ウォルファングの手紙 - 3
ウォルファングとリナリア、時々ロイク
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女神歴2074年 1月某日
ロイク・フォン・カレンデュラ
年が明けても冬の寒さが続きます。
先月、年末祭の時期にロータス少尉とオルキデア嬢の結婚式がありました。
式自体は簡略して行ったようで、教会で書類に署名をしただけのようです。その時自分は教会の周囲の護衛を任されました。
あまりにも早く終わったので知り合いくらい呼んでも良かったのではと思ったのですが二人の立場上それはできなかったそうです。
久しぶりに見たオルキデア嬢は見ない間に少し背が伸びていたように思います。黄色い翼も大きくなっていました。
ちなみにリナリアのことですが彼女はまさか蘭の花に傅くつもりなのでしょうか。
ウォルファング・ヴィスコ
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リナリア
自分の花を金盞花の花壇に植え替えたらしいな。知らなかった。
ウォルファング
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女神歴2074年 2月某日
ウォルファング・ヴィスコ
寒さも大分和らいだがまだ雪の降る日は続く。そちらはよくやっているだろうか。
君が気になっているリナリアことだが、ルークが卒業したこともあってリナリアは自分で考えるようになった。
とはいえ私は彼女を本気で跡継ぎにするつもりはない。
それに君が懸念していることはないはずだ。
見知らぬ狼に目を付けられる可能性はあるかもしれないが、蘭の花にたかっていた蜂に惑わされるのは彼女がその道を選ばない限りないだろう。あったとしてもこちらでなるべく露払いはする。
彼女の生まれで後ろ指を刺される数が多くなるかもしれないが、フィアよりは少ないはずだ。
それに私は選ぶ道を増やすために手を貸してやっただけだ。彼女の婚姻相手も進みたい道も彼女本人に選ばせる。
ロイク・フォン・カレンデュラ
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女神歴2074年 2月某日
ウォルファング・ヴィスコ
私の花がどこにあろうと貴方たちの花壇から遠いのに変わりないでしょう。
リナリア・カレンデュラ
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女神歴2074年 3月某日
ロイク・フォン・カレンデュラ
まだ春とは程遠いです。お元気ですか。
今年も迎春祭の時期となりました。
領地や街ごとに日付をずらして警備するのは相変わらずですが、人の出入りは昨年より多くなると思います。お気を付け下さい。
フィーが高等部に進学します。
学費は貴方のおかげで困ることはありませんが、それ以外の制服代や雑費の資金繰りしようとしていました。自分の作った軟膏を薬屋に売るのだと意気揚々としてましたが、自分がそれを大将に話せば慌てて用意してくれました。ターゲス大将には頭が上がりません。
フィーはあの軟膏はたまに作って薬師に売るようになりました。自分でお金が稼げると気付いて嬉しいのかもしれません。
素材が素材なので材料をそろえるのに手間がかかるということもありフィーもたまにしか作れませんが、薬草自体はフィーも自分の魔法で用意できるようになって来たので種類が増えました。また孤児院に送るそうです。
ウォルファング・ヴィスコ
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女神歴2074年 3月某日
リナリア・カレンデュラ
自分の花が咲く場所はもう戻ってこない。
自分の花すらどこにあるのか分からないのに遠いなんて言うなよ。
ウォルファング・ヴィスコ
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女神歴2074年 4月某日
ウォルファング・ヴィスコ
シンビジウム家へ行儀見習いに行くことになりました。
先代の当主は父にとって義理の祖父母にあたる人らしく、カレンデュラの領の隣にある子爵家だそうです。
行儀見習いが具体的に何をするのかは分かりませんが、夫人には御近付きの印にフィーの作ったクリームの一つを渡すつもりです。勉強になることもたくさんありそうです。
予定も不確定であるためしばらく手紙は送れないかもしれません。
この前の手紙は不躾でした。ごめんなさい。
リナリア・カレンデュラ
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女神歴2074年 4月某日
ロイク・フォン・カレンデュラ
リナリア
