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02話 『聖夜のリア充爆発計画 2』


 突然の奇妙なメッセージに、度肝を抜かれる。

 なんだ、イタズラか?



『リア充爆発代行サービスです。あなたに不快を与えたリア充を、私共で爆発いたします』



 ば………、え?


「ば、爆発って、まじに爆発…?危なすぎじゃないですか?」


『身体に危害は加えません。リア充2人の関係性のみ、爆発いたします。依頼主様が罪に問われるような不都合は、一切生じさせません』


 いきなりなんだこのトンチキ展開は……

 俺は、予想もしない突飛な状況にしばしフリーズする。

 次いでピコン、と通知が鳴る。



『ですが、爆発する際、あなたにもご協力をお願いいたします。

 1.人気のない、広い場所に連れてくること

 2.連れてきたら、『リア充爆発しろ』と大きな声で叫ぶこと

 3.叫んだら、爆発に巻き込まれないようダッシュで逃げること』



 俺は、勝手に進む話に待ったをかけるべく、訂正した。


「待ってください、リア充爆発って、マジレスするとあれって、イライラを衝動的にツイートしただけっていうか……すいません、あんまりそんなマジに捉えないでください」


『費用は掛かりません。一切損はさせません。ですが確実にざまぁができます』


 お、おう……

 押しが強いなおい。


『また、特典として、爆発をきっかけに依頼主様の人生が動くことがあります。今までの依頼主様たちは、爆発を経験することで、人生が良き方向に変わるきっかけとなった方が大勢いらっしゃいます。人生にスパイスが欲しい方にもピッタリです』


「スパイス…彼女いない歴=年齢の俺が、彼女できちゃうようなスパイスにもなり得ますか?」


『十分にあり得ます』


 !

 おいまじか!


 彼女いない歴=年齢が卒業できる?

 俺の力だけじゃ恐らく来年もリア充見ながらサンタコスだ。

 この非リアな人生も、変わるきっかけになる?


 俺だって、俺だって、リア充になりたい……

 毎年恒例のサンタシフトを、来年こそは脱却したい!


 俺は考えた。


 あいつら、まだ遠くには行ってないはずだ。この人混みだから見つけるのは至難の業だが、あんだけムカついて顔は嫌でも覚えてる。ちょっとでも見かければ分かるはずだ。


 よし、休憩時間はあと20分。それまでに間に合うか。

 俺はスマホをポケットにしまうと、サンタ衣装の上にコートをひっかけて、さっきのあいつらが消えていったイルミネーションロードへ走った。



 ***



「あれあれあれぇ?さっきの独り身サンタさんじゃないっスかぁー。どうしました~?」


 5分探した程度で、見つけた。

 女の肩を抱いてのろのろ歩いていたらしい。近くにいて助かった。


「馬鹿にするな。俺は彼女います」


 嘘です。


「嘘つきは泥棒の始まりって、先生に教わらなかったんですかぁ~?お前からはぷんぷん非モテ臭がするからわかるんだよ!」


 見抜かれてます。


「証明して見せるんで、こっち来てください」


 俺は2人をコンビニ裏の空きスペースに呼んだ。

 イルミネーションロードとは反対側だし、店の影になっているので、人気はほとんどない。ここならあの謎のDMの条件も満たしてるはずだ。


「なんだぁ?ここに証拠があるんですかぁ?」


 挑発してくる色黒の男。「いないじゃないですか~?ほらやっぱり!」とかイライラする顔で言ってくる。


 くっそ!

 DMで指定されたあの言葉を言うべく、俺はスーッ、と肺一杯に息を吸う。


 昔っから、ずっと俺はモテなかった。

 地味、影薄い、あ、いたの?と言われ続けて21年。


 キラキラしてるサッカー部とか?

 ちょいワルなヤンキーとか?

 あいつらは俺とは人種が違いすぎる。

 モテたいけど、あいつらにはなれないし、なりたくもない。

 でも、そうやって意地はってた結果、彼女はできない。


 だけど。

 俺にだってプライドがある。


「お前……お前は、お前たちカップルが、クリスマスを楽しく過ごせるのは誰のおかげだと思ってる?」


 は?と怪訝な顔をする男。


「それはな…………




 俺たちみたいな非リア充があああ!!!


 裏で働いて世の中支えてるからだよ!!!!


 お前がバカにした店長だって、文句1つ言わず!!!


 他のバイトのやつらが全員シフトに入んないせいで毎年駆り出されてんのに、文句1つ言わずに子どもに手振って笑顔でシフト入ってんだよ!!!!!!


