scene.7「サイゴノヒ」
窓の外に、美しい夜景が広がっている。
有名ホテルの最上階に設けられた展望バー――。その、窓際の特等の席に、二人は座っていた。
グラスの中の薄いルビー色の液体が揺れ、照明を反射して煌く。
あと少しで、今日が終わる。
二人の、最後の一日が終わりを告げる――。
「なんか、すげー長い事付き合ってたのに、あっちゅー間って感じだな――」
と、男の方――崇は言った。
男の方が崇、女の方が遙――。二人は恋人同士だった。
二人は、付き合い出してからちょうど十年になる。
今日は、その最後の日なのだ――。
「色々な事があったよねえ――」
二人が恋人だった十年間、本当に色々な事があった――。
「なあ、今まで二人で行った場所で、一番思い出に残ってるのって、どこだ?」
と、崇が聞いた。
遙は、迷うことなく答えた。
「東京タワー!」
「――って、お前地元だべ」
「東京は東京でも、あたし八王子だもん。ぶっちゃけ、あの時崇と行ったのが初めてだったのよ」
と、遙は言った。
付き合い出してから何度目かのデートで行った、東京タワー。
三百三十三メートルの塔の上から眼下を見下ろして、遙は子供のようにはしゃいでいたっけ――。
「色んなとこ、行ったよなあ」
崇はそう言って、グラスの中身を少し傾けた。
「うん――、全部いい思い出だよ」
遙は、そう言った。
時計の針が、時を刻む。
店内に流れるBGMだけが、静かにその場を流れていた。
「あと十分か――」
それで、二人の最後の一日が終わる。
「もう、あと十分なんだね」
と、遙が言った。
夜景の中で、何かが煌いた。
「ありがとう――。今まで楽しかった」
「俺もだよ。今まで、ありがとうな」
お互いにグラスを持って、そっとそれを合わせる。小さく、カチン、という音が鳴った。
「もうすぐ、あたし達は恋人じゃなくなる」
「ああ――、そうだな」
「あたし達――、これでよかったのかな?」
遙は、グラスをテーブルに戻して、そう言った。
崇は、そっと遙の肩に手を回す。
「何だべ、今さら考え変わったのか?」
遙は、首を振った。
「ううん、そんなんじゃないの――。ただ――」
「ただ?」
「ただ、ちょっと不安なだけ。これから先の事が」
崇は、軽く遙にキスをした。
遙の顔が、少し赤らむ。
「心配ないさ――。お前なら大丈夫だって」
遙は、無言でうなずいた。
時計の針が、午前〇時を回る。
二人の、最後の一日が終わった――。
「終わったね――」
「ああ――、終わったな」
「もうあたし達、恋人じゃないんだね」
「ああ――」
二人はもう一度、グラスを手にとって、触れ合わせた。
「なんか、あんまし実感湧かないけど――、とりあえず、改めてよろしくね」
「こちらこそ――。これからもっと長い付き合いになるけど――、ま、肩肘張らずにのんびり行くべ」
遙はうなずいた。
そして二人は寄り添い、静かに口づけを交わした。
二人の、"恋人"としての最後の一日は終わった――。
明日から――、いや、正確には今日から、二人は夫婦として新たな人生を歩み出す。
十年間、付き合ってきて、ようやくのゴールイン――。
様々な想いが、二人の間を巡り合っていた。
それは、二人が入籍を済ませた日の、夜の出来事だった。
少し膨らんだ彼女のお腹が、いっぱいの幸せを物語っていた――。
別れる前の夜――と見せかけて、実は入籍直後の夜。(笑
という感じの、オチでした。
しかも、何気にできちゃった婚とk(ry
幸せいっぱいの二人、今後どのような人生を、共に歩んでいくのでしょうね。w
ちなみに、二人のモデルは某ヘ○サ家族の誰かとk(ry
次回は「ユウヒ」をお送りします☆