春の陽気が心地良い季節となりました。お元気ですか。
手紙はロイク殿だけでも良かったのですが、一応リナリアにも宛てました。
彼女がカレンデュラに帰って来た頃にでも渡してください。
この前オルキデア夫人に勿忘草が贈られてきたそうです。
贈り主は元老院の議員のご夫人だったようですが、オルキデア夫人が密かに開いたお茶会の噂を聞き付けたのは良いけど自分が誘われなかったのが悔しかったそうです。
ロータス少尉が雑談交じりに大事なことを言うので気が抜けません。
フィーは無事高等部へ進学しました。
既にご存知かと思いますが、呪術専門の教授の研究室に入ることに決めました。
あの軟膏のこともあるので薬学でも良かったのではと思いましたが彼女は以前から決めていたそうで、勧誘されても頑なに断り続けました。
初めは身包み剝がされるのを危惧したのですが、教授の遠縁であるらしい御令嬢が研究室に入り睨みを利かせているのでとりあえず安心でしょう。フィーと同学年なので授業も重なる頻度が多いそうです。
ウォルファング・ヴィスコ
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女神歴2074年 5月某日
ロイク・フォン・カレンデュラ
リナリア
天気の変わりが激しい時期となりました。
アジサイの花を初めて見ました。ターゲス大将の側近兵にその名を持つ方がいますが、彼も実際の生花を見たのは王都に来てからだそうです。
魔術道具のペンが届きました。フィーが喜んでいました。
わざわざ自分にもありがとうございます。
学院の高等部は比率として男性が多いです。護衛が睨みを利かせているのですがそれでも懲りずに話しかける生徒が絶えません。
フィーは特に気を留めることはなく平然と己が平民であることを盾に彼らを避けているようです。
同じ研究室にいるフィーの同級生がそれについて指摘してきましたが、首を傾げていました。
ウォルファング・ヴィスコ
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女神歴2074年 8月某日
ロイク・フォン・カレンデュラ
リナリア
暑い季節となりました。そちらはお元気ですか。
最近のフィーは件の御令嬢からマナー指導を受けるようになりました。
自分はマナーについてはよく分かりませんが、フィーのマナーや振る舞いに不足があったそうです。学院に来てからも上達しつつあるのですが、それでも放っておけなかったのでしょう。彼女はかなり真っ直ぐな性格をしていました。
練習のお茶会では小等部の頃からの友人も参加するようになり、フィーは嬉々として手製のお茶菓子を作ってくるのですが、研究室に在籍しているメンバーもそれを楽しみにしていました。
御令嬢や友人は兎も角、他の者達が見返りもなく菓子をくれることを期待している様子を見ていると無性に腹が立ちます。
ウォルファング・ヴィスコ
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女神歴2074年 9月某日
ウォルファング・ヴィスコ
森の木々が鮮やかに染まる時期となり、物寂しくなりつつあります。
先日滞在しているお邸で母の花が咲いているのを見かけました。きっと父が花を母の墓に供えている頃でしょう。
私宛に手紙を送ってくれてありがとう。感謝します。
行儀見習いに行っている間も父から手紙が転送されました。ですがフィーの話が少ないように思います。
行儀見習い振る舞いが一朝一夕で完璧になることはありません。私も礼儀作法はガーベラから学んでいましたが、彼女も侍女としての振る舞いしか知らなかったため、私も矯正するのはとても大変でした。
フィーも元は活発な性格をしているのできっと大人しくするのは大変でしょう。
フィーが作ったクリームはシンビジウム子爵夫人から好評でした。友として誇らしいです。
夫人からはおばあ様について色々お話を伺いました。シンビジウム家はおばあ様の実家になるのでおばあ様は数年この邸に滞在していた時期があるそうです。
おばあ様がシンビジウム家の養子になられた時には既に十四歳と成人していましたが、年も近いこともあって義理の姉として話相手になったこともあったそうです。
なぜ父からの要望に応えてくれたのかその理由も分かりました。
リナリア・カレンデュラ
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女神歴2074年 10月某日
ロイク・フォン・カレンデュラ
秋の味覚が増える時期となりました。お元気ですか。
先日リナリアから手紙が届きました。元気そうでなによりです。
近々遠征訓練を行います。成人した兵士が参加する訓練なので自分が参加するのは初めてです。
