ずきずき。
「気にしないでいいですよ、……その、変なこと訊いちゃったし」
「いいよ、ちゃんと言わなきゃね、……わたしだけ、舞い上がってたかもだし」
わからないよ、何にも。恵里さんがわたしのこと、気にしてくれたり、『ともだち』になろうとしてくれたりする理由なんて。
教えて、って言えないくらい、引っ込み思案で、明るくもなくて、おしゃべりだって苦手で、わたしよりも魅力的な人なんて、それこそいっぱいいるのに。
「茜ちゃんのこと見たときね、すっごくかわいいって思っちゃったの。一目ぼれっていうのは、ちょっと大げさかな?」
「うぅ……、そんなのでも、わたし、そんなにかわいくないし……っ」
「わたしがかわいいって思ったから、じゃダメかな?」
ずるくないけど、ずるい。後ろに下がろうとしてるのに、それ以上の勢いで踏み込んできて。それじゃあ、逃げられない。逃げたいほど嫌なはずなのに、そういう気にさせてくれない。嫌な気持ちにも、させてくれない。
「……そんなに、かわいくなかったでしょ?」
「ううん、……会って話してみて、もっとかわいいって思ったよ」
そう言ってはにかむとこ、わたしよりずっとかわいいのに。そういう仕草されたら、どうしたって本心なのがわかっちゃう。
「みないで、くださいよ……、あつい、から」
「えー……?……ごめん、わたしだけ、舞い上がりすぎたかな……」
「ぅ……、ごめんなさい、わたし、あんなの言われることないから、どうしていいかわかんなくて……」
寂しそうな顔しないでよ。そういう風になってほしいわけじゃないのに。……だから、誰かといるのは嫌だったのに。恵理さんが優しすぎるせいで。
「……茜ちゃんには、自分のこと大事にしてあげてほしいな。……いきなりこんな事言えるほど、茜ちゃんのことよくわかってないかもだけど」
「……もっと早く会えてたらよかったのにな、恵理さんみたいな人と」
そしたら、わたしだって、その優しさを素直に受け取れたのに。そしたら、きっと、……恵理さんとすぐ「ともだち」になれたし、困らせて、こんなに胸の奥がズキズキと痛くなったりしなかったはずなのに。思いついた言葉、それしか浮かばない。あったかい気持ちにほどけてくには、その温もりを忘れすぎてる。
「茜ちゃん、……今会えたのは、嫌なの?」
寂しい顔しないでよ。痛いから。……嫌って言えるわけない、だって、こんなにあったかくて、優しいのに。どうやって受け止めていいかわからないのは、わたしのせいなのに。
「ごめん、……嫌じゃないですけど、でも、……」
「いいよ、こっちこそごめんね。ちょっと、わたしも変だったね」
笑ってるけど、なんかさみしそうな声。……わかんない。どうして、こうなっちゃうかな。こういうつもりじゃないのに。傷つきたいわけでも、傷つけたいわけでもない。じゃあ、どうしたいかって考えても、わかんない。
「そんなこと、ないです……、」
続く言葉は出てこない。ごめんなさい。わたしといても、嫌な気持ちにさせてばっかりで。
昼休みの残り、ぽつりぽつりと声をかけてくれてたのに、なんて答えてるか、自分でもわかんない。どうにかして残りのお弁当も食べきって、予鈴に慌てながら、一緒に旧校舎を出る。その間ずっと、あったかい手を感じて、暑いのにほわってして、……それなのに、わたしの手はそれより冷たいまま。