《第三章 二節》 屋敷
俺は彼女の後ろをついていった。時々立ち止まっては俺の持つ図面と照らし合わせて屋敷について説明してくれる。ホールから繋がる廊下の数から部屋の配置、ひとつひとつの罠の位置と作動方法・効果に至るまで懇切丁寧に教えてくれた。端的かつわかりやすさを重視した話し方は外見と合わない。それなのに僅かながら時々浮かぶ表情は年相応の女子のものに見えてしまう。
「ここが最後の部屋よ」
手で示した先にあったのは取っ手から扉の角に至るまで真っ黒な扉だった。近くに寄って見ると三重に浮かび上がった縁の間に細かな模様が刻まれているのが分かる。アルファベット風なものから何かの記号らしきものまで色々な模様があったが、どれも線が一ミリ未満という綿密さだった。
「・・・申し訳ないのだけれど、この部屋を紹介することはできないの。」
その言葉に俺はやっと来た、と思った。彼女がどれほど親切であったとしても俺が赤の他人であることに違いはない。そんな俺にここまで事細かく屋敷を案内してくれたのだ。いつしかこのような話せないことが来ることはもう検討ついていた。
彼女はその扉に触れた。
「この扉の中は“特別な者”しか入れない仕組みになっているの。お呼びでない者は扉に触れることさえできず、攻撃を受けることになるわ。―――あなたが身を以て体験したようなものの、数百倍の威力のものが」
「えっ」
数百倍とは一体どれほどのものなのだろうか。先程受けたのは火に水に氷に竜巻、あとは落とし穴だろうか?あれだけでも数分逃れることができなかったら死に落ちるかもしれないほどの殺傷力だった。あれを超えるものを受けたならば即死するだろう。
「侵入者がここまで入ってきたとしても中に入られることはないでしょうから安心よ。あなたに部屋について紹介できなくても防犯面はそこそこ良いから安心してもらえれば幸いよ。」
いや、そこそこではないでしょう。安全すぎて怖いほどです。などとは口が裂けても言えない。
「まぁここは屋敷の中央部ですから。二つ以上の罠に連続してかかって生き残れる人間は・・・素晴らしく運がついていたのか、強靭な身体を持っていたのかのどちらかね。」
彼女の視線が突き刺さるようだ。俺は冷や汗をかきながらゆっくりと目をそらした。
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