10 告白する時、される時(4)
演劇×恋愛系ライトノベルです。
「やっと答えてくれたな」
「え?」
「俺のプロポーズ、何度受け流されたと思ってる?」
貴博さんが私を抱きかかえたままくるりと身を反転させ、二人でベッドの上に倒れ込んだ。その笑顔の背景に、白い天井が映る。
「深雪、一緒になろう」
仰向けになった私は、勢いよく首を縦に振っていた。
「はい!」
返事を待つまでもなく、彼は私に口づけた。その言葉とタイミングにしては控えめな触れるだけのキスにじらされ、すぐにこちらからも唇を重ねる。あとはもう、二人の欲望に向かって一直線に落ちていく。
たぶん今日、貴博さんには初めからそのつもりがあった。
篠目邸を抜け出してからこの部屋に向かったことに「たいして意味はない」と断言してしまうほど、エンゲージリングは些細なものだった。指輪はあくまで形であり、その先にある互いの気持ちを確かめるための演出に過ぎなかったということになる。
――と、彼が認識していたかどうかは分からないけれども、大粒のダイヤをあしらった指輪は抱き合うのにはちょっとだけ邪魔で、丁重に小箱に戻される。
そしてもう一度、仕切り直すように始まったキスは遠慮の欠片もない甘くて深いものだった。貴博さんの舌が私の口内を隅々まで犯していく。それだけで頭がしびれるほど幸せだった。
肩を抱いていた彼の手が、服の上からそっと全身を這っていく。優しく触れる指先が心地良い。
もっともっと、この人が欲しい。
「貴博さん、電気」
「ん?」
「消してください。そしたら」
布越しの愛撫じゃ足りない。今日の服装が露ほども色気のないティーシャツとジーンズをだったこともあり、さっさと脱いでしまいたかった。
……あれ、私はなんとはしたないおねだりをしているだろう?
「嫌だ」
「……え?」
「全部くれるんだろ? 今日は消さない」
意地悪く笑う貴博さんのどこが恋愛初心者なのだろうか。
煌々と明かりが降り注ぐ中、シャツはやすやすと脱がされてしまい、ジーンズのホックにも手がかかる。
「ちょっと、貴博さん……」
躊躇する私を見た彼は先に自らの衣服を脱ぎ捨てる。一糸まとわぬ姿になった貴博さんに再度抱きしめられ、数え切れないほどのキスを浴びるとなけなしの羞恥心はあっさりと敗北を認めた。
曝け出された胸のふくらみに彼の手が触れ、ゾクゾクと身体の奥がうずく。更に先端をつままれ、全身に電気が走った。
「ああん」
思わず声を漏らすと、彼はその先端を口に含み軽く歯を立てた。甘噛みに舌での愛撫も加わり、あまりの気持ち良さに、もう傍目にも分かるくらい震えてしまう。
直接触れ合う快感と誘惑に、抗えるわけがない。
結局、剥き出しの上半身をもてあそばれているうちに、腰にかかった手が下へ下へと滑り落ちていくことを許してしまった。
されるがままに裸になった私を貴博さんが上気した表情で見つめている。
「あんた、ホントにいい女だよな」
「へ?」
「ああもう、全部欲しい」
露わになった身体の中心へ彼の手が伸びていく。あられもない欲望で既にとろけきっていたそこを擦られると、泣きたいくらい気持ち良かった。
「いや、あ、あん」
目の前の男に縋りつく。
ぴたりと身体を寄せると、彼の心臓も私と同じように早鐘を打ち、その身には堪えがたい欲望が渦巻いていることが図らずも感じられた。
熱を帯びた視線がかち合うと、彼の指が、舌が、一層激しく動く。
「待って、ああ」
とっさに脚を閉じようとしたが、抱き合った時点でほぼほぼ身動きは封じられている。全てを見られた状態で、容赦ない愛撫が続く。
「やだ、貴博さん……」
思わず名前を呼ぶと、唇を塞がれた。貪るようなキスをしながら、彼の手がひたすらに甘い快楽を引き出していく。
「ごめ……待てない」
小さな尖りを執拗に責められ、全身が燃えるように熱くなる。
「だ、だめ」
キスとキスの間に、無意識にそう呟いていた。果てしない快感から反射的に逃れようとするも、形ばかりの抵抗は簡単に押さえ付けられてしまう。
その指先が、更に奥を探っていく。
「ホントに、もう……あ、ああ!」
頂まで昇りつめそうになった瞬間、貴博さんが不意に手を止めた。
「だめ、なの?」
「……やだもう、貴博さん!」
さっきと百八十度違う「やだ」を言わされた。
「貴博さんが欲しい。全部欲しい」
「うん」
最高にじらしてくれた貴博さんを自ら求める形になって、私たちは一つになった。先程まで恥ずかしがっていたのが馬鹿みたいに全て曝け出し、全力で求め合い、深く深くつながっていく。
悩ましげに顔を歪め、息を弾ませながらも突き進むことをやめないこの男が、私のために遠慮しているとはもう思わない。だから私もまた、安心して身を委ねることができていたのだろう。
「貴博さん!」
必死でしがみつく私を抱きとめ、同じ所へ導きながら彼は絶頂に達した。小さく唸ったその声が、ものすごく色っぽく響く。
「……深雪」
共にベッドに潜り込み、恍惚の余韻に浸る中、貴博さんは耳元でささやいた。
「愛してる」
ずっと欲しかった言葉を不意に寄越して、彼はギュッと私を抱きしめた。もし狙って告げたのならとんでもない策士だが、この男にそんな小細工などできないことは分かっている。
「私も、愛してる」
貴博さんの腕の中で、私は幸せな眠りについていた。




