ぐらぐら。
「……茜ちゃん?」
「恵里さん、……ごめんなさい、その」
「怒ってるわけじゃなくて、どうしたのか知りたいな」
声、あったかい。……なんでか、泣きそうになる。陽だまりみたいな人、どうして、わたしなんかを照らそうとするのかわからないけど。
「……変なこと言ってても、笑わない……?」
「うん、約束」
さらりとした、でも、ふんわり受け止めてくれる声。いいのかな。……でも、待たせちゃう、よね。それなのに、ほっぺの奥が熱すぎて、言葉がうまく出てこない。
「……その、ね、……恵理さんの声、聞きたくなっちゃって……っ」
「そ、そうなんだ...…」
戸惑ったような声、引かれちゃったかな。……そうだよね、わたし達は、せいぜい、ただの友達、……なのに。それなのに、なんか、もっと先の、それこそ、……みたいな。
「ごめんね、今の……」
「嬉しいな、……私のこと、頼ってくれて」
聞かなかったことにして、なんて言い訳にもならないこと、先回りされちゃう。考えないと言葉すらうまく作れないわたしよりも早いのは、当たり前かもだけど。
「そう、かな……?」
「うんうん、だって、……ちょっとドキドキしちゃうな」
電話越しでざらついたままなのに、ふわって、なんか甘くなったみたいな。そんなこと、ないよね。だって、それじゃあ、恵里さんのが、わたしに、……みたいで。そんなの、あるわけないのに。
「もう……」
「私も、もっと茜ちゃんの声聞きたいな、……なんて」
「えぇ……?」
ふわふわが、こっちにもやってくる。さっき言っちゃったような言葉、そのまま返されて。顔中、熱くなる。わたし、こんなになっちゃうようなこと言っちゃって、……どうしよう。
「えへへ、私も本当の気持ちだよ、……茜ちゃんもだといいんだけど」
「う、う、ウソじゃ、ない、から……っ」
目の前にいるわけでもないのに、頭の中が熱くて、胸の中が痛くて。わたし、おかしくなってる。わかってても、なんでかなんてわからない。ほわほわして、くらくらして、恵里さんのこと、もっと近くに感じそうな。知らない感じ、でも、イヤじゃない。今は、それしかわからない。
「よかったぁ……、ねえねえ、明日もお昼一緒に食べよ?」
「う、……うん、わかった……」
流されて、また次の日も同じようなことになっちゃって。もやもやして、ふわふわして、ずきずきする。全部、おんなじぐらい強くて、……さっき、そんなはずがないって思ってたの、本当はそうだったりするのかな。
「それじゃあ、あっ、……茜ちゃん、もう大丈夫?」
「ごめん、その……、忙しかったとかかな」
「うーん、そうじゃないけど……、もうちょっとだけ、おはなしする?」
「……ううん、大丈夫、……ありがとう」
もうちょっとだけ、なんて、言おうとしてもできないし、何の話をすればいいかもわからない。だから、こうしなきゃなのは分かってるのに、ためらっちゃうわたしがいて。
「じゃあ、またね」
「……うん、じゃあね」
電話、のろのろしてたら向こうから切れちゃった。……ずきずきが、もっと強くなってく。さっき、そんなわけないって放り投げた気持ち、もしかしたら、そうなのかも、……なんて。でも、……すき、とか、そんな甘酸っぱい気持ち、わたしの中にあっちゃいけないのに。