一ヶ月程の期間シャトーバニラから離れることになりますが、選抜された兵士が行くのでフィーの護衛が手薄になることはないでしょう。
シャトーバニラに配属されていない地方の部隊も合同で参加することになるので、孤児院にいた卒業生と会えるかもしれません。
ウォルファング・ヴィスコ
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女神歴2074年 11月某日
ロイク・フォン・カレンデュラ
リナリア
秋も深まる季節となりました。そちらではすでに雪が降り始めているのではないでしょうか。
この手紙を書いた日の先週に遠征訓練から帰還しました。
訓練ではリアムも参加していました。リアムも数年シャトーバニラにいるくらいですからそれなりに強いのでしょう。
訓練中、各部隊の選抜メンバーと関りを持ちましたが、全員ターゲス大将の養子である自分がどんな人間なのかに興味を示しているようでした。正直気安く話すことは難しかったです。
リアムの紹介で孤児院の卒業生を三人会うことが出来ました。自分が孤児院に来た時にはすでに卒業していた人達です。
孤児院の皆の話をしましたがロイク殿の奥方が死んだことは知らなかったようです。手紙を定期的に送って色々話をしていることを伝えると可哀想な目を向けられました。
これは返事を書かない貴方が悪いと思います。
一ヶ月離れている間にフィーの言葉遣いが変わってしまいました。
口調や振る舞いが貴族らしくなったのですがターゲス大将ですら違和感を抱いて困り果てるほどで他の護衛もやりにくかったそうです。
それと同時にフィーの様子がおかしかったので以前貴方が衣服づくりに熱中していたガーベラの意識を戻すためにわざと怒らせていたことを思い出してそれをすれば元に戻りました。
原因は同じ研究室にいる同級生と当時護衛に回っていた貴族出身の兵士のようでした。
色々聞いていると要因となった同級生が魔法も魔術も使わず洗脳や暗示に近い方法でマナーを叩き込んでいたらしく、切り替えることが出来なくなっていたそうです。
当人たちには厳重注意をしました。
ウォルファング・ヴィスコ
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女神歴2074年 12月某日
ロイク・フォン・カレンデュラ
リナリア
シャトーバニラでも雪が降る時期となりました。お元気ですか。
新聞にも載っていますが学院の年末祭のパーティーで毒物騒ぎがあり、フィーもそれに巻き込まれました。
犯人はすでに処分が下されましたが、調査の途中でフィーにはその毒がほとんど効かなかったということでフィーが疑われました。
フィーがそれをリナリアの魔法によって付与された毒の抗体のおかげだと訴え、急遽証人として呼び出された自分が毒の入った食事を試食することで彼女の無実が証明されました。
パーティーは学生と教授しか参加できないもので護衛を付き添うことが叶わず、エスコート役も研究室のメンバーの一人に頼むことになっていたのです。
犯人もそれを分かっていてフィーに盛る毒をわざと減らして罪を擦り付けようとしていたので酷いものです。
今回はある意味リナリアのおかげで助かったのですが、彼女の魔法の効果が今も残っているのはある意味恐ろしいですね。
この抗体は仮に彼女が先に死んでも残ったままなのでしょうか。
ウォルファング・ヴィスコ
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女神歴2075年 1月某日
ウォルファング・ヴィスコ
成人おめでとう。君たちに直接言えないのが残念だ。
私も新聞を読んだ。学院のパーティーでは災難だったな。
フィアに余計な疑いがかけられたのは遺憾だが、君もフィアのために毒の入った食事を口にした勇気はどれほどのものだっただろう。
仕事上君が自分を犠牲にしなければならないのは複雑だが、無事でよかった。
リナリアもまだあの抗体が効いているいるとは思わなかったようで驚いていたようだ。
リナリアの作った抗体は彼女の魔力で出来ているが、彼女が死んだら効果が全て切れるということは理論上ありえない。だが定期的に抗体を入れないと効果は薄れるだろう。
自分やフレイもどれくらいの期間効果が残っているのかまでは確認できずにいたから、いつまで持つかも分からない。
今回のことを受けて彼女も行儀見習いから戻ってきたらアイーシュにいる卒業生達に自分が入れた抗体再度確認すると意気込んでいた。
本当なら軍にいった者やフィアのような危険と隣り合わせの者に確認出来たら良かったのだろうが難しいだろうな。
ロイク・フォン・カレンデュラ
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女神歴2075年 3月某日
ウォルファング・ヴィスコ
