黒ひげ危機一髪!
さて、一番風呂いただきますか。服着てないからそのまま入れちゃうぞ。とりあえずシャワー浴びよ。
あったかい。ずっと裸だからけっこう冷えるんだよなぁ。
「ピンピコくーん、入っていいー?」
えっ、この声はニンニクちゃん!? もしかして、一緒に入るつもりなの!? 家族いるのに!?
「返事ないから入っちゃうよー!」
心の準備も間に合わない! ついにニンニクちゃんの裸を拝む時が来てしまった⋯⋯!
「お邪魔しまーす」
ん?
なにこれ。
ニンニクちゃんの裸、ビルなんですけど。階ごとに違う会社入ってるし、なんなのこれ? 都会の雑居ビル?
胸だと思ってた2つの膨らみもなぜかメタリックだし。
「ニンニクちゃん、これはいったい⋯⋯」
「あ、おっぱいが気になるの?」
おっぱいなの!?
「右が昼のプラネタリウムで、左が夜のプラネタリウムなの!」
昼のプラネタリウムってなに!? 見えるの? 2つあるんだからどっちかはフジテレビの社員食堂かと思ったよ。そうであって欲しかった。
「触ってみる?」
「えっ、いいの!?」
「うん⋯⋯」
オラはその2つの丘に両手を伸ばし、揉みしだいた。金属っぽかったから全然揉めなかったけど。でもなんか興奮する。
「ニンニクちゃん、オラたち今すごいことしてるね。家族がいるのに」
「⋯⋯⋯⋯」
あれ?
「ニンニクちゃん?」
ニンニクちゃんの顔を見てみると、頭がオープンしていた。
そうだった。忘れてた、乳首が頭の開閉ボタンになってるんだった。閉めないと⋯⋯
あれ、どっちが「閉」ボタンだ?
いつもは服に書いてあるから分かるけど、思い出せない⋯⋯
まぁどっちも押してみればいいか!
とりあえず右の乳首を押してみた。
「緊急脱出装置、起動」
え? なにって?
スッポーン!
そんな音を立てて脳が飛び出した。飛び方としては黒ひげ危機一髪にそっくりだった。
どうしよう。天井突き破って飛んでっちゃったよ⋯⋯真上に飛んでったから、そのまま落ちてこないかな⋯⋯
待てども待てども、脳は落ちてきませんでした。
「ピンピコくん大丈夫ー? のぼせてないー?」
ひっ!
お母さんだ。どうしよう。
「大丈夫ですよー! 気持ちいいのでつい長風呂してしまってまして、すみません! もうすぐ出ますね〜」
時間を稼がねば!
「気持ちいいって、ニンニクが☆☆☆☆☆でもしてあげてるのかしら? ゆっくりでいいからね〜」
このお母さんなんでこんな生々しいこと言うの? でもゆっくりでいいって言われたし、この間にニンニクちゃんをなんとかしよう!
脳が入ってたとこはどうなってるんだろうか⋯⋯
覗いてみると、恐らく人間と同じであろう頭の中身が見えた。真っ赤だった。
なんでだよ! 怖すぎるよもう!
もーどうすればいいのぉ! マジでどうすんの! 探しに行こうにもニンニクちゃん置いて行けないし、万事休すだよクソ〜!
「キャアーーーーーーーーッ!」
今度はなんだ!
「どうした母さん! ⋯⋯うわああああああ!」
2人してどうした! 気になるだろうが!
っていうか真上から聞こえてない? この声。
「なんだこの穴は! あっ、鯛の穴とおなじ形してるぞ!」
そう言ってお父さんが天井の穴からこちらを覗いた。お母さんも覗いた。
どうしよう。見られた⋯⋯
「おい! ピンピコくん、いるのか!」
そうか! オラ透明だからいるかどうか分かんないのか! 逃げちゃうか!
⋯⋯いや、ニンニクちゃんを置いて逃げて、もしニンニクちゃんに何かあったらオラ一生後悔するよな。よし、正直に言おう!
