表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/38

まぶしい。

 学校までの道のりは、いつも憂鬱。今日は体育があるから、なおさら。最近はプールだからまだいいけど、運動は苦手だし、誰かと一緒にするなんて、苦痛で仕方がない。足を引っ張るくらいしかできないし、そもそもチーム分けとか、二人組なんて言われたら、わたしは誰にも選ばれないし。優しい人たちだけど、


「行ってきまーす」


 今日は珍しく、その声に返事が来る。嬉しいけど、なぜか、痛い。別に、寂しくもなんともなかったのに、解けそうなほど暑いのに、心の中まではあっためてくれない。まだ、凍ったまま。もう、そのままでいい。あったかいと、痛いの。お湯の中に入れられた氷は、ビキビキとひびが入るみたいに。

 一人でいることが当たり前だった、それでよかったはずなのに。その世界に、恵理さんは外から穴をあけた。光なんて慣れてないから、目がつぶれそう。体ごと、焦げちゃいそう。日焼け止めを塗っても、人の熱は防いでくれない。

 今日の自転車は、いつもより重い気がする。うっとおしいくらい暑い空気と、焼け付きそうなくらいまぶしい光。……これなら、恵理さんのほうが優しい。暑すぎると思ったときには、引いてくれるのに。

 七時半の、一番登校してる人の少ない時間、だけど、ちょっと違和感。いつもなら校庭から聞こえる声が少ない。そうか、今日からテスト期間なんだっけ。今更みたいに思い出す。なら、昨日みたいに会うこともないよね。止まりそうな脚で、強引にペダルを押す。何かに追い立てられるみたいに。


「茜ちゃん、おはよーっ!」

「あ、……恵理さん、お、おはようございます」


 微かな期待は、一瞬で吹き飛ばされる。からりとした声は、じめっとした空気をますます重くする。思わず、足が止まる。それに合わせて、恵理さんの自転車もスピードを落としてくれてるのか、その顔が、離れない。時間も、もっとゆっくりになればいいのに。そしたら、何を話すか一々考えてても、言葉に変な隙間ができたりしないのに。


「ねね、今日もお昼一緒に食べていいの!?」

「……ええ、いいですよ、わたし、他に一緒に食べる人いないし。……恵理さんは、他にもいっぱいいそうなのに」

「茜ちゃんがいいの、……そりゃ、他の友達と話するのも楽しいけど」

「そ、そうですか……」


 やっぱり、熱いよ、恵理さんは。どうして、わたしがいいの?聞ける余裕なんて、無いよ、わたしには。繋いでくれた言葉を、返すだけで精一杯。


「じゃ、じゃあ、またお昼休みに、……ですね」

「うん、またねっ」


 すぐそばの校門に、かっこいい自転車を漕いで行くのを見かけて、思わずため息が零れる。離すだけで、疲れる。わたしとは、全然違う人。そういうのはからかいに来る以外で話なんてしないはずなのに、恵理さんは、距離が近いし、優しくてあったかいし、わたしのこと、いっぱい見てくる。

 見ないで、ほしいのに。わたしのことなんて、そっとしておいてほしいのに。なのに、何で。話しかけてくれるのは、嬉しくないわけじゃ、……ない、のかな。

 その理由すらわかんないのに、恵理さんがわたしのこと、どう思ってるかなんてわかんない。もしかしたら、多分、恵理さんにも。

 後を追って、自転車置き場に向かうけど、その足は、やっぱり遅くなる。どうしたいかなんて、わかんないよ、わたし。恵理さんのこと、どう思ってるかなんて、わかんないのに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