春の気配を感じる時期となりました。
シンビジウム家のお邸はカレンデュラ家よりも標高が低いせいか少し暖かい気候です。彼女の花が咲くのが待ち遠しいです。
来月にはカレンデュラに戻るのでお互い手紙も送りやすくなるでしょう。
行儀見習いの間、カレンデュラにおける情報網の不足を痛感しました。
シンビジウム家では嫡男がシャトーバニラで勤めているらしく、その子供達も魔術学院ではない別の同じ街の学校に通いながら社交を重ねていたらしく、領地にもシャトーバニラの情報が良く届くそうです。
孤児院の卒業生の中で何年も手紙のやり取りをしてくれているのは貴方やフィーくらいです。
ですが卒業生に情報を収集させるような真似をすれば彼らも巻き込みかねないのが現状、彼らの背後にカレンデュラ家がいることを危惧する貴族はそれなりにいるそうで、侍女や従者として雇う家はかなり少ないのだそうです。
それに軍でも手紙のやり取りについて一部規制をしているのですから、それを知って届かない手紙を送ろうとは思わないのでしょう。
毒物騒ぎのことですがフィーはともかく、貴方まで効果が残っているとは思いませんでした。
貴方も私の抗体がなければフィーの嫌疑を晴らすことは出来なかったでしょう。ありがとう。
リナリア・カレンデュラ
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女神歴2075年 5月某日
ロイク・フォン・カレンデュラ
木漏れ日の心地いい季節となりました。お元気ですか。
先月自分の階級が上がりました。上等兵です。
ロータス少尉から階級を示すバッジを渡された時はなんてことはなかったのですが、昇級した者は掲示板に貼りだされるので、知り合いの兵士から数人に褒められました。
最近フィーは研究室に滞在する時間が長いです。
元々彼女は授業の時間を知らせないといけないくらい何かに没頭していることが多いのですが、そんな彼女に教授が古い本の翻訳を依頼することもあるので猶更集中するようになりました。
タイプライターという道具をご存知でしょうか。最近売られるようになった道具なのですが、使いこなせれば手書きよりも早く文章が書けるようになる道具があると知って驚きました。
没頭することも多いため、同級生の御令嬢が決まった時間にお茶を提供し休憩する習慣が出来ました。
その同級生はカメリア=レベッカ・ローレルという名で魔術道具を扱う商会を営んでいる家のご令嬢です。
定期的に試作の魔術道具を持ちこんでは自慢しながら使い勝手を周囲に確認しておられます。なぜ魔術道具専門の学部に入らなかったのかと疑問に思います。
ウォルファング・ヴィスコ
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女神歴2075年 5月某日
リナリア・カレンデュラ
道端や訓練場の隅で義姉の花を見かけるようになりました。そちらはお元気ですか。
先月上等兵になった。二等兵からの飛び級だ。
昇級試験に年齢制限がかけられていたから今の立場がもどかしかったけどやっと受けることが出来て嬉しい。
最近の義姉は研究室にこもる時間が多い。
古い本を読めるようになったこともあって今の言葉に翻訳した写本を作るようになった。
手書きだと大変そうだと思ったけれど、タイプライターという紙に一文字ずつ印を押すことで文章が書ける道具があって、それを使って文章を綴っていた。
物によっては魔力なしで動かすことが出来るらしい。
最近少しずつ売られるようになった道具みたいで、はじめて見た時は少し驚いたけど使いこなすには少し時間がかかりそうだ。
彼女の同じ研究室にいる同級生ですが、少し貴女に似ている気がします。
貴女がさらに高圧的になり、毒舌を減らせば彼女のようになりそうです。
ウォルファング・ヴィスコ
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女神歴2075年 6月某日
ウォルファング・ヴィスコ
雨の多い季節となりましたが、昨日晴天だったので庭で小さい子たちと花冠を作りました。
その際に四つ葉のクローバーを二つ見つけました。花と一緒に押し花の栞にしたのでフィーと貴方に贈ります。ところでクローバーの花言葉をご存知でしょうか。
昇級おめでとう。
騎士になるまでには道のりは長そうですけど。
そういえば私が以前お会いした時、ロータス卿は随分と若かったように存じます。
若い身空で騎士になられるなんて、余程凄まじい努力をなされたのでしょう。
カレンデュラに戻ってからは、週に二日ほど協会へ通う生活が始まりました。
今は書類の読み方を学びながら、伝票などの計算をしています。
タイプライターは私が行儀見習いに行っている間に父が購入したようです。魔力が要らないものですが、その分とても精密な作りになっていました。
