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《第三章 一節》 屋敷





 書斎を出て俺は早速、危機に直面していた。

 迷子になったのだ。


 扉から出ると一気に世界が変わった。最初来た道は()()見当たらなかったのだ。この屋敷が広いことも危なっかしいことも学習済みの筈だった。それなのに、まるで時空を操られているようなこの空間の歪みはどう説明すれば良いのだろうか。優秀な現代技術でも解析できないだろう違和感だ。これらの感覚は過去一度も外した試しがないから余計に怖い。こんなことだったら闇夜さんに屋敷の案内を頼むとともにちゃんとした地図を貰うべきだった。


 「あぁ、危険だわ。後ろに下がりなさい勇一(ゆういち)さん」


 必死に踏ん張っていると後ろから彼女の声が聞こえた。


 「早く五歩、下がりなさい。」


 振り返り見た彼女は、無愛想に立っていた。五歩も下がったら壁に衝突してしまうだろう、という疑問を持ちつつも俺はその言葉のままに動いた。すると、俺の体はあったはずの壁を―――すり抜けた。


 「―――??!」

 「ほら、前を向きなさい。これで大丈夫よ」


 転けそうになった俺を片手で支えながら彼女は指差す。向けばそこには行きと同じ廊下があった。


 「今回で学んだかしら。先程のような違和感を感じたらまずは後ろを確認しながら下がりなさい。そして呼吸を整えるの。そうすれば本来の姿がわかるはずよ。」

 「ど、ういうこと、ですかっ?」


 思っていたより喉が乾いていたようだ。それだけ自分が恐怖していたことに驚きつつも彼女の言葉はわからず聞き返す。


 「言葉の通りよ。この屋敷は侵入者を絶対に許さない構造なの。曇った感情のまま歩く者は精神的に乗っ取られる可能性があるということよ。だからこそ、己の精神を強く持ちなさい。」

 「あの空間が曲がる感じがその、精神的な攻撃なんですか?よくアニメであるド◯えもんの、の◯太の机の中にあるような虹色の時空間っぽいのがですかっ?」


 その言葉に彼女は首を傾げた。もしやあのアニメの例えが難しかったのだろうか?このような屋敷に住んでいたのならばそれもあり得るのだろうか?


 「偏見はやめなさい。流石に(わたくし)もそれくらいは知っているわよ。ただあなたが言うような仕掛けは無かったはずだわ。」


 「へ?」

 「(わたくし)の管理している仕掛けにそのような色のついたものは一切ないの。記憶違いであるのなら良いのだけれど・・・この屋敷で用いるのは過去の苦い思い出を思い出させることなど暗い内容のものばかり。それに従って色はモノクロばかりだわ。時々濃い青や紫、灰色も用いることは無いわけでは無いけれども・・・まぁ、後で考えてみれば良いことね。」


 彼女があのド◯えもんを知っていたということに笑いそうになる。どの視点から見ても彼女とド◯えもんは合わない。まずあのおちゃらけた雰囲気と高貴な佇まいとではジャンルが違うのだ。それなのに知っていると真顔で言った彼女が何故か面白く感じてしまったのだ。


 「また(わたくし)に失礼なことを考えていたのでしょう?」

 「いや、なんで分かるんですか!」

 「もしも隠しているつもりならその口角をどうにかしなさい。緩んでみっともないわ。」


 彼女の言葉に俺は頬を触った。そんな酷かっただろうか。


 「さて、行きましょう。ついてきなさい。」

 「え、どこに行くんですか?」

 「あなたは何を言っているのかしら?」


 この後彼女の世話になることがあっただろうか、と思い返してみる。

 だが、わからなかった。  


 「屋敷の案内よ。先程あなたは望んだでしょう?」


 先程の手紙の地図よりも克明な屋敷の図面を手渡された。いつ彼女に伝えただろうか。その記憶がなかった俺は固まるしか無かった。


 「さあ行くわよ。もし何故わかったのかなどという疑問を持つのならまず表情筋の制御方法を学びなさい。それさえできない者に疑問を持つ権利はないわよ。」


 早くその権利を掴めると良いわね、と彼女は笑みを見せた。





  


読んでくださりありがとうございました。

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