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11 エンドロールに我が名を(2)

演劇×恋愛系ライトノベルです。

 そんな未来、勝手にシミュレーションしないでほしい。

「だからたぶん、奈央子の方が勘違いしてるんだと思う」

「はい?」

 今度は奈央子が怪訝な表情を見せる。

「俺は深雪と一緒にいい作品を作りたいのであって、恋愛感情はない。だから深雪がパトロンを捕まえてくれたのは、俺にとっても僥倖なんだ」

「ええ? それ絶対自分に言い訳してるやつじゃないですか」

 恋愛至上主義の彼女が突っ掛かっても、彼は表情を変えなかった。

「別に奈央子が疑う分には構わないさ。俺も自分が深雪のこと好きだと思い込んでた時期はあるし」

「そうなんですか!?」

 思わず聞き返すと、隣に座る後輩に「だから言ったじゃないですか」と小突かれた。

「でも突き詰めて考えた結果、俺にとって問題なのは深雪にパートナーができたことじゃなくて、そのパートナーから疑われたり、疑われなくても嫉妬されたりして舞台が作れなくなることだった」

 なるほど。男女の友情が成立するのかという議論がいつまで経っても終わらないのは、二人の間で友情が成立した後も周囲がやんや言い続けるからなのだろう。

「だったら貴博くんがウィンウィンで結婚を考えたように、いっそのこと友情結婚みたいな感覚で公私共々相棒になれるか考えてみたんだけど……無理だな」

「さっきから何で私、勝手にシミュレートされて勝手に振られてるんですか?」

「俺の演劇人生には深雪が必要だってこと、貴博くんが現れて俺も思い知らされたんだから仕方ないだろう」

 自分で自分の言葉にうんうん頷いている勇也さんもまた、生粋のエンターテイナーなのだろう。発想がぶっ飛んでいる。

「ついでにいえば、深雪のパトロンになりたい貴博くんとはむしろ仲良くなれると思うんだよな。同じ才能を買っているわけだから、俺が恋敵にはなり得ないってことさえ理解してもらえたら」

「だそうですよ」

 唐突に奈央子が、衝立の向こうを覗き込む。すると――。

 なんと隣の席から貴博さんが現れたのだ。

「何で……あ、だからわざわざ座敷で予約したの?」

「まあ、はい。貴博さんの独身最後の憂いごとは、勇也さんだったようなので」

 貴博さんが遠慮がちに――さすがにちょっと気まずいらしい――呆然と彼を見上げている勇也さんに話し掛けた。

「悪かったな。でも……俺からすればあんたは芝居のプロだからさ、どこまでいっても信用できないというか」

 その一言で、ポカンとしていた勇也さんにスイッチが入った。

「もちろん、もちろん。疑ってくれて構わないよ。ほら、世の中には釣った魚にエサはやらない男もいるだろう? でも、貴博くんが俺のことライバル視してくれているうちは、深雪に飽きることもないわけで」

「あ、飽きるわけないだろ!」

「分かってる、分かってる」

「そもそも深雪は魚じゃない」

「いいね、そこ否定してくれるんだね」

 友好的ながら妙にうさん臭さを伴った態度で、ポンポンと肩を叩きながら空いていた隣の席に貴博さんを座らせる。

「で、奈央子。もう他のメンバー呼べるよな」

「はい?」

「深雪の結婚祝いをするのに俺たちだけって変だな、とは思ってたんだよ。貴博くんの用件が済んだなら、最初に奈央子が言ったように独身最後の夜は羽目を外さないと」

「ですね!」

 奈央子もパッと笑顔に切り替わり、もうスマホで連絡を取り始めている。舞台俳優って恐ろしい。

「そういうことなら、俺はもう」

 腰を浮かせた貴博さんの腕を、勇也さんは放さなかった。

「何言ってるの? 貴博くん、公演の打ち上げの時も逃げたけどさ、深雪と結婚するならウチのメンバーとは仲良くなってもらわないと困るからね?」

「え?」

「もう舞台に立ってるだけのゲスト俳優じゃないんだから」

 こうなった勇也さんから逃げられるわけもない。およそ十五分後には、劇団カフェオレ勢揃いの宴会が始まっていた。


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