《第二章 三節》 居候
1日投稿遅れてしまいました。
よろしくお願いします。
彼女の瞳が輝く。
「確認するわ。・・・・・・あなたは、私に何を望んだかしら?」
「俺は昨晩、自分の身を外界から隠すためにこの屋敷に置かせて貰うことを望みました。」
「そうね。そしてあなたは自分の丈に合う代償をいくらでも払うと言ったわね?その言葉に偽りはないかしら?」
「はい。勿論ありません」
「そう。なら良いわ。」
彼女はサイドテーブルに手を伸ばした。その時左右に飾られた髪飾りが揺れる。
「では私はあなたにこれを求めるわ。そちらの資料を見て頂戴」
渡された紙に目を通す。どんな大変なことを課されるのだろうかと恐怖していたがその内容を理解するにつれて胸を撫で下ろした。
「え、・・・こんなので良いんですか?」
あまりにも意外すぎて俺はそう問いかけてしまった。彼女はその許されていない発言を諌めることなく口を開く。
「そうよ。私が求めるのはこれね。先刻に伝えた通りここには使用人がいないもの。」
もう一度紙に目を移す。
「ほんとにこれなんですか?―――屋敷の台所・自室の清掃と買い出し、なんですか?」
「あら?量が多かったかしら?これまで私は屋敷のことを一人でやってきたわ。それに私、食事もほとんど取らないの。頻度で言うと、二日に一度水分を含むくらいかしら。ですから、あなたは自分自身の身の回りだけ整えればいいわ。買い出しの資金もこちらで負担するから安心して頂戴。街への行き方も地図を渡すから大丈夫でしょう。」
自分のポケットの中に入っている財布の中身を想像していたことがバレたのだろうか。と顔を上げたが彼女はそのつもりがなかったようだ。どうなさったのかしら、と首を傾げているようにしか見えない。
「ただ、その代わりに一つだけお願いしたいことがあるわ。」
「・・・なんでしょうか。」
いきなり変わった彼女の雰囲気に驚き、背筋を伸ばした。
「・・・あなたがもし、この屋敷から出たいと願った時は、必ず私に手紙でもいいから伝えなさい。」
だが、彼女の口から出たのはそんなお願いだった。もともとこの家にいさせてほしい、と言っているのにも関わらず、その話を持ち出す訳がどうにもわからずすぐに返事を返すことはできなかった。
「・・・はい。俺が本当に、思った時は言います。」
「―――ええ。よろしく頼みたいわ。他にも、気に障ることがあったら言ってくださいね。出来る限りそれに答えたいと思うわ。」
今日からよろしくお願いしますね、と言われた後席を立つことを許された。
彼女の真意がわからぬまま、俺は部屋から去ること以外できなかった。
読んでくださりありがとうございました。