貴方もご存知でしょうが父は寛容ですから、目新しいものは独占せず平民にも使わせます。協会にも代筆部門に数台置いてありました。
筆記の個性が出ないので公式文書はタイプライターで書くと決めたそうです。署名は流石に魔力ペンを用いた直筆ですけどね。
診療所は今も休診日と協会に行く日以外は通っています。
毒の抗体についてフレイ先生とお話しする機会があり、抗体の魔力を魔石化することが叶ったのでそれを調べられています。
先生は私がウイエヴィルに通うようになったことを知ると、ウイエヴィルの病院に私を連れて行ってはそこで勤めている先生方に私と私の魔法を紹介しては私の魔法や魔力の調査結果を見せたことがあります。
その時私は初めてフレイ先生に対して殺意を持ちそうになりました。
リナリア・カレンデュラ
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女神歴2075年 6月某日
ウォルファング・ヴィスコ
少しづつ夏の気配を感じる時期となった。元気にしているだろうか。
昇級おめでとう。
君がそうして成長していくのは誇らしく思う。
今の軍は君にとってどう見る。
ロイク・フォン・カレンデュラ
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女神歴2075年 7月某日
ロイク・フォン・カレンデュラ
夏の暑い季節となりました。お元気ですか。
貴方からの手紙から考えました。
側近兵ほどではありませんが、ターゲス大将の弟子として彼の近くで仕事や訓練をすることはそれなりにありました。
貴方がどういう意図でそんな手紙を書いたかは存じませんが、自分自身、軍も上層部に行けば行くほど貴族のやり取りとそう変わらないように思います。かつては身分に応じて階級もあげられたからでしょうか。
軍に行くものは皆強さを求めたり守りたいものがあるという理由で入る者は少数派であることは軍に入ってから思い知らされました。
ですが内乱以前から軍にいる者、内乱中に軍に入った者、内乱明けに軍に入った者で軍人たちの雰囲気に何か違いがあるように思いました。
自分は内乱以前の国や軍を知りません。その違いが分からず、ターゲス大将の側近兵に問うたことがあります。
その答えは誰かに忠誠を誓うことができないこと、守る相手が自分か他人かの違いだとおっしゃっていました。
特に内乱前に従軍した者は誰かに対して裏切られたと感じたと思う者が多いそうです。
その理由ははっきりと分かりませんがその行き先が今なのだとしたら、その不満は相当だったでしょう。
六月に軍事学校の生徒との合同試合を行いました。
彼らは貴族家系出身の人間が多いですが、入学早々に行うブートキャンプで貴族としての矜持がとことん折られるため、孤児だった自分を見下すことはありませんし、試合を行う際も卑怯な真似をしませんでした。
ベノム少将がターゲス大将の意志を尊重して騎士の質が落ちないよう学校の方針を変えたのだそうです。
貴方の質問の答えですが、質問の意図が分からないのではっきりと言えません。
だけど今の生活は悪くないと思ってます。
ウォルファング・ヴィスコ
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女神歴2075年 7月某日
リナリア・カレンデュラ
夏の暑い季節となりました。お元気ですか。
栞は受け取りました。貴女の思惑は存じませんが、いい意味で受け取ることにします。
ちなみに義姉から栞を貰ったことを自慢されましたが自分のも見せたらむくれていました。
クローバーの栞をきっかけに義姉と貴女からの手紙について少し話をしました。
わざわざ違う内容を選んで書いてくれているそうですね。義姉は貴女が自分に手紙を送っていた事に驚いていましたよ。
義姉は学院でいつもの友人以外の者とお茶会するようになりましたから貴女からの手紙の話もします。
義姉は貴女のことをカレンデュラ家の令嬢だと伝えていましたが、養子とは言ってませんから彼らは貴女を妾の子だと思っているかもしれません。
彼女からすれば貴女は深窓の令嬢なのでしょう。今は色んな所を飛び回っているようですが。
最近の義姉は軍の研究施設に呼ばれることが多いです。武器の開発に携わる部門でその開発内容は多岐にわたります。
彼女自身まだ学生なのですが、数年前にロイク殿が例の件でシャトーバニラに一週間滞在していたこともあり、彼女をロイク殿の弟子だと思っているそうです。
以前護衛として付き添った時、研究者たちは詳しい研究内容を伏せるため概念や漠然とした内容や、逆にかなり局所的な内容の質問をしていましたが、義姉は自分なりに思ったことを伝えていました。
本人はこれで良いのか不安がっていましたが研究者たちはその答えに驚かされていました。一体何の研究をしているのでしょうね。
