絶体絶命! からの恋愛! からの個性的な名前続々登場! 最後にはあの子も登場!?
いてて⋯⋯あれ、ここどこだ? 真っ暗だぞ?
「すぞーちゅるるるるる」
「ぢゅるるるるるる」
「うめー! うめー! フンフン!」
男の声がたくさん聞える。なんなんだ。
「おーい! ここはどこなんだー! 誰か答えてくれー!」
オラは今自分がどんな状況にいるのか知りたかった。
「ここはニンニクちゃんの腹の中ですゾ」
ハッ!
そうか、そういえばあの時ニンニクちゃんに食われたんだ!
みんなもそうなのか? ちょっと聞いてみよう。
「んでみんななにやってんすか」
「みんなニンニクちゃんの体液を啜ってるんだよ」
キモっ。
みんなライバルだと思ってたけど、そこまでなの? さすがにオラはそこまでキモくはなれないな⋯⋯
とりあえず早く外に行きたい。ニンニクちゃんを見たい。
「どうやったらここから出られるんですか?」
「出る必要なんてないでしょ。せっかくニンニクちゃんとひとつになれたんだから」
こいつらダメだ。
オラ1人だけで脱出しよう。
「ヂュルルルルルルル」
「ゴクゴクゴクゴク」
まさに地獄絵図だな⋯⋯っていっても暗くて何も見えてないけど。
そもそもこれみんな体液って言ってるけど、胃液だよね。胃液って飲んで大丈夫なの? こいつらの体がおかしくなるのもそうだけど、胃液を飲まれまくってるニンニクちゃんは大丈夫なのか?
普段狂人のオラが真面目な役をやらなきゃいけない回が来るとは思いもしなかったよ。
あーどうしよう。壁突き破って外出るか?
プルルルルル プルルルルル
あ、電話だ。まだ職場にいるんだな、ニンニクちゃん。
「お電話ありがとうございます。しょうもないもの株式会社、カスタマーセンターのニンニクでございます」
めっちゃ聞こえるわ。本人の体だから振動が伝わってきてるのかな。
『この前買ったガムテープが全然美味しくないんですけど』
なんなんだお前。バカだろ。
「恐れ入りますが、お前が購入なさったガムテープは何味でしたか?」
あ、そうか。ここは美味しいガムテープも売ってるんだった。なんたってしょうもないもの株式会社だからな。普通のガムテープが売ってるはずないわ。
『サーカス味って書いてあります』
すごい味だな。
って、電話聞いてる場合じゃないよ! 早く脱出しないと胃液に溶かされちゃうよ!
「サーカス味は口の中で暴れ回ったり火が出たりするのであまり美味しくない味ですね。お前分かってて買ったんじゃねーの?」
暴れ回る⋯⋯そうか、暴れ回ればいいんだ! ニンニクちゃんにゲロってもらおう!
それにしてもニンニクちゃん言葉遣いすごいな。でも気持ちは分かるよ。どんな味か分かってて買って文句言ってくる客っているもんね。ウザいよね。
よーし胃の壁を殴ろう! 蝶のように舞い! アニサキスのように刺す! とりゃあーっ!
『分かってて買ったけど、わたパチくらいだと思ってたんですよ! まさか本当のサーカスだとは思わないじゃないですか!』
刺すことが出来るものといえば尖っているもの、または棒状の硬いもの。そんなのオラの体についてるこれしかないよなぁ! フン! フンフンフンフン!
「いやいや、パッケージにマジサーカスって書痛てててててててててちょっとお待ちくださいね」
お、効いてるか?
「お腹痛い⋯⋯なんか変なもんでも食べたかな」
いや人間300人食っただろ。腹痛くならん方がおかしいよ。でも変なもんって言われるの嫌だな。食べ物としては限りなく変だけどな。透明人間食うってなかなか見ないぞ。
お腹痛いって言うけど、お腹ってどこなんだろ。ニンニクちゃんはケンタウロスだからお腹が2つあるはずだけど、どっちなんだろうね。ケンタウロスのお腹だったら胃液啜ってるこいつらが可哀想になってくるな。
「ニンニクちゃ〜ん、今暇?」
この声は、意地悪ババア2人組の1人、屈舌 濡腐子! いつもニンニクちゃんをいじめているババアだ!
