まぶしい。
学校までの道のりは、いつも憂鬱。今日は体育があるから、なおさら。最近はプールだからまだいいけど、運動は苦手だし、誰かと一緒にするなんて、苦痛で仕方がない。足を引っ張るくらいしかできないし、そもそもチーム分けとか、二人組なんて言われたら、わたしは誰にも選ばれないし。優しい人たちだけど、
「行ってきまーす」
今日は珍しく、その声に返事が来る。嬉しいけど、なぜか、痛い。別に、寂しくもなんともなかったのに、解けそうなほど暑いのに、心の中まではあっためてくれない。まだ、凍ったまま。もう、そのままでいい。あったかいと、痛いの。お湯の中に入れられた氷は、ビキビキとひびが入るみたいに。
一人でいることが当たり前だった、それでよかったはずなのに。その世界に、恵理さんは外から穴をあけた。光なんて慣れてないから、目がつぶれそう。体ごと、焦げちゃいそう。日焼け止めを塗っても、人の熱は防いでくれない。
今日の自転車は、いつもより重い気がする。うっとおしいくらい暑い空気と、焼け付きそうなくらいまぶしい光。……これなら、恵理さんのほうが優しい。暑すぎると思ったときには、引いてくれるのに。
七時半の、一番登校してる人の少ない時間、だけど、ちょっと違和感。いつもなら校庭から聞こえる声が少ない。そうか、今日からテスト期間なんだっけ。今更みたいに思い出す。なら、昨日みたいに会うこともないよね。止まりそうな脚で、強引にペダルを押す。何かに追い立てられるみたいに。
「茜ちゃん、おはよーっ!」
「あ、……恵理さん、お、おはようございます」
微かな期待は、一瞬で吹き飛ばされる。からりとした声は、じめっとした空気をますます重くする。思わず、足が止まる。それに合わせて、恵理さんの自転車もスピードを落としてくれてるのか、その顔が、離れない。時間も、もっとゆっくりになればいいのに。そしたら、何を話すか一々考えてても、言葉に変な隙間ができたりしないのに。
「ねね、今日もお昼一緒に食べていいの!?」
「……ええ、いいですよ、わたし、他に一緒に食べる人いないし。……恵理さんは、他にもいっぱいいそうなのに」
「茜ちゃんがいいの、……そりゃ、他の友達と話するのも楽しいけど」
「そ、そうですか……」
やっぱり、熱いよ、恵理さんは。どうして、わたしがいいの?聞ける余裕なんて、無いよ、わたしには。繋いでくれた言葉を、返すだけで精一杯。
「じゃ、じゃあ、またお昼休みに、……ですね」
「うん、またねっ」
すぐそばの校門に、かっこいい自転車を漕いで行くのを見かけて、思わずため息が零れる。離すだけで、疲れる。わたしとは、全然違う人。そういうのはからかいに来る以外で話なんてしないはずなのに、恵理さんは、距離が近いし、優しくてあったかいし、わたしのこと、いっぱい見てくる。
見ないで、ほしいのに。わたしのことなんて、そっとしておいてほしいのに。なのに、何で。話しかけてくれるのは、嬉しくないわけじゃ、……ない、のかな。
その理由すらわかんないのに、恵理さんがわたしのこと、どう思ってるかなんてわかんない。もしかしたら、多分、恵理さんにも。
後を追って、自転車置き場に向かうけど、その足は、やっぱり遅くなる。どうしたいかなんて、わかんないよ、わたし。恵理さんのこと、どう思ってるかなんて、わかんないのに。