みえない。
恵里さんって、なんかかわいいな。心の中にできた日だまりに気づいて、……返せないチャットが、魚の骨みたいに引っ掛かる。どうして、わたしなんかにこんなにかまってくれるんだろう。あんなにあったかい人に、わたし、全然おかえしできてないのに。お料理だって、わたしより得意な人だっていくらでもいるのに。……そこまで考えて、心の中がズキズキする。……最初から、会わなきゃよかったのに。頭にちらりと浮かんだ考えが、どうして、こんな痛いの。
「やだな、わたし。こんなに、……さみしい、なんて」
ここに来る前にだって、痛かったけど、こんなに傷んだことはないのに。わかんない。こんな気持ち。……どういうの、なんだろ。痛くて、苦しくて、でも、ふんわりしてる。わたしが知ってる言葉の中じゃ、『さみしい』がいちばん近い。そんな気持ち、あるわけないはずなのに。
返せないの、いやだけど、どうすればいいかわかんなくて、でも、電話越しでも話をするのも苦手だな。面と向かってよりはまだ楽だけど、たどたどしくなっちゃう言葉じゃ、思ってることの一割も伝わらなさそう。
「でも、このままじゃやだよ……っ」
つながり、このまま途切れちゃいそうで、怖い。変なの、わたし。今まで、誰かといるのが怖かったのに、……何でかわからないけど、今は恵理さんといられなくなることにおびえてる。
「さっきもしたのに、やっぱり変かな……」
独りの家にも慣れてるのに、今は泣きたくなるくらい痛い。恵理さんがいてくれたら、なんて、ついさっき電話した相手が頭をよぎる。素がどっちかっていうときれいって感じの、にっこりした顔が焼き付いて離れない。
恵理さんとやりとりするときにはいつも震える指、今は電話するってとこを押してる。何回か呼出の音が流れて、その時間が、いつまでも続きそうに思える。
『あ、茜ちゃんっ、どうしたの?』
「恵理さん、……えっと、その、……ごめんなさい、……あの、……」
弾んでる声、……わたしから連絡することも、そんなにないからかな。さみしくなって、声、聞きたくなっちゃった。一言で伝えるならそうなんだけど、……そんな事言ったら、なんか、気持ち悪いかな。
「もう、……落ち着いて?」
「う、うん……すぅ……」
「へへ、さっき言ったこと、覚えててくれてたんだ」
へにゃんって感じの、ゆるんだ声。なんで、こんなにきゅうって胸の奥が痛くなるんだろう。……恋してる、みたいなこと、あるわけないのに。だって、……だって、わたし、誰からも気づいてほしくなかったのに。