4階建ての扇風機
今日もニンニクちゃんは8時33分きっかりに出社してきた。毎日偉いなぁ。
ニンニクちゃんは自分のデスクに座り、臙脂色の目玉を装着した。そして、元の目玉をデスクの引き出しの中に飼っている鯉にちぎって与えている。鯉が口をパクパクさせて目玉を吸い込む。
プルルルルル プルルルルル
早速電話だ。ニンニクちゃん、今日もファイト!
「お電話ありがとうございます。しょうもないもの株式会社のニンニクでございます」
『あもしもし〜、あの〜、先日そちらで購入した入れ歯なんですけどぉ、家に届いたのを開けてみたらキリン用だったんですよ。取り替えてもらえますか?』
あちゃー、これは完全にこっち側のミスだねぇ。どう乗り切る? ニンニクちゃん! 隠蔽出来るのか! 丸め込めるのか! 技の見せ所だぁ!
「念の為にお聞きしますが、お前はキリンではないんですよね?」
『はい、私はキリンではありません。4階建ての扇風機です』
4階建ての扇風機ってことは入れ歯3ついるじゃん! ちゃんと料金は払ってあるのか? もしかしてわざとキリンの入れ歯を注文して、後から間違ってるってイチャモンつけてタダで3つ手に入れようとしてるんじゃないか? もしそうなら悪質だぞ!
「では、お前の家に着払いでお届けしますので、あと3日お待ちください。失礼いたします」
さすがニンニクちゃん! 着払いにすることで、会社が損をする可能性を0にしたんだ! 客が損する可能性もあるけど、会社が損するよりは良いもんね! さすがニンニクちゃん! 天才!
3日後。
プルルルルル プルルルルル
「お電話ありがとうございます。しょうもないもの株式会社のニンニクでございます」
『この間入れ歯を3つ着払いで送っていただいた者ですけれども、届いた入れ歯が3つとも故障してるんですけど!』
マジか、ニンニクちゃん、不良品送っちゃったのか⋯⋯
たまにあるんだよね、不良品。入れ歯として使ってみるまでは分かんないからどうしようもないんだよね。今回はニンニクちゃんは悪くないと思うな。
「どのように故障しているんですか?」
ニンニクちゃんが強めに聞いている。故障してるはずがないと言わんばかりの態度だ。
『1階と2階の間のやつは5分待っても10分待っても一向にヤシの木が生えてこないし、2階と3階の間のやつは全然醤油出てこないし、3階と4階の間のやつは全然歌ってくれないし、完全に不良品じゃないですか!』
激怒しているようだ。
「いえ、うちのはノーマル入れ歯ですので、木が生えてきたり醤油が出てきたり歌を歌ったりとかしないですよ。ていうかそんな入れ歯聞いたことないですよ」
確かにオラも聞いたことないな。入れ歯って歯がなくなった人が食べ物を食べられるようにするってやつだよな? 普通に考えてそんな変な入れ歯ないだろ。
『でも周りのママ友は激レア出たとか言ってみんなはしゃいでますよ! この前だって私が出ない出ないって悩んでる横でスーパーレアの八咫烏を出してましたし』
クレーマーじゃねぇか。
「お客様、誠に申し上げにくいのですが、そのお友達は恐らく違法改造をしていらっしゃいます。現在認可されている入れ歯では八咫烏は出ないはずですから」
『そ、そんな⋯⋯じゃああの子は! あの子は!』
入れ歯の違法改造か。なんでそんなことしちまったんだろうか。入れ歯の違法改造っていったらもう⋯⋯
「極刑は免れないでしょうね⋯⋯」
ニンニクちゃんが涙を流しながら言った。9滴か、今日は少なめだな。
『じゃあ私はこのノーマル入れ歯で焼肉を食べに行こうと思います』
「それが良いと思います」
オラもニンニクちゃんと焼肉デートしてみたいなぁ。何注文するのかなぁ。カクテキかなぁ。韓国のりかなぁ。
『生中2つと、上カルビ2人前と、厚切り牛タン塩2人前と、あとチョレギサラダ1つお願いします』
「あの、うちは焼肉屋じゃないんですけど」
しょうもないもの株式会社のカスタマーセンターだぞ。なんで焼肉の注文してんだよ。焼肉の気分になったらその場で注文しちゃうタイプなのか。そんなタイプ存在するんだな。
『じゃあなに屋なんだ!』
「蕎麦屋だよ!」
蕎麦屋なんだ。
『あっそうだったんですね〜、失礼しましたぁ〜。電話切るぞ!』
「はーいお気になさらず〜、私も電話切るぞ!」
ニンニクちゃんはそれからその日は歯に味噌を塗って過ごしたという。舐めに行きたいなぁ。
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