きがかり。
授業の終わりを知らせるチャイムが、こんなに長く感じたのも、初めて。小山田さんは、なんとなく苦手なタイプなのに。いや、だからこそ、話をするのに、どうすればいいかわかんなくなる。
そういえば、二時間目は数Aだったよね。ちょっと苦手意識だから、さっきみたいに、ぼんやり気味に聞いてたらダメなのに。揺すぶられて、どっかに抜けていった気持ちは、まだ体の中に戻ってきてくれない。
さっきと同じ通知音、今度は、二回鳴る。引き出しの下で、バイブが思いっきり響いて、慌てて取り出して画面を見る。
『そんなに固くなんないでだいじょーぶだよ(*´∀`)/』
『それでさ、何してたのか訊いてもいいー?』
何て返そうか、とりあえず、料理のレシピ見てることは言わないとだけど、なぜだか、やましいことをしてたみたいで。それに、固くならないようになんて言われても、まだ、会ったばかりだし、……どうやって話していいか、わかんない。わたしのことなんて、気にかけないでほしいのに。
結局、さっきまでの同じように敬語のまま。震えかける手じゃ、上手く打てない。打ち間違えたのを何度も直して、ここまでは組み立てる。
『言葉はどうしても今は直せないです。ごめんなさい。
朝のときは、夕ご飯のメニューを考えていただけです。やましいことでもないですが、突然だったので、つい取り乱してしまいました。』
行を変えようと、一番後ろに合わせようとして、震えた手は、送信のほうを叩いてしまう。トーク画面を開いて、取り消しをしようとたら、その前に既読がついてしまう。
どうしよう、今から消しても、そのことは見られちゃうし、小山田さん、けっこう返信も早いから、今のうちに戻さないと。そうしなきゃ、勝手に既読が付いちゃう。
『自分で晩ご飯作ってるの?すごーい!』
『お弁当も作ってたりするの?』
まだ震えてる手で、画面を閉じようとしたときには、もう遅かった。相変わらず、早すぎるよ。そう文句を言えるほど、仲良くなってる自信なんてないし、そもそも、そんな度胸はわたしには無い。鳴ったチャイムの音に、はっと息が詰まる感じがする。今日は、そういえば休み時間に教室を出てなかったな。いつも、息がつまりそうになって、……思い出しただけで、ちょっと息が苦しい。膝ももう今は何ともないし、二時間目が終わったら、外の空気を吸いに行こう。ついでに、二組の教室も、見に行ってみようかな。体育とか、家庭科とかで、教室が空いてればいいな。会って話すのは、さすがに身が持たなさそう。
……でも、あんなに明るくて、友達もいっぱいいるはずなのに、まめに返信くれるのはなんでなんだろう。授業に入る前に、晴れない疑問と、返せてない着信が残った。授業が終わったら、こっちも頑張らなきゃ。