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茜さす君に見初むる幸ありて。  作者: しっちぃ


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ぐるぐる。

「……んん」


 六時半にかけたアラームがぴりぴりと鳴る。うれしいような来ないでほしかったような、不思議な感じ。体が重くて、目覚ましを止められない。ゆっくり伸びをして、ようやく手が伸びる。耳に鳴り響く音が止まって、布団から這い出していく。

 

「ふわぁ……、はぁ……」


 残ったままの眠気を吐き出そうとして、ため息も一緒にこぼれる。幸せが逃げちゃうとか言われても、そもそもそんなものないからいいよね。もしあったとしても、とっくのとうに全部逃げてなくなってるだろうし。そんなの、もう今更か。

 朝ごはんも昨日とっておいたのと作り置きを食べて、お弁当も同じのと、余った場所は冷凍食品で埋めて。いつも通りの朝なのに、何かに急かされた気持ちだけが早歩きしてる。忘れ物してないか何度も確かめたり、意味もなくぐるぐる歩いてたり。身支度も済ませて、いつもよりちょっと早く外に出る。


「……行ってきます」


 返事のない挨拶だけして、重いペダルを踏み続けてく。学校までの道、いつもよりも長く感じる。頭だけが空回って、全部ずっと遅く感じる。

 いつもなら、校庭から聞こえる声が聞こえない。そういえば、テスト前だったな。ほとんど空いてる自転車置き場の端っこに、普通のよりかっこよく見えるのが目に映る。ハンドルとか見たことない方に曲がってるし、色も派手な水色が混ざってて。なんでそんなのに目が離せなくなっちゃうんだろう。見覚えはあるような気がするけど、何だったっけ。

 教室までの間も、足音が響くのが聞こえるくらい静か。そうだったはずなのに、突然、もっと大きくてぱたぱたした音でかき消される。

 

「茜ちゃんっ」

「きゃっ、え、恵理さん……?」


 後ろから抱きつかれて、思わず飛び上がっちゃいそうになる。振り向くと、満面の笑みで見上げてくる。わたしの知ってる恵理さん、ずっとこんな顔だな。


「えへへ、おっはよーっ」

「えっと、あ、おはようございます……」

「通りがかったの見て、つい来ちゃったんだー、びっくりさせちゃったかな?」


 ふわふわとか、どきどきとか、心が追いつかないままやってくる。お昼休みまではないと思ってたのに。人と話すのには、ずっと心の中で準備が必要なまま。


「ええと、……ちょっとだけ」

「ごめんね、つい……、茜ちゃんがおかず作ってくれたの嬉しくなっちゃって」

「それなら、よかったです……」


 そういうの、当たり前みたいに言うのすごいな。わたしは、言いたいことの半分も言えないのに。


「じゃあ、またお昼に行くねっ、またねー」

「あ、うん……」


 また、ぱたぱたとした足音を鳴らして教室に戻ってっちゃう。……そういえば、帰り際に恵理さんと会ったときも、似たようなの乗ってたんだったっけ。ようやく思い出す。

 こんなに変になっちゃうのに、困ってしょうがないのに、イヤじゃない。こんなの、どうしてなんだろう。頭の中が、もやもやでいっぱいになっちゃってる。漫画とかだったら、今のわたし、ずっとおめめがぐるぐるになっちゃってそう。


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