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こうかん。

「うーん、おいしーっ!」


 黙々と食べてるわたしに対して、小山田さんはそんな満足気な声を何度も上げている。それも、満面の笑みで。……こんなに喜んでくれるんだったら、小山田さんのご両親も喜んで作ってるんだろうな。わたしも、その立場だったら、きっとそうするし。……なんてありもしないことを考えて、頬の熱が上がってしまいそうになる。 


「……すっごく、おいしそうに食べますね」

「まーね、いろんな人が頑張ってくれたから食べられるわけだし、おいしく食べようって思うんだ」


 本当に、優しい人なんだな、小山田さんは。だから、こんなにあったかくて、まぶしい。……わたしが、一緒にいていいかわからなくなるくらいに。


「わたし、そういう風に考えたことあんまなかったな」

「まあ、そこまで考えてる人もそんなにいないと思うよ?お弁当、自分で作ってる人くらい」

「そう、ですか……」


 お友達とか、いたことがないから。『みんな』がどういうことを考えてるのかなんて、さっぱりわからない。探り合いをするには、わたしの経験値はあまりにも少ないし、小山田さんは、黙っているより、突っ込んでくる人だし、……むしろ、そっちのほうが、やりづらい、かも。


「でも、本当にすっごくおいしいんだよ?食べてみる?」

「え、……いいんですか?」

「うん、いいよ?」

「なら、その、お言葉に甘えて……」


 突拍子の無い誘いに、振り回されて、そこに気が付いたら流されてる。差し出されたお弁当箱から一切れつまんで、おずおずと口に運ぶ。卵焼きは、家によってけっこう違うっていうけど、ここまで違うとは思わなかった。


「小山田さん家のは、ほんのり、甘いですね、……こっちも、おいしいです」

「でしょ!?うちのお母さんのはめんつゆ入れてあるんだー」

「そんなのも、あるんですね。……その、わたしだけもらうのも、悪い、ですから……、どう、ですか?」

「いいの!?ありがと~っ」


 大げさだって、そんなの。でも、ほんのり、胸の奥があったかい。頬の奥も熱くなるけど、体中熱くなるのは、いつもと違う。


「その、お口に合わないかも、ですけど……、どうぞ」

「ありがとー、じゃ、いただくね?」


 わたしのお弁当箱を差し出したけど、……小山田さんが食べてるとこは、なんか見てられなくて、目を閉じる。

 

「んむんむ……、すっごくおいしいよ!?」

「そ、そう、ですか……?」

「うん、こっちのは、けっこう甘いんだね、なんかとろけそーっ」


 体の奥から、ぼうっと熱くなる感じ。食べてもらえるのも、それでおいしいって言ってもらえるのも嬉しいけれど、こんな風にまではならないのに。

 

「その……お砂糖の量は、大匙一杯くらいで、そこに、お塩、ひとつまみ入れて……」

「へー、お塩入ってるんだね、ちょっと意外かも」

「お塩を入れると、卵が固まりやすいし、……甘いの、よく、わかるようになって……」

「スイカに塩掛けると甘くなるけど、そんな感じ?」


 あんまり、お料理に関しては知らないのかな。わたしが何か教えてるほうが、お塩を入れると甘くなることより、よっぽど意外。

 

「あ、それ、です……」

「すごいね、そういうの、知っててやってるんだ」

「その、恐縮、です……」


 目を輝かせながら、わたしのほうを見つめないで。頭の中、くらくらするから。褒められるのも、そもそも話をするのも苦手なせいで、オーバーヒートしそう。

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