もやもや。
チャイムの音、気をつけ、礼の合図。ぺこりと頭を下げて、教科書とノートをしまって、スマホを手に外に出る。ゆっくり、大きな息をつくと、少しだけ、重い心が軽くなる。でも、画面を開いて、『えり』さんとのメッセージを見ると、胸の奥が、急に鉄の球が入ったみたいに重くなる。
『自分で晩ご飯作ってるの?すごーい!』
『お弁当も作ってたりするの?』
褒めてくれるのは、嬉しいけど、ちょっとだけこそばゆい。それに、……素直に答えて、自慢みたいにならないかな。でも、隠す理由だって、特に無いし、……悩みながら、指を進める。
『無理言って星花に進学させてもらったので、そのお礼にいつも作っています。』
ここだけ打って、手を止める。でっち上げの、それっぽい理由。本当にこういう風に作り始められたら、本当はよかったのに。ここから先に踏み込むのは、まだできない。わたしの中の傷はを封じ込めたかさぶたは、まだはがせない。
十分しかない休み時間、もう半分くらい経っちゃった。そういえば、二組のほうも、見てみようって思ったんだっけ。スマホをいったん仕舞って、それでも、教室に向かう足は、すり足になる。心の中で、綱引きは少しずつだけど好奇心の方に向かってく。
手前のドアの窓から教室を除くと、制服姿が何人もいる。……今は、これ以上踏み込めない。長い髪のカーテンを開けて、外に飛び出せる勇気は、多分、遠い昔に無くしてしまった。
さっきの下書きを、何度もこれでいいかと考えながら、送信する。既読は一瞬でついて、慌ててスリープにする。今度は、ちゃんと返事が来る前にできた。
おそるおそる席に戻ってから、、三時間目の準備をする。なんとか終わらせたときには、チャイムが鳴るまで、もうあとちょっと。シャツのポケットから出そうとして、バイブと一緒に画面が光る。『えり』さんからのメッセージ、今度は、何て書いたんだろう。
『えー!?めちゃくちゃ凄いよー!』
『わたしも弁当は持ってきてるけど、作ってもらってるからな~ ショボーン(´・ω・`)』
どうしよう、もしかして、落ち込ませたのかな。なんとか、フォローしなきゃ。「そこまでやる人も、あんまりいないと思いますよ」って、打ち終わる前に、チャイムが鳴り始めてしまう。
わたしなんかに優しくしてくれて、それなのに傷つけたかもしれなくて。そのことに、ひどく傷ついてるわたしがいる。引き出しの奥深くにしまったって、意味ないのに。
小山田さんがくれた優しさが、今は胸に刺さる。こんなに人を想って、胸が痛くなることなんて、なかったのに。心に触れることを怖がったわたしは、刺さった棘をどう抜くのかも忘れてしまった。