。若者とまとめられてしまう子達は、自分でその辺は色々と調べたり、今後の生活がどうなっていくかとか、勉強したりしているのかもしれないな。生まれたときから散々言われてそうだもんなぁ……知らんけど。
……そういえば、この知らんけど、っていうのどっかの方言らしい。流行語になってたよな、たしか。知らんけど。
「……」
街灯インタビューが終わり。
切り替わった番組では、日々進化するロボットが写し出されていた。
工場で働くロボットや、人間の愛玩用として作られた可愛らしいロボ。
最後に映ったのは、人間の皮を被ったロボット。
「……」
ああいうのを見ると、変な鳥肌が立つのは私だけだろうか。
いや、人型ロボットはいいとは思うのだけど、どうも受け入れられない自分がいるのだ。
あれらがときおり見せる表情とか、変になめらかすぎる動きとか、口から発せられる音とか。
「……」
特に、電源を落とした後に見せるあの、無表情さはどうしても。
あれらロボットの無表情と、人間のみせる無表情ではどうにも感じるものが違うように思える。
人間の無表情は、恐怖を感じるのだけど、皮に包まれたモノが見せる無表情は、なぜだが嫌悪感を感じてしまう。気持ちが悪いと、思ってしまう。
「……」
その原因は分からないが……なんとなくでしかないものなので。
案外、私と同じような感覚になる人は、いそうな気もする。
あれだ、人形が怖かったり、着ぐるみが怖かったりするのと似てる。
まぁ、でも愛玩用の可愛らしいロボットは、少し背伸びして買ってもいいかなぁ、なんて思うことはときおりあるので、都合がいいちゃいいのだけど。
「……」
番組は進行し、芸能人や有識者が、各々の意見を述べたり、時折口論じみたりしている。
そのタイミングで、妹が風呂から上がってきた。
「……おもしろい?それ?」
新しい酎ハイを開けながら、隣に座る。
そういえば、この妹は昔着ぐるみをやけに嫌っていた。
幼い頃なんか、見るたびに号泣していたものだ。年を重ねても、嫌悪がぬぐえないらしく、あまり着ぐるみには近づかないらしい。
「……いや、別に」
「てか、それおいしくないでしょ」
そう笑いながら、チャンネルを変える。
ドラマをしているらしく、妹はその俳優が好きらしい。
表情の演技が上手いのだと。
お題:無表情・先輩・背伸び