ロータス卿は年齢制限がかかる前に昇級試験を受けたらしいです。内乱中、兵士の能力を上げるために昇級試験の年齢制限を無くしていたそうです。
それでも彼が血のにじむ努力したことは事実でしょう。
義姉から聞きましたが、貴女は協会に行く途中から一緒に見習い仕事に行く子供に背負ってもらっているそうですね。
孤児院から協会まで他の十一歳の子供が歩ける距離なら貴女はもっと歩くべきでしょう。いくらなんでも年下の子供たちに背負われて行くのはどうかと思います。
普段から本の虫になっていた貴女のことです。診療所に行く時も息を切らしていたのではないのですか。
ウォルファング・ヴィスコ
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女神歴2075年 8月某日
ウォルファング・ヴィスコ
夏の日差しが一層増します。お元気ですか。
先日の手紙は淑女に送るにしては品も礼儀も欠けている気がするのですが、貴方の上官は今も貴方が送る手紙を確認しているのでしょうか。
今まで私と手紙のやり取りしていたことをフィーに話さなかったのは意外でした。
もしそれが私に気を遣っているのなら気にしないでください。
協会まで山をひとつ越えなければなりません。
山登りをした事がないのだから疲れてしまうのは仕方ないでしょう。
それと家から診療所まではそう遠くありません。街までの距離で息切れする訳ないでしょう。
そんな協会では領地内の色んな情報が飛び交っていました。
例えば、カレンデュラの中にある山の麓近くにある村では獣の被害は多く、対応に追われていました。
元は他領の村で狩りが盛んにおこなわれていたために被害は抑えられていたそうですが、廃村が一気に増えたせいで獣が増え、特に草食の獣が村里に降りては畑の野菜などを食い散らかすそうです。
それに合わせて巨大化した獣の対応に追われています。基本的には領地の狩人達が対応するのですが兵士にも援護を頼むことも少なくないそうです。貴方も巨大化した獣の討伐に参加するそうですが、父もそれに参加される頻度が多くなりました。
不思議な事ですが、巨大化した獣は他領の廃村達がある方角からカレンデュラに流れ込んで来ているそうです。
調査するにも他領地なので双方の管理者の許可がないと調査が出来ません。父の性格上、他所の人間と関わりたがらないので調べるにも調べられません。
父もその報告を聞いていましたが難民を多く受け入れる割には余程他所の貴族が嫌いなのでしょう。境界辺りの警備を増やすことを指示してその話を終わらせました。
父は原因を察していたようですが向こうに教えてやる義理はないと思っているのでしょう。気持ちは分かりますが困ったものです。
肉食の獣の頭数が増えれば、その被害は収まるだろうと言われてますが、もし廃村の開拓が始まれば捕まえやすい草食の獣を優先して狩りをするので、草食獣が減った途端に狼や熊などの肉食の獣が増え、その獣が魔力を吸収して巨大化することを狩人たちは懸念しておりました。
生態の均衡を維持することは大変な事なのですね。
報告会の後、協会の人に話を聞けばいつものことだと苦笑していました。
旧オレンジ領の話は行儀見習いの時に聞きました。前任者が欲深い方だったこと、それが原因で内乱の粛正で家が取り潰されたらしいです。
ですが今の管理者は就任してからカレンデュラに挨拶の手紙一つもなかったそうです。
貴方の故郷があった領地です。現在の管理者について貴方は何か知っていることはあるでしょうか。
リナリア・カレンデュラ
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女神歴2075年 10月某日
リナリア・カレンデュラ
落葉の多い季節となりました。お元気ですか。
先々月の手紙のことですが返事が遅れてすみません。
貴女の情報をターゲス大将に伝えると軍の方で密かに調査が行われました。対象はシャトーバニラに隣接する領地です。
というのも巨大化した獣の討伐依頼が多く、その討伐した場所を地図に打ち込み、内乱時に廃村になった場所と照らし合わせて、その廃村周辺の魔力を調査したそうです。
原因は教会に弔いの儀式を依頼しなかったからでした。死体を埋めたまま放置したために死体の魔力がその土地に溜まっていたのだそうです。
自分は教会が何をしているのかは存じませんでしたがそういうこともしていることを初めて知りました。
地方の管理者には教会に依頼して廃村や死体を埋めた場所に弔いの儀式をしてもらうよう依頼がされると思いますのでロイク殿に伝えておいてください。
ちなみに旧オレンジ領の管理者は任命されてから一度も現地に行ってなかったそうです。
今回のこと以外にも管理の怠惰が発覚したので視察命令が出ました。そちらに挨拶もされるのではないでしょうか。
