やくそく。
集中なんて、できるわけない。三時間目の中身は、聞いたそばから抜けていって。ノートもあんまり取れなかった。他に頼れるひとなんていないし、……小山田さんのメッセージも、まだ返せてないし。とりあえず、外に出よう。四時間目の準備を済ませてから、廊下で軽く深呼吸。
『自分で作ってるひとは、そんなに居ないと思いますから大丈夫ですよ』
組み立てた文章を送るのにも、しばらく悩んで、送信をタップする。これで、よかったの、かな。2組の教室のほうをちらりと見て、ほんのり何かを期待してしまってるような。でも、何を。それを頭の中で探そうとして、
返信は、すぐに来た。一回バイブが鳴ったと思ったら、すぐにもう1件も。。しかも、スタンプまで使って。着信の通知はスタンプを表示してくれないから、トークの欄まで見に行かなきゃ。
『わかってるけど、自分でできちゃう茜ちゃんがすっごい羨ましいよ~』
その文の下には、じたばたとダダをこねているキャラクターのスタンプが動いてる。思わず、頬が緩む。よかった、本気で落ち込んでるわけじゃなかったんだ。それに、なんというか、かわいい。わたしには、苦手なタイプなのに。押しが強いし、わたしが一歩進むときにはもう、話を十歩くらい飛ばしてくるのに。嫌だとは、不思議と思えない。
『どんなの作ってるか気になっちゃうなーっ』
ぐいっと、顔を近づけられたような気がした。倒れ込みそうになるのを、壁にもたれかかって抑える。それって、そのまんまの意味、だよね。告白でもされたみたいに、顔の内側から熱くなる。でも、なぜか、断ろうなんて思えなくて。
『そんなに凝ってるのでもないですよ。それでもいいなら……』
誰かといるのは、苦手なはずなのに。それも、よりにもよって、わたしとは正反対の、明るくて積極的な人と。でも、なんとなく、やさしくて、あったかい。寂しいわけじゃないのに、心のどこかで、また会ってみたいって思ってて、その気持ちに、何故だか押し切られてしまう。時間を見ると、もうすぐ需要が始まってしまう。わたしにしては、けっこう返せたほう、なのかな。
『いいの⁉ありがとー✨゜+。:.゜ヽ(*´∀`)ノ゜.:。+゜✨』
『お昼、そっち行ってもいい?』
相変わらず、すぐに来た新しいメッセージ。多分、今から断るなんてできないし、もう、こう打つしかない。
『わかりました。ありがとうございます。』
約束、しちゃった。教室、戻らなきゃいけないのに、足がふわふわして、おぼつかない。メッセージのやりとりを眺めて、本当にわたしが送ったのかすらあやふやなくらい。
今の、夢じゃない、よね。太ももをかるくつねると、軽い痛みが走る。胸の奥、まだ何かがぐるぐるしてる。高揚感なのか、今更の後悔なのかも、わからない。
席に着いても、四時間目のチャイムが鳴っても、何故だか分からない旨の高鳴りは、収まる気がしない。