いろんな所が開閉する人
「フフ、貴様らのような小娘なんぞ私の呪術でひと捻りよ! 小娘ども! 私の指を見なさい!」
邪我理蠱はなにやらかっこいい構えをとり始めた。
「いや呪われるんでしょ。見るわけないじゃん」
サンバサンバブンバボンバちゃんが冷めている。こんなにワクワクしない戦いがあっただろうか。
「んっ! んっ!」
ニンニクちゃんがいきなり喘ぎ出した。こっちを見ている。なんかエロい。
「なに? どうしたの?」
小声で聞いてみる。
「んっ! んっ!」
よく見てみるとこちらを見ながら邪我理蠱を顎で指していた。「お前が行け」と言いたいようだ。喘いでたんじゃなかったのか。
オラはニンニクちゃんの指示通り邪我理蠱に近づいた。やはり見えていないようで、一切こちらに注目していない。
「今だ!」
ニンニクちゃんの合図とともに邪我理蠱を取り押さえる。両腕をがっちりと固め、足を絡めた。
「な、なんだこれは! お前の呪術か!」
みんながみんな呪術師だと思うなよ。
「その通りです。さぁ、この状態からどうします? 邪我理蠱さん。抵抗してみますか?」
ニンニクちゃん、サラッと自分の功績にしてるやん。でもそんなニンニクちゃんも好きだよ。スネ夫みたいで可愛い。
「クソっ! クソっ!」
邪我理蠱が暴れている。
「明後日有給取って彼氏と時化込もうと思ってたのによぉ!」
「あーっはっはっは! その権利は私にあるようですねぇ! だってあなたは今から負けるんですから!」
ニンニクちゃん、余裕かますのもいいけどそろそろぶっ叩いてよ。暴れるおばさん捕まえてるのも大変なんだから。
「私の休みを奪いやがってぇ! 許せない!」
お前がニンニクちゃんの休みを奪ったんだろ!
「ニンニクちゃん、早くしてくれぇ! 腕が疲れた! 乳酸がどんどん溜まってきてる!」
普段何もしてないからもう腕がパンパンなんだ。こんなことになるのならトレーニングしておけばよかった。
「早くしてやってもいいけど、こいつを倒したらお前は用済みになるよ? そんなに早く死にたいの?」
えっ。
「もうちょっと頑張ります」
ニンニクちゃん、人の生死をそんなに簡単に決められるようになっちゃったなんて⋯⋯
成長スピード速すぎて泣けてきちゃうよ。ニンニクちゃんの成長に涙するだなんて、やっぱオラは娘を見守るお父さん的なポジションなんだなぁ。
「サル」
「ルーマニア」
「アヌス」
3人はいつの間にかしりとりを始めていた。もしかしてみんなでオラのこといじめてる?
ていうかニンニクちゃん、アヌスって⋯⋯
「スズメ」
「メキシコ」
「肛門」
ニンニクちゃんそれしか言わないのか。ていうか負けちゃったやん。なんなのこれ。邪我理蠱もなんで普通に参加してるんだよ。お前今敵に捕まってるんだぞ。
「サブちゃん! 合体するよ!」
ニンニクちゃん、なんてこと言ってるんだ! 合体って、こんな公の場で合体って⋯⋯! ぜひ見たい!
「え、合体ってどうやるんですか⋯⋯?」
困惑しているサンバサンバブンバボンバちゃん。ウブなんだなぁ。可愛いじゃないか。
「ケンタウロスとの合体って言ったら1つしかないでしょ!」
ニンニクちゃんの下半身は雄馬⋯⋯とんでもないプレイが見られるのでは?
「なるほど、そうか! 分かりました! ライドオン!」
サンバサンバブンバボンバちゃんはニンニクちゃんの背中に乗った。馬の方の背中に騎乗したのだ。合体ってそういうことなの? 乗っただけじゃん。じゃあ馬に乗って戦ってた武将たちってあれ合体してたってこと?
「究極合体! ニンニニンニニンニニンバ参上!」
ニンニクちゃん、その名前自分の成分多すぎない? なんて不公平な合体なんだ⋯⋯
めっちゃ楽しそうにしてるし。
「サブちゃんごめんちょっと降りて」
何もしてないのにもう降りるの!?
「はい」
疑問持てよ!
「背中の真ん中にある蓋開けてくれる?」
サンバサンバブンバボンバちゃんはニンニクちゃん(馬部分)の背中を開け、中から虫カゴを取り出した。なんなんだよこれ。説明とかないの?
「さぁ、私が丹精込めて育て上げたこの毒虫たちをあなたの耳に流し込んであげますよ」
「ひぃい!」
ニンニクちゃん怖い。邪我理蠱が完全に怯えてしまっている。大人しくなってくれたから助かるけども。
そういえば、毒虫って陽の当たらない場所で育てるものなの? それとも背中に太陽があるとか? ていうか毒虫ってなに? 毒のある虫ってことは分かるけど、どんな虫なの⋯⋯分っかんねーな! でも謎なニンニクちゃんも可愛いよ! よっ! ミステリアス!
