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11 エンドロールに我が名を(1)

演劇×恋愛系ライトノベルです。

 篠目家の人たちは総じて、そうと決まれば話が早い。おかげで年内に結婚式を挙げる準備が整ってしまった。

 大安吉日――その前夜祭。

 劇団カフェオレ御用達の居酒屋に、奈央子と勇也さんが私を呼び出した。

「さすが深雪さん、独身最後の夜こそ羽目を外すべきだって分かってますね」

「別に外さないよ?」

 いつものテーブル席ではなく、ちょっと広い座敷席を予約して私を待ち構えていた後輩の隣にそそくさと座る。向かいの勇也さんが「先に頼んでおいた」と示す先にはいつものハイボールがあった。

「改めまして、結婚おめでとうございます」

 乾杯もそこそこに、奈央子はすぐさま両手に収まるサイズの箱を取り出した。

「というわけで、これ」

 自ら蓋を開けてこちらへ差し出す。夢の実現を象徴するブルーローズが一輪、美しく咲き誇っていた。

「古い布で、新しく作った、青いコサージュを貸してあげます。この意味、分かりますよね?」

 一つ一つの単語を強調するように区切って口にする。

 ――古い、新しく、青い、貸して。

「サムシングフォーでしょう」

「正解です。だから明日、絶対にドレスに付けてあげてください」

 まったく頼もしい後輩である。笑顔で圧を掛けてくる。

 本来であれば四つの品を用意するところ、一つに集約して美味しいところを全て持っていく。この図々しさこそ劇団カフェオレの衣装係だ。

「本当はウェディングドレスを作りたかったんですけど。さすがにやめとけって勇也さんに止められてしまいました」

「当然だろう。ササメの御曹司の結婚式に、手作りのウェディングドレスなんか」

「なんかって言われるほど安っぽい作りにはしませんよ。貴博さんがオーケー出してくれれば、予算も使い放題だったはずですし」

 冷静に考えるとすごいことを言っているが、奈央子の感覚も理解できてしまう自分がちょっと怖い。

「実は私も、貴博さんから呆れられたんだよね。深雪の周りの人間は、何でも自前で済まそうとするよなって」

「周りの人間?」

「ほら。ウチの父親、パティシエでしょ?」

 どうやら娘の結婚式に、ウェディングケーキを作りたかったようなのだ。気持ちは分かると奈央子が激しく首を縦に振る。

「だけどササメといえばお菓子業界のドンじゃない。さすがにその御曹司の結婚式で、一介のパティシエがウェディングケーキを作れるわけがないというか」

 それでも一応プロなのだし、家族からのメッセージが入る分には良かろうと、プレートの一部を担当させてあげることができた。

「自前で済ますって言い方はしてたけど、やりたくてやってることは貴博さんも理解してくれてるはず」

 けれども親のために結婚を考え始めた人だから、そこはしっかり「ササメの御曹司」の役目を果たしたかったのだろう。結婚式も披露宴もこちらが引くほど豪華になる予定だし、特に親しい人はいないと公言している私の職場からも当然のように出席者がいる。

「ということで、コサージュは何としても持ち込むから」

「ありがとうございます」

 奈央子は満足げに頷いた後、今度は先輩に話を振った。

「勇也さんはいいですよね。自分が撮影して編集した映像が、堂々と披露宴で流れるんですから」

「いや、まあ……」

 彼も苦笑を隠せないでいる。

「俺が作ったというより、深雪たちが作ったものを形にしただけだから」

 結局のところ、自前に一番こだわっているのは私自身だ。結婚披露宴で流す映像といえば大概スライドか画替わりの少ないビデオメッセージがメインになるところ、新郎新婦が主演のちょっとした短編映画を撮影してしまった。

「お色直しの時間に流すんでしたっけ?」

「うん」

 自分たちで作ったものをわざわざ一緒に見る必要もないだろう。ある意味で私の初監督作品となった映像は、中座の間お客様を楽しませるものである。

「深雪さんは生粋のエンターテイナーなんですよね。私は自分が結婚する時にはもう、演劇から足を洗いたい気がしますけど」

 奈央子がこぼすと、向かいで勇也さんもぼそりと呟いていた。

「俺は逆だな。自分が一生演劇の沼から抜け出せないことに理解ある人としか、一緒になれない気がする」

「だから深雪さんだったんですか?」

「へ?」

 私だったって……何が?

「いや、今のはないだろう」

 勇也さんが奈央子に食って掛かるが、彼女は涼しい顔をしている。

「深雪さんの独身最後の夜ですよ。言うなら今しかないじゃないですか」

「……人の気も知らないで」

 彼はグラスに残っていたお酒を飲み干し、こちらに視線を寄越した。

「実は最後まで迷ってたんだ」

「何がですか?」

「結婚式に乱入して、深雪を連れ去れないかって」

「はい?」

 衝撃で声がひっくり返ってしまったが、相手は大真面目だった。

「でも、何度頭の中でシミュレーションしても上手くいかないんだよ。最後にはタチの悪い冗談だったことにして、俺と深雪で貴博くんに土下座する未来しか見えない」

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