「鯛の腹に大きな穴が空いて死んでるんだが、何か知らないか!」
えっ!?
もしかして、脳が飛んでった時ちょうど上で寝転がってたの!?
どうしよう⋯⋯このままだとオラ確実に刑務所行きだよね。逃げた方がいいのか⋯⋯?
でもそんなことしたら2度とニンニクちゃんに会えなくなる! それはやだ! なんとかして方法を探さなくては⋯⋯
「ピンピコくん、いないのか!」
んんん⋯⋯
「ピンピコくん、いないの?」
んんんんんんんんんんん
「いたら返事してくれ! 助ける方法があるんだ!」
えっ!
「はい! います!」
「なんでいないふりしてたのよ!」
「すみません⋯⋯」
「謝るのは後だ! ピンピコくん、ニンニクの胸を見てくれ!」
えっ!?
「はい」
「ボタンがあるだろ?」
なんで知ってるんだ! ニンニクちゃんの裸見たのか! もしかして昔からこうなのか? ちっちゃい時からビルとかプラネタリウムとかついてたの?
「あります」
あ、そうか! 「開」を2回押して飛んでいったんだから、「閉」を押せばいいのか! なるほど! 押そう!
ポチ
「ちょっと待て! そこじゃない!」
⋯⋯えっ? オラ、またやっちゃった?
「ぐわぁす!」
「ぼちょす!」
穴から覗いていた2人の顔をぶち破ってニンニクちゃんの頭に脳が戻ってきた。どうしよう、ニンニクちゃんの家族、ニンニクちゃん以外全員殺しちゃった⋯⋯
「ニンニクちゃん、どうしよう⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
答えてくれない。
あ、そうか、「閉」ボタンも2回押さないとフタが閉まらないんだな。
ポチ
「なんかめっちゃ人殺す夢見た」
よかった、ニンニクちゃんが戻った!
「⋯⋯ん? なにこれ、血?」
上の穴から2人の血が滴っていた。白子のようなものもボトボトと落ちてきていた。
「ぎゃあああああああああああああああ」
ニンニクちゃんが驚きのあまり失神してしまった。どうしよう、また1人だ⋯⋯
このまま逃げちゃうか? ニンニクちゃんも今は見てないし、逃げちゃう?
いや何回このくだりやんのよオラは! どんだけ卑怯な思考してるんだ! オラは男! オラはニンニクちゃんの彼氏! そんな考えはもう捨てよう!
お父さんがニンニクちゃんの胸を見ろって言ってたな。このボタンが違ってたわけだから、他にボタンがあるのか⋯⋯?
オラはニンニクちゃんの胸を隅から隅まで見回した。
ボタンは両胸合わせて30個くらいあった。なんで気づかなかったんだろう。
大きめの▷ボタンや□ボタン、数字の書いてあるボタンもある。dボタンもある。録画ボタンとか番組表のボタンもある。
とりあえずオラは◁◁を押してみた。おそらくこれはリモコンなのだろう。巻き戻しボタンを押せば全てが巻き戻るはずだ。それに賭けるしかない⋯⋯
そういえば、リモコンに開閉ボタンなんてあったっけ? あったっけか⋯⋯あ、あったわ。DVDのトレー入れるとこのボタンだ。ニンニクちゃんの脳ってDVD感覚で交換出来るのかな。
巻き戻しボタンを押している間、頭が空いて脳が飛んでいったりお父さんとお母さんの頭部が元通りになったり、鯛くんが生き返ったり天井の穴が直ったりした。よかった、合ってて。
ニンニクちゃんが入ってきたところまで戻した。怖かったぁ。なんか安心したら眠くなってきた。
「お風呂で寝ちゃダメだよ!」
ニンニクちゃんがそう言ってオラを抱えて外に出た。オラたちは体を拭いて、ニンニクちゃんの部屋に向かった。
これ、本当にコメディジャンルでいいのかな? カオスジャンル新設してくれないかな?