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05話 『のんべえ堕天使お姉さんとの邂逅』

「もう、それでぇ~!私が婚約者のはずなのにぃ~!実は婚約者は姉さまですとか言われてぇ~!?」


 穴に入って数時間後、そこには、見事に出来上がった私がいた。


 ***


 数時間前、穴に潜った私が出会ったのは、お酒臭いお姉さんだった。


 まさかこんな深くに誰かいるとは思わなかったので、びっくりした。

 そしてさらに、その背中に堕天使の証――黒い羽根が生えていることに気付くと、その場で凍り付いた。


 こ、この人、堕天使……!


『黒い羽根を見つけたら、そこが自分の墓場だと思え――』


 天界では古くからそう言われ、忌み嫌われてきた。堕天使は恐ろしく攻撃的で、近づくものはすべて殺すだの、八つ裂きにして食べるだの、色々言われている。


 私も本物を見るのは初めてで、さすがにびくっと震える。


「あれぇ~、お客さぁん?」


 警戒している私に、堕天使のお姉さんは話しかけてきた。


 暗がりから、ギョロっとこちらを捉える、鋭くまぶしい黄色の瞳――


 こ、殺される………!


 恐怖で動けなくなる私に、お姉さんは――



「まぁまぁ一杯どうぞぉ~」


 と、目じりをぎゅっと下げて、ニコニコとお酒の缶を差し出してきた。


 ***


「み、未成年なんですが…!」と断ろうとするも、「まぁまぁ、バレないバレない~」とニコニコ尚もお酒を勧めてくる。

 次第にペースに巻き込まれ、あれよあれよと缶が空き、気付けば見事な酔っぱらいが完成していた。


 けど、ま、いっか~~~~~ぁ!!


 今まで、ひたすら真面目に生きてきた私は、1回もこんな羽目を外したことなかった。真面目にしてきたのはもちろん、グラスさまにふさわしい天使になるため。

 でももう、全部無駄なのかって気づいた今、ほぼヤケクソでお酒をあおった。


 だけど、すごい。

 嫌なことばかり考えてぐるぐるしていた頭がスーッと曖昧になってきて、心もふわふわ軽くなってきた。


 なぁんだ、お酒って、怖い飲み物じゃなかったんだぁ~~~!

 というか、むしろ、お酒ありがと~~~~~!!


 じっとしているとぐるぐる色んなことを考えては泣いてしまうこういう時に、何も考えないでいられる何かがあるっていうのは、すごい救いだった。


 それに、この堕天使のお姉さんが、とんでもなく聞き上手だった。

 うんうんと相槌を打ちながら、優しく聞いてくれる。それはつらぁ~い、と共感してくれる。


 堕天使どころか天女なのでは――!?


 すっかりお姉さんに心を開いた私は、今までのことを全部お姉さんにしゃべり倒した。


 グラスさまとの出会い編から、恋の芽生え編にアプローチ編、それから婚約編。今まで何度も友人に語ろうと試みては、出会い編の序章も序章で、全員にギブアップされてきたこの壮大な物語。


「ブーケ、グラスさまのことになるとほんと頭のネジ飛んじゃうんだから…あと、出会いの序章って何よ、最初の最初みたいにどんだけ細かく話すのよ、お昼から始まったのに日が暮れたんだけど!」


 と、疲れた顔で呆れられてきた。


 なのに、このお姉さんは、出会い編、恋の芽生え編と聞き続け、あろうことかひとことずつ共感や相槌を打ってくれる……!


「あらぁ~!なにそれぇ、かっこよすぎるぅ~!」


 しかも、一緒に楽しんでくれる…!

 もう私はノリノリだった。


 それでそれでぇ~?と聞いてくれるお姉さんの包容力と、お酒の力に甘えて、私は調子に乗って、大口を叩いた。


「はぁぁ…あんなに大好きだったんですよぉ~…もうほんと、なんで姉さまなんでしょうかねぇ……なんで私ばっかり、こんなことになっちゃうんでしょう……



 もう、こう思っちゃいますよねぇ、リア充、ばくはつしろぉ~~~~~!とかぁ!なんちゃってぇ~~~!!」



 浮かれていた私は気付かなかった。

 お姉さんの目が、一瞬キラリと光ったことに。


「……そこまで元気になれたならぁ、きっともう、大丈夫よぉ~。2人の結婚式、行って来てみたらぁ?こういうのは、最初逃げるとその先どんどん生き辛くなるものよぉ。ね?行ってきてらっしゃい。お姉さん、嘘つかなぁい」


 ニコっと笑う、お姉さん。

 お姉さんが言うなら、きっと行った方がいいのかもしれない!


「そうですねぇ…なんか私、行ける気がしてきましたぁ~!よぉ~し!もう1本のむぞぉ~~!」


 私は勢いづいて、1本、もう1本と、お酒の缶を空けていった。


 ***


 あの後もひとしきり話した後、私は途中でばたんと寝てしまい、目が覚めたら堕天使のお姉さんはいなくなっていた。


 しばらくはひどい二日酔いに苦しみ、やっとアルコールが抜けた頃、結婚式の日がやってきた。


 大丈夫。今はきっともう大丈夫。


「見ててお姉さん、私、負けない…!」


 私は決意を胸に、式場に向かって羽根をぐんっ、とはばたかせた。


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