ゆっくり。
ゆっくり、吸って、吐いて。……恵里さんが教えてくれた、気持ちを落ち着かせる方法は、わたしにも効いてる気がする。考え方が日陰に吸い寄せられるところに、恵里さんが日向に連れ出してくれるような。ずっと日向にいたわけじゃないっていうのも信じられないのに、でも、そうじゃないかもって思っちゃうくらいに。
「晩ご飯、何にしようかな……」
他のことを考える余裕も、ちょっとずつできてくる。そろそろ、恵理さんに頼まれてたのも試してみなきゃだし、でも、ちょっと楽しみかも。普段は魚料理あんまり作らないし、テストまで一週間切っちゃうと、そんなこと考える余裕もなくなっちゃうし。雨も近いから、買い込んでもおきたいし。ちょっと、冷凍食品に頼るのも考えないとな。週末は、恵理さんに頼まれたものをちゃんとやっておくとしても。
『少し落ち着きました、ありがとうございます』
その前に、お礼しとかなきゃ。どうしてそこまで私のこと気にしてくれてるのかは、あんまりわかんないままだけど。昔の恵理さんが、今のわたしみたいだったって言われたって、今だって信じられないけど。
『よかったーε-(´∀`;)』
『笑ってるとこが一番かわいいもん(`・ω・´)』
通知欄にぽこっと出て来た返信に、思わずくすっとしちゃう。あの人のメッセージって、なんというか、言葉越しっていうのを感じなくなる。すぐそばにいるように錯覚しちゃう。暑苦しいけれど、嫌ってわけじゃない、不思議な感じ。……わたしよりも、ずっとかわいいのに。見た目は、どっちかだときれいめなのに、そんなのがどうでもよくなっちゃうくらい。
返事、どうしようかな。恵理さんが振ってくれてるから、ここからどうやって繋げればいいのか分かんない。まともに会話なんて、最後にしたのいつだったっけ。考えすぎちゃうから、こうやって誰かと話すときにすぐ疲れちゃうのに。
『恵理さんのほうがかわいいですよ』
ここまで打って、……何か、そうなんだけど、そうじゃなくて、もっとなんか、別の意味に伝わっちゃいそうだな。でも、これよりもうまい返し方、思いつかないや。ふと、送信を押してしまう。取り消しを押そうとすると、わたしよりも、ずっとかわいいのに。日だまりみたいに明るくて、優しい。わたしには、不釣り合いなくらいに。
『そうかな( ⸝⸝⸝∩_∩⸝⸝⸝ )♡︎♡︎』
『なんか照れちゃうな///(/ω\*)』
照れたような返事に、わたしまで恥ずかしくなる。これ以上は、何も言えないよ。