ニンニクちゃんのカラダ
ヘッドホンマイクで喋ってる設定いつの間にか消えてました。普通に電話でやってるってことにしてください。
さ、今日も今日とて不審潜伏ニンニクちゃん観察日記つけていくよ！
ん？ 今回はデート回じゃないのかって？ ノンノン、それは明日だよ！ てことで電話がかかって来そうな気配がしてるからオラはそろそろ静かにするよ！
プルルルルル プルルルルル
「はい、フロントです」
受話器を取らずに1人で話しているニンニクちゃん。
『えーっと、マッサージのお姉さんが来ないのと、フロントで買った氷が2秒で解けたのと、夕食の銀杏がうんこみたいな味だったのと、自販機のビールが500円もすることと、あとえーっと』
この声どこから聞こえてるの？ 電話は画面ついてないから、動いてないよな？ どういうこと？
「失礼ですが、お前の部屋はどちらのお部屋ですか？」
『モモです』
「かしこまりました。すぐにマッサージのお姉さんと、一生解けない氷と、銀杏みたいな味のうんこと、1800円均一の自動販売機を手配させていただきますね！」
オラ、ニンニクちゃんの大ファンで彼氏のはずなのに、全然話が分からない。どうしよう、オラ、この会社のことはよく分かってたけど、ニンニクちゃんのことを全然知らなかったんだ⋯⋯なんか哀しい。
『あと部屋に消火器が50個くらいあってめっちゃ狭くなってるんですけど』
どんな部屋だよ。
「実はそちら焼身自殺したお客様が泊まっていたいわく付きのお部屋でして、夜中になると10分おきに火事が起きるんです」
めんどくさっ。
『あっそうだったんですね！ 分かりました！ ありがとうございましたーっ！』
「はーい」
⋯⋯なんなの？
でも大丈夫。オラはもう彼氏だから、ニンニクちゃんに質問出来るんだ。ただの潜伏者だった頃のオラとは違うんだよ。
「ニンニクちゃん、今のなに？」
「⋯⋯なに？ 私が浮気してるとでも思ってるの？」
えっ。
「私が小学校から片想いしてたあなたに告白して付き合って、次の日に浮気するような女だって言いたいの？」
めんどくさい束縛彼氏だと思われてる？
「いや、フロントがなんとかって聞こえたから⋯⋯今のって電話？」
「あー、そのことね！ あれはうちに泊まってるお客さんからのクレーム電話だよ」
「でも受話器取ってなかったよね？」
「うん、内線だからね」
「内線でも受話器取るでしょ」
話通じない系の人？
「体内のことだから。私の体に泊まってるお客さんからの電話だったの」
ファー！？
「ニンニクちゃんの体って泊まれるの？」
「え、ピンピコくん知らないの？ ケンタウロスはみんな泊まれるんだよ？」
てことはもしかして⋯⋯
「モモっていうのは⋯⋯」
「腿の間に泊まってるお客さんだったの」
腿にまで部屋があるのかよ！ めっちゃ揺れるじゃん！ ご飯食べてたら全部ひっくり返っちゃうだろ。そういやそこの客ビール買おうとしてたよな。腿の中でビールなんか飲めるわけないじゃん。
「へ、へぇー、ニンニクちゃんの体は不思議だね〜」
とりあえず受け入れたということにしておこう。
「いや、ケンタウロスはみんなこうなんだってば」
意味分かんないんだよ。そろそろ脳が爆発しちゃうよ。
プルルルルル プルルルルル
あ、電話だ。机の上の電話は光ってない。また内線か？
「もしもし、フロントです」
やっぱそうか。クレーム処理とホテルを兼業してるなんてすごいなぁ。
『マイクの調子がおかしいんですけど。あと、ドリンクバーのコーラのシロップ切れてましたよ』
「かしこまりました。お前のお部屋番号をお伺いしてもよろしいですか？」
『電話の画面に出てるでしょ』
「画面がねぇんだよ！」
『え、そんな怒らなくても⋯⋯103号室です』