「いや、今対応中です」
「ちょっと前から見てたけど、電話してなかったよね?」
「電話中にお腹が痛くなっちゃって、ちょっと待って貰ってるんです」
ごめん、オラのせいで。
「あらまぁ、それは大変ね⋯⋯ちょっと信憑性があるか分からないけど、私の知ってる民間療法で良かったら試してみる?」
ん? こいつもしかして良い奴なのか?
「ありがとうございます、お願いします」
「どっちのお腹が痛いの?」
「人間です」
良かったなキモオタども。ここニンニクちゃんの胃だったよ。
「ちょっとお腹出してみて」
「はい」
なんだって!?
お腹を出すだって!?
神よ、なぜあなたはこのタイミングでオラをニンニクちゃんの体内に入れたのですか⋯⋯職場でニンニクちゃんのお腹を見られるタイミングなんてこれから2度と訪れませんよ⋯⋯
「ふんっ!」
えっ!? 胃の壁がこっちに押された! もしかしてニンニクちゃん、腹殴られた!?
「ごぼぁ!」
ニンニクちゃんケンシロウに殴られた敵みたいな声出してる! 大丈夫か!?
ん、なんだ!?
胃液が暴れてる! やばい、波に飲まれる、う、うあああああああああああああ!
気がつくとオラはニンニクちゃんの足もとにいた。どうやら濡腐子がニンニクちゃんに腹パンしたようで、オラ達はゲロとして体外に放出されていた。
やはり濡腐子は生粋のクズだったが、今回ばかりは命の危機を救ってもらったのだ、感謝せねばなるまい。
「はー落ちついた。まったく、透明人間なんて食べるもんじゃねーなぁ」
ニンニクちゃん、さっき御局様にお腹殴られたのに涙ひとつ見せないなんて、なんて健気なんだ⋯⋯
「邪魔だし透明人間全員ぶっ殺すか」
ええーっ! やめてー!
ニンニクちゃんは席を立ち、棚から殺虫剤を持ってきた。いや、オラ達人間よ? そんなの効かんよ?
シューッ!
「ぐぉあぁ〜」
バタッ
「うんにゅ〜」
バタッ
「むにえるぅ〜」
バター
次々と透明人間が倒れていく。どういうことだ? なんなんだそのスプレーは!
缶をよく見てみると、「透明人間用殺虫剤」と書いてあった。そんなことがあるのかよ。
そうか、これはここの会社の商品なんだな! こんなヤバい商品作ってるのなんてここしかないはずだ。
ていうか、透明人間用殺虫剤って名前なんなの? 殺透明人間剤じゃないの? 透明人間と虫はイコールだって言いたいの? もしそうならちょっと許せないかも。
「ギャーシィイイ」
バタッ
「ゆめぇ〜」
バク
「えっくす〜」
パタッ
バタバタと倒れてゆく。
クソ、一難去ってまた一難だ! オラはどうすれば⋯⋯!
「ん?」
ニンニクちゃんがオラの方を見た。殺される!? ていうかなんで当たり前のように透明人間見えてんの? ニンニクちゃんの目どうなってんの?
「ほー」
なんか言ったと思ったら頭を掴まれた。ニンニクちゃん、怖いよ⋯⋯
「似てるなぁ」
へ?
「おいお前、名前は?」
ニンニクちゃんとの初会話のチャンス!?!?!? 声裏返らないようにしないと! 名前って言ったよな、名前、名前⋯⋯オラ名前なんだっけ!!!! 頭ん中真っ白になってるよ!!!
「早く答えんと引きちぎるぞ」
あー緊張する、あー、あー緊張。やべ、喉乾いてきた。名前、名前⋯⋯
「梨肉盗比良 貧彦です!」
「えっ!?」
え、なに!?
「やっぱりピンピコくんなのね! 小学校の頃同じクラスだったあのピンピコくんなのね! なんとなく面影があったからもしやとは思ったけど!」
同じクラスって、オラとニンニクちゃんは30歳くらい離れてるじゃないか⋯⋯
オラはもういい歳したおっさんだよ⋯⋯
「この勢いで言っちゃうけど、実は私⋯⋯ピンピコくんが好きだったんだ」
ええええええええ!?!?!?
「えっ、ニンニクちゃん、それはどういう⋯⋯」
「どういうって、あれよ、ずっと片想いしてたのよ。言わせないでよねっ」
照れるニンニクちゃんかわえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!
「だからあの、もし良かったら⋯⋯付き合ってくれない?」
え⋯⋯
いいの?
