03話 『私のバラ色結婚計画! 1』
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8年前。
長かった冬がようやく終わり、桃色の花が咲き乱れる天上の世界。
森の中には、やわらかい日差しが降り注いでいた。
8歳だった私は、目の前に立ちはだかる、背丈の3倍はある木をじっと見つめる。
「ブーケ、あとちょっとだ。ここまで飛んでおいで」
そう言って、木の上から私のことを呼ぶのは、私の8歳年上の幼馴染。
気合を入れて、私は、ぐっと背中に力を込める。
羽根が、おぼつかなくもぱたぱたと動き出す。ふわっと、足が地面から離れた。
少しずつ身体が浮いて、持ち上がっていく。
もうちょっと、もうちょっと……もうちょっとでグラスさまと手がつなげる……!
というところで、ザァァっと不意に強い風が吹いた。ガクンと身体が傾く。
「わっ、おちるっ…!」
反射的にぎゅっと目をつむる。
刹那、バサッと羽根が開く音と共に、身体がふわっと軽くなった。
そっと目を開けると、私を抱きかかえたグラス様と目が合う。
「惜しい。もう少しだったね」
鮮やかで、だけど透き通った、ペガサスの棲む泉みたいにきれいな空色の瞳。
真っ白で繊細な、陽の光が透けて輝く髪。
少し垂れ目の、優しくて甘い目元が、私を見て柔らかくゆるむ。
ほう……と見とれてしまう。
風に乗って舞い上がる、桃や白の花びらと、グラスさまの銀の羽根。
「ケガは無い?惜しかった。よく頑張ったね」
「はい、ありがとうございます、グラス様…。でも、まだまだ頑張ります!早くグラス様みたいに、優秀でかっこいい、素晴らしい天使になりたいです!」
そう。グラスさまは、天界でも有名な秀才天使。12歳の時、スクールを首席で卒業して、16歳の今は、アカデミーでもずっと成績1位。
そんなグラス様と私は、生まれた時からお家が近くて、小さい頃からずっと遊んでもらっていた。その背中におんぶしてもらって、グラス様のきれいな羽根で、雨上がりの虹も、青の花が咲き乱れる丘も、色んな景色を見に行った。
恋心が芽生えたのはいつだっただろう?
物心がついた時には、すでにグラス様は私の特別だった。
最初は、兄を慕うような気持ちだったのかもしれない。
でも最近は、グラス様を見ると、胸がとくとくはずむ。
一緒にいるだけで、その日が特別な日になる。
目が合うだけで、かぁぁっと顔が熱くなる。
これはきっと、ちゃんと恋なんだと、子どもながらに思っている。
だから。
そんなすごいグラスさまに少しでも早く近づけるように。
ずっと一緒にいられるように。
あわよくばお嫁さんになれちゃったりしちゃうように……!
私はこうやって、毎日がんばっているのです!
なんて!きゃあ恥ずかしい!まだこんなことグラス様には絶対言えない!
でも、でも、いつかは絶対……!
そうやってごにょごにょする私に「はは、僕なんてまだまだだ」と笑うグラス様。
そう、グラス様は優秀でも、絶対に鼻にかけない。
どんな人にも優しくて、美しくてかっこよくて、そして努力家。
憧れる。尊敬する。
ドキドキする。
「よし、僕が次も見ていてあげるから、もう一度がんばってみようか」
そう言って、今日も私に笑いかける。
はぁ、その笑顔も、今日も世界で1番かっこいい………
***
「グラスさま、婚約したって本当…?」
私、ブーケ10歳。
グラス様がアカデミーの研究で忙しくなり、少しずつ会えない日が増えてきた頃。
私の耳に風の噂が届いて、グラスさまのお家へ急いで飛んで行った。
「ははっ。そうだね、僕ももう18歳だ。いつまでも子どものままではいられないね…」
切ないお顔で、遠くを見るグラス様。
どうしよう……グラスさまが遠くに行っちゃう……結婚しちゃう…!
心の中でじわじわと広がる不安に、思わず半泣きになりながら抱きつくと、グラス様は私を見てくすっと笑った。
「大丈夫だよ、ブーケ。君ともっと近くなるんだ。キミのお家は婿を取る家系らしいから、名前だってキミと同じ、グラス=ラベンダーになるんだよ」
グラスさまは、いつになく熱い目で、わたしの頭に手をのせた。
え?
私の名前は、ブーケ=ラベンダー。
私と同じ名前……?
えっ、同じ名前になるって、それ、家族になるってこと……?
えっ!?
ってことは、まさか…まさか……もしかして……
「まさかグラスさまが婚約したのって……」
かぁぁっと顔が熱くなるのを感じながら、恐る恐る、グラス様の目を見る。
「ああ、そうだよ」
グラス様も、私の目を、じっと見つめる。
そして、こくん、とうなずいた。
!!!!!!
わ。わ…………………………!
胸がドキドキと、鐘を打ったような感覚。
頬がどんどん熱くなる。
グラス様の言いたいことが、その熱い瞳を一目見ただけで伝わってきた。
これは、婚約したのは、私だ――!
リンゴ―ン!オメデトオメデトーーー!!!
頭の中で、祝福の鐘が鳴り響く。白いハトとかも飛んじゃったりして。
ついに、ついに、努力が実ってしまった……!
私、ブーケ10歳。
8つ年上の、かっこよくて美しくてやさしいグラスさまが、
今日から私の婚約者になりました!!
***
「え?グラスさまが姉さまと結婚した?」
私、ブーケ16歳。
思わず、持っていた花瓶を落とした。
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