 恋人がサンタクロースだぁ?知るか!!!!


 俺らの方が何億倍もサンタクロースだわ!!!!!」





 そこまでまくし上げ、もう一度息を吸い直す。

 そして、あの言葉を叫んだ。






 リア充、爆発しろおおおおおおおおお!!!!!!!」






 ほとんど勢い任せにまき散らして、うおおおおと背中を向けて走り去る。

 すると。






 ドゴオオオオオォォォォォォォォン!!!!!!!!






 と、背後からすごい音がした。

 な、え!?

 振り向くと、煙がモクモクと上がっている。


 徐々に煙が晴れてくると、中に2人の人影が見えてきた。


 ……あ?遠くてちょっと見にくいが、なんか女の方、様子おかしくねえか?

 女は、両手をぐっと握りしめ、わなわなと震えながら、何かを男に言い放った。



「もう!!!!

 あんた、失礼すぎ!!!!!ずっと遠慮して言ってなかったけど、なんかすごい冷静になったからこの際全部言わせてもらうわ!!!!」


「り、梨花…!」


 男は爆発の衝撃で倒れたのか、しりもちをついて動けないまま、怯えたように女の顔を見上げている。


「健吾だって、大学入るまで非モテでいじめられっ子でいつも泣いてたでしょ!すんごい頑張って大学デビューして、ヤンキーっぽくして!!!幼馴染でちっちゃい頃からあんたのこと全部見てきて、頑張ってるなと思ったから、あんたと付き合ってもいいってちょっとだけ思ったのに!!!なんであんた急にそんなに見得はるのよダッサイダッサイほんとダッサイ!!!あんたをちょっとでも見直した私がバカだった!!!イチから修行し直しなさいよ!!!!!」


 女は俺以上の剣幕でまき散らすと、高いヒールをカツカツ鳴らして去っていった。


 さっきまでの威勢はどこへやら、呆然と、ポカンと、今にも泣きそうな顔で女の後ろ姿を見つめる男。








 ざ……………



 ざまぁ!!!!!!!





 って、やべ!休憩時間終わる!

 俺は急いでバックヤードに戻り、コートを脱いで再び店長の隣に戻った。

 ふう、あぶねえ、ギリギリセーフだ。


 すると店長は俺を見るなり、「見てくれ巧くん!」とニコニコとあるものを見せてきた。



『さんたくろおすさん、ありがとう』



 サンタの絵柄の小さなクリスマスカードに、ヘビのにょろにょろ字が躍っている。


「さっき、ケーキを買っていってくれた親子がいてねぇ。幼稚園くらい子がこれをくれたんだぁ~!ね、とっても嬉しいと思わないかい?」


 店長は、人の良さがにじみ出た、温かい笑顔を俺に向けた。





 巧は気付いていなかったが、店長には聞こえていた。


『お前がバカにした店長だって、他のバイトのやつらが全員シフトに入んないせいで毎年駆り出されてんのに、文句1つ言わずに子どもに手振って笑顔でシフト入ってんだよ!!!!!!

 俺らの方が何億倍もサンタクロースだわ!!!!!』


 大声で叫んだのがコンビニの裏だったので、表でチキンを売っていた店長の耳にも届いていたのだった。





(僕たちがサンタクロースかぁ。いいねぇ)


 巧くん、と店長が俺に話しかける。


「そういえば、そろそろ就活だよね?僕の知り合いのやってる会社で、キミみたいな熱い人をちょうど募集しているみたいでねぇ。もし良かったら、僕から手厚く推薦状を書かせてもらいたいんだけど、どうかなぁ?」


 そう言ってにぱっと笑う40歳。おっさん。


 俺!彼女の前におっさんにモテてどうすんだよ!

 なんだかなぁと思いつつ、「考えておきますよ」と俺は口の端を持ち上げて言った。




~リア充の後日談~

 巧は知る由もなかったが、その後健吾は猛省した。

 あれから一度も口をきいてくれない梨花ともう一度仲良くなるべく、一から真のいい男を目指そうと決意。丸坊主にして筋トレを始め、生まれ変わった自分になろうと努力を重ねたそうだ。




 ***




「ふう……今日も一仕事完了っと」


 ビルの上から、弓矢でリア充を狙い打った私は、肩をぐるぐると回した。


「あああああ寒かったぁぁぁ……早くマティ姉のいるとこに帰ろう……」



 私、ブーケ=ラベンダー。天使です。

 リア充爆発代行サービスやってます。


 なんで私がこんなことをやるようになったのか?

 それには、涙無しには語れないある事情があったのです――


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