「さ、大人しくしてて下さいよ〜。動いたらすぐに殺しますからねぇ〜」
ニンニクちゃん、よほど溜まってたんだろうなぁ。こいつには散々いじめられてきたもんね。オラもこのあと殺されるけど。
耳に自家製の毒虫を1匹ずつ放り込んでいくニンニクちゃん。
「う、うぎゃぁぁぁぁああああ!!!」
邪我理蠱、さすがに同情するわ。
「うるせぇなこいつ。舌と歯抜いとくか?」
ガムテープで口塞ぐとかじゃダメなの? やっぱ今日のニンニクちゃん凶暴すぎる⋯⋯
「うぅ⋯⋯うぐぅ⋯⋯」
舌と歯を抜かれたくないのか、急に大人しくなる邪我理蠱。
「サブちゃん、ペンチ持ってきて」
やんのかよ。
「ということで、明後日は予定通り私がお休みでいいですよね?」
「はひ⋯⋯ひままへふみまへんへひは」
「分かってもらえればいいんですってば! 仲良く行きましょっ! ⋯⋯でももしまた何かしたら、次は目ですからね」
ニンニクちゃんの完全勝利である。女の戦いは恐ろしいなと改めて思った。
「さっ! 部署に戻りましょー! 透明人間もちゃんとついてくるんだよ! あっちで殺すから!」
やっぱ殺されるんだ。
「ニンニクさん、あなたやっぱり人殺しだったんですね」
サンバサンバブンバボンバちゃんが聞いた。もしかしてオラを助けようとしてくれてる?
「なんでそうなるの?」
ニンニクちゃんが困った顔で言った。
いや、なんでそうならないと思ったの?
「今から人殺しますって言ってる人が過去に人を殺したことがあるかどうかなんて分かんないでしょ」
いや、確かにそうだけど⋯⋯
「やったことない人は簡単に『殺す』なんて言いません!」
「いやいや、最近はすぐに『殺す』って言う子多いよ〜?」
「そういう話じゃなくて⋯⋯あっ! ニンニクさん、後ろ!」
サンバサンバブンバボンバちゃんの指さす方を見てみると、そこには鬼の形相で立っている屈舌 濡腐子の姿があった。邪我理蠱の仇でも取りに来たのだろうか。
「屈舌さん⋯⋯何もしてこないんですか?」
前を向いたままのニンニクちゃんが言った。
「不意打ちなんてしなくてもこんな小娘2人くらいひと捻りだからよ」
こいつらもこいつらだよな。自分の力を過信しすぎだよ。オラもいるんだってば。
「んっ! んっ!」
ニンニクちゃんがこっちを見ながら喘いでいる。発情期なのだろうか。
あっ違うわ。これ指示なんだった。
オラはすぐに屈舌の後ろに回り込んだ。後ろから屈舌の体に手をかける。
「遅いっ!」
ヒュン、と音を立てて屈舌が目の前から消えた。こんなのありかよ、邪我理蠱と差がありすぎるだろ。ていうかもしかしてオラの存在に気付いてる? さっき2人って言ったのはこっちを油断させるため? だとしたらこいつ、強い!
「ポチッとな」
屈舌がニンニクちゃんの右の乳首のあたりを指で押した。Tシャツのその位置には『開』と書いてある。オラもニンニクちゃんの乳首触りたいのに⋯⋯
ほどなくしてニンニクちゃんの頭がパカッと開いた。そんな仕組みだったのかよ。乳首の位置に『開』と『閉』があったからエッチなスイッチなのかと思ってたのに、まさか頭が開くなんて⋯⋯
「オラッ、死ねっ!」
屈舌はその辺に落ちていた小さめの箒を手に取り、その柄を剥き出しになったニンニクちゃんの脳に突き刺し、グリグリと掻き回した。
「あっひんっ!」
ニンニクちゃんは短く叫んでその場に倒れた。
屈舌が倒れたニンニクちゃんの横にしゃがみ込む。追撃する気かこいつ!
「ポチッとな」
律儀に左の乳首を押して閉めただけだった。
「さぁどうする? 残りはお前ら2人だけだ」
なんなんだこの強さは。こんなの勝てるわけないだろ。そうだ、もうオラはニンニクちゃんに脅されていないんだ。今逃げてもオラを殺しにくるヤツは誰もいないんだ!
いや、でもオラはニンニクちゃんが好きだ⋯⋯
ニンニクちゃんの仇を取りたい! よし、力が及ばなくてもこの子と協力してこいつを倒そう!
そう思ってサンバサンバブンバボンバちゃんの方を見ると、彼女はその場で漏らしていた。
おいおい、ここは便所じゃねーんだぞ。ここの人間は自由すぎるだろ。
「こんな、こんな会社だったなんて⋯⋯あはは、あはは、あはは⋯⋯」
あさっての方向を見て笑っているボンバちゃん。あさってって言ったらニンニクちゃんの休みの日だけど、何が見えてるんだろうか。
「敵を前にしてよそ見をするだなんていい度胸ね。いいわ、すぐに殺してあげるわよ!」
サンバサンバブンバボンバちゃんの首に屈舌の手刀が繰り出された。ダメだ、もう終わりだぁ!
ガキン!
何者かが屈舌を止めた。しかし、姿が見えない。もしや透明人間が加勢に来てくれたのか? それで剣かなにかで屈舌の攻撃を受け止めたのか?
ていうか『ガキン!』って、もはや手刀の音じゃないだろ。あんなん食らったら死んじゃうよ⋯⋯
屈舌がいる辺りから突然声が聞こえた。
「さて、第2ラウンドと行きましょうか!」
なっ、この声は⋯⋯!!!