デート
ニンニクちゃんの部屋はいい匂いがした。インテリアが全てピンク色で揃えられていて、なんかハムみたいだった。ベーコンのようでもあった。インテリアのほとんどはカービィだった。
「ピンピコくん、おやすみ」
「おやすみ、ニンニクちゃん」
ニンニクちゃんは部屋の真ん中に横たわった。やっぱケンタウロスって大きいなぁ。馬より大きいもんね。
どうしよう、オラ寝る場所ないんだけど。
「ニンニクちゃん、オラどこで寝ればいい?」
「zzZ」
「あの、ニンニクちゃん⋯⋯」
「zzZ」
「ねぇ、ニンニクちゃん⋯⋯」
「⋯⋯チッ」
こわっ。
結局この日は立って寝ました。
「ピンピコくん、起きて! もう朝だよーっ!」
「もう朝でございますですかああっ!」
急に起こされたからビックリしてどっかのアニメキャラみたいになってしまった。
「ほら、遊園地行くよ! 30秒で支度しな!」
デートって遊園地なの!?
それに30秒って!
「オラどうせハダカだから0秒でいいんだけど」
「あ? 歯くらい磨けやコラ」
「すいません」
こわっ。
1階に降りてきたけど、オラの歯ブラシない⋯⋯
「はい30秒経過ーっ! 行くよ!」
ええっ!?
「ほらほら早く早く!」
「なんでそんな急いでるの?」
「タイムアタックだから!」
「えっ!?」
タイムアタックって、同じことを今までで1番早くこなすっていう挑戦だよね?
ってことは、ニンニクちゃん遊園地デート何回もしてるの? マジ⋯⋯?
「ニンニクちゃん、オラが初の彼氏じゃなかったの?」
「彼氏を家族に紹介するのが初めてだったの。入社してすぐケンタウロスになったんだけど、実はそれまではモテモテでね、経験人数6万人なの」
もし仮にそうだったとしてもさ、ケンタウロスになってずっと恋人できなくて、3年経ってやっとできた彼氏にこの話する?
「乗って」
オラはニンニクちゃんの背中に乗り、手網を握った。
「叩いて」
「えっ?」
「お尻」
「ええーっ!」
彼女と一緒にお風呂入って、彼女の家に泊まって一緒に寝たのにもかかわらず交通手段が1番エロいシーンってどういうことよ!
「ペンペン!」
お言葉に甘えて叩くよ! これまでの彼氏はこんなことしたことないだろ! どうだ! 羨め!
「ヒンヒン!」
パカラッパカラッパカラッパカラッ
30分くらいで着いた。ニンニクちゃんの中の客とか生徒とかグッチグチャだろうなぁ。
「大人2枚で」
係員の人も驚いてるなぁ。まさかケンタウロスが遊園地に来るなんて思わないもんなぁ。
「ピンピコくん、9800円」
「えっ」
「1人9800円だから、自分の分は自分で」
「ごめん、お金持ってないんだ」
「分かった。トイチね」
トイチ⋯⋯?
「さ! 楽しむぞーっ!」
トイチ⋯⋯
「おーっ⋯⋯」
楽しむけど、トイチ⋯⋯
そもそも9800円てヤバいでしょ。なにここ。
「そろそろ降りてくれる? 」
「はい」
ずっと乗りっぱなしかと思ってた。
「ねぇピンピコくん、手⋯⋯繋ぐ?」
キュンっ!
「う、うん⋯⋯」
こうしてオラは初めての手繋ぎをした。ニンニクちゃんの手は冷たくて硬かった。彼女に人間の部分は残っていないのだろうか⋯⋯
「あっ、アレ! 最初アレにしよ!」
ん?
ニンニクちゃんの指さす方には、小さな小屋があった。
「宝くじ売り場!」
ファッ!?
「通しで100枚」
通しってなに?
「ピンピコくんは?」
「お金ないってば」
「せっかく遊園地来たのに何もしないつもり?」
オラってこの連載でボケ担当だと思ってたんだけど、最近ずっとツッコミ側じゃない?
「分かったよ、ニンニクちゃん立て替えてね」
「トイチね」
宝くじの買い方が分からなかったのでニンニクちゃんに任せたら500枚買われた。15万円だそうだ。
「次あれ乗ろーっ!」
ニンニクちゃんの指さす先には大きな船があった。めっちゃでかい。
「なにあれ! かっこいい!」
「宇宙戦艦だよ」
宇宙戦艦! 宇宙行くの!?
⋯⋯まぁそうだよね、そろそろニンニクちゃんも地球では物足りなくなってるよね。
「大人2人で」
「5900円ね〜」
えっ、ここでもお金いるの? 入場料は何のために払ったの?
「立て替えたよ! さ、乗るよ!」
ニンニクちゃんに手を引かれて戦艦の中に入った。中にはR2-D2にそっくりなロボットやメーテルにそっくりな美女がいた。
「発進!」
艦長の威厳のある声とともに浮かび上がる宇宙戦艦。今からオラたちは宇宙に行くんだ⋯⋯
「外見てピンピコくん。素敵ね」
まだ1メートルくらいしか浮いてないんだけど。適当に返しておくか。
「そうだね、背が高い人ってこんな感じなんだろうね」
やがて宇宙に出て、しばらくさまよっていた頃に異変が訪れた。
「波動砲、発射!!」
突然の艦長の声とともに、オラとニンニクちゃんは宇宙空間に放り出された。
「ニンニクちゃーん!」
「困ったねぇ、どうしようか」
なんで大金払って酷い目に遭わないといけないんだ!