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11 エンドロールに我が名を(3)

演劇×恋愛系ライトノベルです。

   *


 そして迎えた結婚式当日。

 ウェディングドレスに着替え、奈央子から借りたコサージュも上手く付けてもらい、あらかた支度が整ったところで鏡に映る自分の姿を見つめる。

 最終的に花嫁衣裳は、裾がひらひらしたAラインのシルエットに決まった。半年も前に試着してみせた奈央子の先見の明をひしひしと感じていると、同じく礼服への着替えを済ませた貴博さんが顔を出した。

「終わった?」

「わ!」

 鈍く光る銀色のタキシードに身を包んだ貴博さんが美しすぎた。何度見ても脚が長くてスタイル抜群だし、いつもは割と無造作な髪形も今日はばっちり決まっている。

 やばい、本当に格好いい。私、こんなイケメンと結婚してホントに大丈夫だろうか。

「え、すごく可愛い」

「はい?」

 自分の興奮を抑え付けるのに手いっぱいで反射的に聞き返すと、貴博さんは何の屈託もなく繰り返す。

「すごく、可愛い」

 それからスタッフが席を外していることを確認し、控室の扉を閉めた。

「今のうちに伝えておかないとさ。今日はもう、夜までバタバタして二人きりにはなれないだろうし」

 正式に婚約してから、彼は時折ものすごく甘い台詞を口にする。恋愛経験がないとかホントは嘘なんじゃないか。

「よく恥ずかしげもなく言えるよね」

「深雪こそ、初めから臆面もなく俺のビジュアル褒め称えていただろうが」

 言われてみればそうだった。なのに、自分の気持ちに気付いてからはどんどん引っ込み思案になってしまっている。

「実際素直になってみると、恥ずかしがってることの方が恥ずかしいってよく分かった」

 どんどん開き直っていく貴博さんが羨ましい。

「その思考回路、完全に役者向きだわ」

 近い将来御曹司から若社長にキャリアアップすることは分かっているが、これからも舞台の上やカメラの前に立ってくれないかと、ちょっと思ってしまう。

 しかしその期待に、彼は首を傾げていた。

「うーん。舞台に立つのは面白いけど、深雪が仕事人になるからな」

「仕事人?」

「ああ。たぶん深雪は、自分で思ってるよりもオンオフの切り替えが激しい。オンの時は最終決定権をきっちり握りしめていて、絶対に逆らえない感じ」

 そうだろうかと首を捻ると、貴博さんはちょっと悪戯じみた笑みを浮かべた。

「オフの時は結構ポンコツ。そのギャップが面白い」

 確かに油断するとすぐポンコツになる自覚はあるが……結局私は、彼にとって面白い女に違いないらしい。

「というわけで、キスしてもいい?」

「へ?」

 どういうわけで?

「すぐに結婚式でするでしょう。誓いのキス」

「だって人目があると深雪、芝居のスイッチ入るだろ?」

 あの千秋楽の舞台でも、貴博さんからすれば私はオンの顔して「ドンとこい」とばかりに構えていたらしい。

「結婚式はそれでいい、どうせ神様に見せつけるためのキスだから。でも俺は今、ウェディングドレスを着て最高におめかしした深雪と、普通にキスがしたい」

「最高におめかししたって」

 やはり貴博さんの愛情表現はストレートにして独特だ。そして私がいいと答える前に、そっと唇を重ねてしまう。

 唐突な幸せの味に、くらりときた。

「ちょっと貴博さん!」

「別にいいじゃん、減るもんじゃないし」

 焦る私を見てまた「可愛い」と呟くのだ。

「そういえば深雪、めちゃくちゃ面白そうな企画を俺に隠してただろう?」

「何急に?」

「舞台の上で結婚式をやってみたかったって、昨日勇也から聞いた」

「!」

 まったく、あの人はもう。

「そんなこと、できるわけないでしょう」

「まあ今更ないとは思うけど、検討に値する案でもあったと俺は思うぜ?」

 そしてこの人も本当に物好きだ。そういう男に惚れてしまったのだから仕方ない。

「あの、貴博さん」

「うん?」

「入ってきた時に言いそびれましたけど、めちゃくちゃ格好いいです」

 すると彼は、私が惚れ込んだ不敵な微笑みを作ってみせた。

「当たり前だろ。俺を誰だと思ってる?」

 脚本家で演出家の創作フリークが、ビジュアルだけでスカウトしてしまった顔だけ男。すなわち――。

「理想のイケメン、ってところかな」

 コンコン、と控えめにノックの音がする。控室のドアが開いて、スタッフからお呼びがかかった。

「行こうか、花嫁さん」

「はい」

 貴博さんが紳士的に右手を差し出したので、私もそっとその手を取り、二人揃って歩き出す。

 さあ、結婚式だ。新たな舞台の幕開けである。

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