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01話 『聖夜のリア充爆発計画 1』


 人間界は、東京。

 その夜のお台場は、この冬一番の冷え込みを記録していた。


 青や赤、白や黄のカラフルな光が、真っ暗闇をきらびやかに彩る。

 広場の中央には、シンボルのように大きなもみの木が飾られていた。

 その根元の電光プレートには、大きく『12/24』の文字。


 そんな場所を我が物顔で徘徊する、おぞましい生き物たちと言えば――










 ――そう、リア充である。


「あばばば……さむさむさむ………!」


 そんな恐ろしい生物の巣窟を、ビルの屋上からたった1人、

 震えながら見つめる黒い影。


 その影は、人間ではなかった。

 背中に羽根が生えた、天使だった。


 でもその羽根の色は。


 白ではなく、真っ黒だった。





 ***





 俺はその日、サンタになっていた。


「チキン、いかがですかー。ケーキもすぐにお持ち帰りいただけますよー」


 コンビニの入り口で、寒空の下チキンとケーキを客に売りつける、サンタだ。



『ごめん巧くん。今年もあれ、お願いできるかなぁ……?ほら、24日の夜は今年も他のバイトの子たちみんな予定あるみたいでさ、巧くんしかいないんだよ~』

『え』

『ね?どうだい?もしや、今年はだめかい…?』

『……………………いや、大丈夫っす……入りますよ……』



 はあああ……

 なんでよりにもよってクリスマスイブに、極寒の吹きっさらしの中、サンタコスしてケーキなんか売ってるんだ俺は。がっくりと肩を落とす。


「巧くん、毎年本当にありがとうねぇ。助かったよ~!」


 しかも、40過ぎのおっさんと一緒に。

 俺の隣に立っている小太りだけど気の良い店長は、俺の顔を見てにへらと笑う。

 あはは……とひきつった笑顔を返す。


 うちのコンビニは、毎年クリスマスの夜は店の外に机を出して、即席の売り場を作る。そこでチキンやケーキといったクリスマス商品を売るのだ。さらに本社の意向でサンタのコスプレもしないといけない。大学生アルバイトに拒否権はない。


 なんで折角のクリスマスに、こんな寂しくて恥ずかしいことをしなきゃならないんだ。


 しかももう1つ最悪なことがある。

 うちの店はお台場でも有名なイルミネーションロードの目の前に店を構えている。そのせいでさっきから俺の目の前には。


 カップル、カップル、カップル。


 手をつないだり、肩を抱いたり、腕組んだり、おんなじマフラー巻いちゃったり?今俺たち幸せです!な空気をバリバリに放った最強の人種が、楽しそーに、幸せそーに、俺の目の前を右に左に、次から次へと流れていく。


 彼女いない歴=年齢の俺にとって、これ以上に苦痛な仕事があるか?


 本当だったらこんなシフト絶対に願い下げだ。だが俺以外のバイトが全員リア充な頭のおかしいうちの店舗では、クリスマスは俺がいないと店が回らない。そのせいで俺のここ数年のクリスマスイブは、『おっさんと一緒にサンタコスしてイルミネーションを見ながらチキンを売る日』だ。


 メリ―クリスマース!と、店長は、目の前を通りがかった親子に手を振る。

「ママ!サンタさん!サンタさんだ!!」って目をキラキラ輝かせて、隣にいるママに報告する男の子。


「いやぁ、かわいいねぇ、子ども。僕も結婚してたらねぇ…まぁ、相手がいないんだけどねぇ、こんなおっさんだしねぇ!」


 1ミリも笑えねえ。虚しくなるからやめてくれ店長……

 寒すぎる冗談に一層身体が冷えたように感じていると。


 不意に横から、耳障りな男の笑い声が聞こえてきた。


「うわ、イブの夜にサンタコスした野郎が2人でチキン売ってるぜ、さらしもんだよなぁ」


 ああん?


 俺は声がした左の方にギョロッと視線を向ける。

 すると、今しがたコンビニから出てきたばかりの色黒でガタイのいい男と目が合った。ヤンキーっぽい。その腕に金髪の女が抱き着いている。うわ、結構美人。


梨花(りか)、ほら見ろよ、あいつらすげえ可哀そうだな!」


 男は金髪美人に向けて、俺らに聞こえるボリュームで言う。


「ちょっと、やめなよ健吾(けんご)

「でもだって、笑っちゃうじゃねえか!周りはこんなにカップルだらけなのに、いかにも彼女いなそーなあの2人でサンタコスとか、本当に哀れだよなぁ。特にあの太ったおっさん、いい年してほんと恥ずかし!」


 ガハハ!と笑って、2人は俺らに背を向けて遠ざかっていく。

 その間、男は女の肩に手を回してちらっとこちらを振り返った。勝ち誇ってにやついた顔と目が合う。



 ……………ハァ?



「なんなんすかあいつら!ふざけんな、失礼すぎません!?」

「まぁまぁ巧くん、放っておきなさい。しょうがないさ事実なんだから……」

「ちょっと店長!へこまないでくださいよ!あんな言わせといていいんすか!」

「いいからいいから。ほら、そこの子どもが怖がってるだろ?スマイルスマイル~」


 そう言って、店長はまたも笑顔で通りすがりの子どもに手を振る。


 ふっっっっっっざけんな!!!人が良すぎるぜ店長!

 しかもなんだあの美人!

 あんなやつにあんな美人の彼女がいて、俺たちは寂しくケーキ売ってるとかあんまりだろ!


 くそ、ああもう腹立つ!

 勝ち誇った顔しやがって!

 リア充の何が偉いんだよ!くそ!


 俺は休憩時間になるなりすぐバックヤードに籠った。

 あのにやにやした男の顔が頭から離れず、煮えくり返る怒りを抑えきれずにツイッターを立ち上げる。こういう時はネットに吐き出すに限る!


『ふざけんな、リア充爆発しろ!!!』


 思いのままひとまずそう呟き、さあここからどう恨みつらみをつらねようかと言葉を考えていると、ピコン、とDMに通知が届いた。


 ?

 なんだ?


 空けると、そこには知らないやつからのメッセージが届いていた。



「なんだこれ………『リア充爆発代理サービス』?」


広告の下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして評価いただけると嬉しいです。


(2020/6/21追記)

広告の下に新作URLも貼りました!こちらもぜひお願いします。

【僕の推しは敵キャラで、必ず勇者に倒される ~勇者に憑依した僕は、君を生かしたまま世界を救うルートを開拓します~】

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