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《第一章 三節》 邂逅

手違いにより一話飛ばして投稿していました。申し訳ありませんm(_ _)m

来週また同じ話を投稿する予定です。

よろしくお願いします。




 「俺は、一見普通の家庭に生まれました。」


 まず始めに滑り落ちてきたのはその文章だった。そもそも自分のことを誰かに話すこと自体なかったから、困惑している。


 「父はアメリカ出身で・・・母は普通の日本人だったみたいですけど、俺が生まれてから仲が悪くなったらしく俺が小学校に入学する直前に離婚したんです。その後は女手一つで育てられました。ただ色々と問題があったんです。」


 ちゃんとした敬語で話したほうが良かっただろうかと思ったが今から変えたところで手遅れだと思い返す。

 彼女は俺の話を真剣に聞いているようだったし、変な気を使わせるほうが申し訳ない。


 「母は生まれてこの方仕事をしたことがなかったらしく、急遽会社員になっても失敗を繰り返して何度もクビにされていたみたいです。おまけに結婚してすぐに買った一軒家のローンも支払わなくてはいけないとのことで、生活もギリギリでした。」


 その時のことを思い出してはどうやって説明すれば良いのだろうか、と必死に頭を回す。


 「まあ、母も大変だったんですよ。休む時間さえほぼなかったんですから。

――――けれどそこで溜まったストレスはすべて俺に向きました。」


 思い出すのはボロボロの家具に冷えていない冷蔵庫。部屋の隅に積まれた大量のゴミ袋に、自分の手足に残る幾つかの青(あざ)や打撲傷、切り傷から流れて固まった血痕だろうか。


 「多分、世間的には児童虐待の部類に入るのだと思います。手伝いをサボれば夕食抜きとかは当たり前ですし、思い通りにいかなかったらと叩いたり蹴られたりすることだって日常茶飯事でした。母曰く俺のせいで夫から愛されなくなったのだと。すべて俺を孕んでしまったせいだと、そう言ってました。」


 一瞬、彼女の瞳が揺れた。言い方が直接的だったか、と口を(つぐ)んだ。


 「あ、でも俺は普通より精神が強固だったのか自殺とかには追い込まれませんでしたし、家の扱いが酷かった分学校などでの友人関係には恵まれました。みんな優しくて面白い奴らばっかりでしたよ」


 少しでも明るい気分に出来ただろうか、と彼女を見た。すると彼女は俺を見て言った。


 「では何故()()()に来たかしら?本当に満足していたのなら、耐えられないことがなかったのなら、あのような荷物を持ってこの森に来なかったはずよね?」


 そうだ。

 彼女に核心を突かれて内心ヒヤヒヤしながら答える。


 「俺はこんな図体(からだ)をしている割に馬鹿で力もそこまで強くないんです。そんな役たたずがある日突然高校受験しようと言い出し、自分の小遣いを(はた)いて親の了承を得ずに公立学校を受けたんです。その結果偏差値自体丈に合わず不合格通知を貰ってしまいました。勿論母親はカンカンに怒りましてね。中学を卒業してから俺はゴミのような食事しか与えられず、ほぼ監禁状態で家事をさせられていたんです。まあ、俺の楽しみは人とのコミュニケーションだったので毎日が苦で。こうやって家出してしまいました。」


 正直アルバイトをやらせたほうが金になると思うんですよね、と笑う。だが目の前の彼女の顔は晴れない。やはり気に触ってしまっただろうか、と心配になった。


 「あなたは、どうして―――そこまで自分のことなのに第三者視点(ひとごと)なの?」

 「え」


 俺はその質問がよくわからなかった。今の話し方が他人事だったかと言われても、それが普段通りにしか思えなかった。

 そんな俺の反応に彼女は優しく――――――寂しそうに、微笑んだ。


 「そうなのね…それが無意識領域下の――――――自己防衛本能なのね。根本が呪うということ…」


 ほとんど聞こえなかったが、何かを納得したように頷いた。


 「では、勇一さん?あなたはどうしたいのかしら?」 


 彼女の問いかけに俺は、目を見て、願いを込めつつ口にした。 








読んでくださりありがとうございました。

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