そんなの即OKに決まって⋯⋯待てよ? ニンニクちゃんはオラによく似た20代の同級生が好きなのであって、オラのことは好きじゃないよな? オラをその子と勘違いしてるだけなんだよな? じゃあオラは身を引いたほうが⋯⋯
「ねぇピンピコくん⋯⋯ダメ?」
潤んだ目でニンニクちゃんが見てくる! 断れる訳ないだろ! ニンニクちゃんを悲しませる訳には行かないんだからあああああ!
そうだよ、オラが完全にその子になり切ればいい話じゃないか。それでニンニクちゃんを幸せにしてゴールイン! 発進! GO!
「付き合おう!」
「やったぁーっ!」
オラ達は周りの目も気にせず抱き合った。とはいってもオラは透明人間だから周りからはニンニクちゃんしか見えてないんだけどね。だからめっちゃ間抜けに見えてると思う。
「ずいぶん元気なのねぇニンニクちゃん。あっちまで聞こえてたわよ」
「すみません⋯⋯」
げ、こいつは屈舌 濡腐子といつも一緒にいる意地悪ババア、邪我理蠱 穢堕魔理蠱じゃねぇか! せっかく良いとこだったのに! 邪魔しに来やがったのか!
「いやいや、元気なのは良いことだと思うわ」
あれ? もしかしてこいつそんなに悪いやつじゃないの?
って、これデジャヴ? いや、実際にさっきも同じようなことあったよな。同じようなことがあって結局悪いやつだったんだ。じゃあこいつも信じちゃダメだな。
「明後日ニンニクちゃん休みよねぇ? 私有給取りたいんだけど、代わりに出勤してくれない? 元気なんだから出来るわよね?」
ほらやっぱクソ野郎じゃん。
「え⋯⋯この間も代わったじゃないですか。タイムカードも押すなって言われて、タダ働きしましたよ」
ちゃんと言い返せてる! 偉い!
ていうか、この間もってもしかして、オラが金持ちクレーマーのところに行った日か? あの日もこいつにやらされてたのか! 許せない! でも結界が強すぎて手出しできない! クソォ!
「じゃあ頼むぜのび太ァ」
そう言ってクソババアは出ていった。自分がジャイアンだって自覚あるのかよ。自覚ありでこんだけやるのすごいな、社長は何も言わないんだろうか。
「酷い⋯⋯明後日は大事な予定を入れようと思ってたのに⋯⋯うぅ、う、うわあああああああああああああああん!!!」
どうしよう、ニンニクちゃんが泣き出しちゃったよ! 誰か! 誰かぁーっ!
「邪我理蠱さん、ちょっと待ってください!」
この子は、新入社員のサンバサンバブンバボンバちゃん!? ニンニクちゃんの味方をしてくれるのか⋯⋯?
「サブちゃん、邪我理蠱さんもういないよ」
ジェットゴリラ翔子さんが言った。サンバサンバブンバボンバちゃんのことサブちゃんって呼んでるんだね。非常に効率的だ。
「ニンニクさん、一緒に邪我理蠱さんのところに行きましょう! 明後日、デートに行きたいんですよね!」
「え、なんでその事を⋯⋯?」
「さっきなんか言ってたじゃないですか! 彼氏出来たんじゃないんですか〜? 良いなぁ、もう! ほれほれ〜」
サブちゃんがニンニクちゃんを肘でつついている。お前、先輩だぞ。
ていうか、明後日オラとデートするつもりだったの!? どうしよう! どんな服着ていけばいいの? いつも裸だから分かんないよ! ていうかさっきニンニクちゃんに全裸見られてたってこと!? ていうかって言い過ぎたぁ! ていうか星人になってしまうう脇腹かゆいいいいい!!!
「さ、行きましょ!」
「ええ、ありがとう! 行きましょう!」
ニンニクちゃん、良い後輩を持ったなぁ。
それに引き換え周りにいるベテランは邪我理蠱が来たらみんな下を向いて、誰もニンニクちゃんのほうを見ようとはしなかったな。
あ、ニンニクちゃんとサンバサンバブンバボンバちゃんが出ていった! オラも行くか!
ついにサンバサンバブンバボンバ登場!
この子は私の過去作品『ナコの街』第3話で初登場した子ですね〜。この名前思いついた時はめっちゃ笑いながら書いてたなぁ。懐かしし。お獅子。