「はい、かしこまりました！ すぐに換えのマイクお届けしますね！ コーラも補充しておきます！」
フロントって、もしかしてカラオケ屋のフロント？ ホテルだけじゃないの？ すごいリゾート施設なのか？
「ニンニクちゃん、ホテルだけじゃないの？」
「じゃないよ。でもほとんどはホテルだよ」
プルルルルル プルルルルル
まだ理解が追いついてないのにまた内線かかってきてるよ！ これここに出社しなくてもいいだろ！ 今日自分の体の中の電話ばっかじゃん！
「はいフロントでーす。はーい」
は？ 相手の声全然聞こえなかったし、短すぎない？
「今のは？」
「ソープランドだよ」
そんなのまであんの！？
「こだわりどうします？」
は？ いきなりどうした？
『何があります？』
「ヤサイとアブラとニンニクの有無ですね」
『ヤサイマシマシ、アブラマシ、ニンニク抜きで』
「ニンニク抜きだと！？ うちはそういうのはやってねぇんだよ！ 帰れ！！！」
もしかしてラーメン屋やってる？ しかも麺が太くて野菜がモリモリ乗ってる例のあれだよね？ レベルの高い合格点を超えるやつをオールウェイズ出してくれるお店やってるよね？
それにしてもニンニク抜きとは失礼な客だ。オラのニンニクちゃんを不要だなんて、最低だ。
プルルルルル プルルルルル
「はいもしもし」
次はなんだ？
「あっ、コウジくんのお母さんですか、いつもお世話になっております〜、えっ！ そうなんですか！ すぐに呼びますね！」
えっ、なんだろう。
「サイトウ コウジさん、至急職員室までお越しください」
『コウジなんかやらかしたんじゃねーのヒソヒソ』
『0点ばっか取ってたから怒られるんだろヒソヒソ』
学校あるんだ。陰口聞こえるし。どうなってんだよニンニクちゃんの体。
「コウジくん、落ち着いて聞いてね。今お母さんから電話がかかってきてね、おばあちゃんが危篤だって言ってたの。うん、そうだね、難しい言葉使ってごめんね。つまり、お前んた家のババアがもうすぐ死ぬらしいからお前のかーちゃんが迎えに来るって！ だから帰る準備しとけ！ ってこと」
なんちゅー言葉遣いを。コウジくん泣いちゃうんじゃないか？
『ほげー』
バカじゃん。コウジくんバカじゃん。あんま気にしてなさそうだな。そういえば0点ばっか取ってるってさっき誰かが言ってたな。
「ふぅ、一件落着⋯⋯」
ニンニクちゃんはそう言ってつきたての餅が詰まっている抽斗を開けた。
「ずぞー」
ストローをさして飲んでいる。大丈夫？ 喉に詰まらない？ ミッチョンコの二の舞にならない？
「モクモクモクモク」
ニンニクちゃんの鼻から煙が！ なんでそうなるの！？
「ニンニクちゃん大丈夫！？ 煙出てるよ！」
「家族連れが川原でバーベキューやってるみたい。キャンプだね」
キャンプ！！
商業施設とか学校だけじゃなくて、川まであるのかよ！！
「ほ〜た〜るの〜ひ〜か〜あり まーどーのゆーうーきんいんいん」
ニンニクちゃん閉店？ ほとんどが宿泊客なのに蛍の光で閉店のお知らせするんだ。
「ご来館の皆様、本日はご利用いただきまして誠にありがとうございました。当館は午後10時を持ちまして閉店とさせていただきます」
もうこんな時間かぁ。
「モクモクモクモク」
また！？ 夜中にバーベキューしてるやつがいるの！？
「ニンニクちゃん、また煙出てるよ！」
「これは火事だねぇ。毎晩のことだから慣れてるよ」
あ、最初のホテルのあの部屋か。
「ちょっとお手洗い行ってくるね。今日一緒に帰りましょ。私の家泊まってってよ」
えっ！ デートより先にお泊まり回！？
「いってら！」
パカラッパカラッパカラッパカラッ
馬だなぁ。
後日「腿の間」から1人の男性の焼死体が発見されるのはまた別のお話。現場には血のついた消火器が50個落ちており、この消火器で殴られた傷が致命傷となったらしい。
