ふわふわ。
『……茜ちゃん、本当に大丈夫?』
「あ、はい……、大丈夫、ですから」
全然、大丈夫じゃない声。電話越しにだって、伝わっちゃうよ。恵里さんは何も悪くないのに、心配だけかけさせて。……わたしには、恵里さんみたいな日だまりは似合わない。
『大丈夫なんて言わないでよ、……そんな大丈夫じゃない声で』
「……ごめんなさい」
『追い詰めたいわけじゃないよ。そうじゃなくて……』
困らせたいわけでもないのに、困らせちゃって。わたし、……どうしたらいいか、分かんないよ。言葉が出ない間に、恵里さんのほうがが先に続きを出してくる。
『……あのさ、昔に何があったか分かんないけど、……しんどいことがあるんだったら、わたしに言ってほしいな、わたしがうっとおしいとかでもいいし』
「別に、そういうわけじゃない、ですけど……」
うっとおしいって、……ごめんだけど、そうかも、だけど、……言いたいのは、そういうことじゃない。恵里さんみたいな、優しくてあったかい人が、あの時いたら。わたしは、……もうちょっと、日向の世界に似合うような人になれてたのかな。
『無理してほしいわけじゃないよ、……茜ちゃんに、悲しい思いさせたくないからさ、……ごめん、わたしも何言いたいか、上手く言えないや』
「……ねえ、……恵里さん、恵里さんは、……どうして、わたしのこと、……」
どうやって言えばいいんだろう、離れてほしいって思われちゃうかもだし。……嫌じゃないけど、けど、……ただ、どうしてか知りたいだけだけど。
『……言ったでしょ?一目惚れみたいなのだって、……って、そうじゃないか。どうして、わたしが茜ちゃんのこと気にしてるか、だよね』
「……あ、……はい」
『あのね、……わたしも昔、今の茜ちゃんみたいなときあったんだ。……なんも自信持てなくてさ、いなくなっちゃいたいって思ったこともあるよ、……茜ちゃんがそうだって言いたいわけじゃないけど』
「……恵里さん、どうして……」
そんなネガティブな恵里さんがいたことも信じられないし、想像もできないけど、嘘をつくような人じゃないのも、分かってる。……それより、どうして、わたしの気持ち、分かってるんだろう。
『わたしも、今は言いたくないかな。……あんまり思い出したいものでもないし』
「そ、そうですよね、……でも、……ちょっと、意外でした。恵里さんが、そういう風に思ってたっていうの」
ずっと、からりと晴れた空の下にいると思ってた、恵里さんのことは。それなのに、……思い出したくないような過去も、日陰のどんよりとしたような気持ちも、持ってたなんて。
『だよね、あのときのわたしとは、今は全然違うもん。……だから、たぶんだけど、茜ちゃんも、……わたしみたいになれるよ』
「……だと、いいんですけど……」
今の恵里さんみたいには、なれそうにないや、でも……前みたいに、普通に誰かとお話できたりとかは、なりたり、するのかな。それも、今は信じだれないや。日向の空気は、わたしには熱すぎる。
『……明日も、一緒にお昼食べる?』
「……ぁ、……それじゃあ」
『よかったぁ……、わたし、嫌われちゃったと思ってたから』
「いえ、そうじゃなくて、……わたしが、考えすぎてるだけですから」
考え込みすぎて、いつもいつも疲れてる。今日は、考えすぎてるから余計に。こんなに人と話すってないし、……そもそも、人と話すのにこんなに頭の中ぐるぐるさせるものじゃないっていうのは、わかってるんだけど。
『考えすぎちゃうときは、深呼吸するといいんだよ、わたしも、昔教えてもらったんだけど』
「そう、なんですか……?ありがとうございます」
『……そろそろ、落ち着いたかな、……電話、切っていい?』
「いえ、……わたしが、心配かけさせたからですから、……わたしも、もう大丈夫ですから」
『よかったぁ……、わたしもちょっと焦っちゃったね、じゃあ、また明日ね』
「ぁ……はい、また」
恵里さんのほうから切られた電話。胸の中、変にあったかくなってる。トーク画面の通話時間は、十分くらいなのに、その前より、少しだけ楽になれた、気がする。
ゆっくり、息を吸って、吐いて。……さっき教えてくれたことは、確かにちょっと効きそうな感じ。でも、今は、ほっとしすぎて、ちょっと眠いや。