義姉には年末祭のためのドレスを縫うために採寸が行われました。
彼女は持っているドレスでいいと言っていたのですが学院の友人二人が押し切る形で街の商会に行くことになりました。
当日は自分とターゲス大将の側近兵の方が名代として同席していましたが三人の様子を見て何か悟ったような目をしていました。彼も姉と妹がいたそうで二人の婚姻の際に色々あったそうです。
女性の話は女性に任せた方がいいのでしょうが明細を見たら卒倒するかと思いました。ついでにセットで友人の実家の商会のアクセサリーも買わされました。
普段大人しい者だったのですがその口ぶりは完全に商人のそれでした。都会は恐ろしいです。
ウォルファング・ヴィスコ
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女神歴2075年 11月某日
ウォルファング・ヴィスコ
秋が深まり、冬の気配を感じる季節となりました。手紙を書いている今、今年初めての雪が降り始めています。
情報の共有ありがとう。原因が死者を弔わなかったからなんて酷い話ですね。
カレンデュラは内乱に巻き込まれることはなかったので餓死者はいても廃村はありませんでした。
それでも念のため丘の上の教会周辺にあるお墓以外にも農村のお墓に教会に弔いの儀式を依頼しました。
ちなみにオレンジ領の管理者には挨拶のお手紙が送られてきました。
父はそのお手紙を私に見せては上位の人に向けたお手紙の書き方を教えてくださいました。
だけど返事を未成年の私に書かせるのはどうかと思いますけどね。
私は当時己の魔法のこともあって家でガーベラ姐さんとお留守番していたので見たことはありませんが、弔いの儀式は母の葬儀の際に他の子供達が見ていました。
教会の人は紋様の書かれた布で顔を覆って儀式を執り行っていたそうですが、儀式の最中、言葉を唱え終えた途端涙を流していたそうです。
先日父が私と貴方との手紙について聞かれました。
流石に今は私が書く手紙を確認することはなくなったけれど、特に隠す内容ではなかったので今年の7月以降の貴方からの手紙を見せたら呆れられました。
こういった情報は出来れば父に渡した方がいいのかもしれません。
フィーからの手紙に私が作った髪飾りのことが書かれていました。付けようとしていましたが、ご友人たちに止められたそうですね。ドレスの相性もありますから貴方からも付けるのを止めておいてください。
リナリア・カレンデュラ
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女神歴2075年 12月某日
ロイク・フォン・カレンデュラ
街はすっかり冬に染まっています。今年のシャトーバニラは雪が降る日が早いように思いました。お元気ですか。
リナリアからの手紙を読んで、貴方に情報を共有していなかったこと渡していなかったことに気付きました。
獣討伐についての情報はリナリアから聞いたのでリナリアに伝えていたのですが、貴方宛ての方が良かったでしょう。今後は気を付けます。
今年のシャトーバニラの年末祭は警戒も厳しいものとなるでしょう。流石にリナリアの毒の抗体は消えているでしょうから警戒しなければなりませんが、警備をすることは出来ても学生には誰一人護衛が付けられないのでもどかしく感じます。
リナリアの抗体を魔石にしたと聞いていますがそれを直接取り込めばと思いましたが、無理だとリナリアが義姉へ手紙を送っていたそうですね。
自分も警備に回れないか聞いてみましたが、学院の中でも会場の警備に入ることは無理だと言われてしまいました。
ウォルファング・ヴィスコ
///次のページ
リナリア・カレンデュラ
義姉の髪飾りですが、他の髪飾りに添える形で落ち着きそうです。貴女との関係を示すには丁度いいのではないでしょうか。
義姉も貴女の作ったものだと言いふらしていたのです。パーティー当日に身に着けていない方が不自然でしょう。
そこまで気にするならまた新しいのを作って贈ればいいのでは。
自分の花を捧げても、彼女は受け取ることはなかったのです。彼女の春の花は自分ではなかっただけです。
今更その気持ちを知っていて髪飾りを贈っても困るだけでしょう。
ウォルファング・ヴィスコ
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女神歴2076年 2月某日
ウォルファング・ヴィスコ
カレンデュラはとても寒く、まだ雪の季節は続きます。春までは程遠いでしょう。
軍事学校に進学することになりました。
先輩として貴方に御教示いただくこともあるでしょうがよろしくお願いいたします。
リナリア・カレンデュラ
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