うかんで。
打ち終わった瞬間に、がくんって力が抜けて、アラームの音に叩き起こされる。もう、こんな時間か。早く寝るようにはしてるけど、
充電器にスマホを挿すことはギリギリで覚えてられたけど、それから先は全然覚えてない。アラームに邪魔されたけれど、恵理さんと一緒にいて、いっぱいお話してた。いつもみたいにたどたどしくなくて、恵理さんと同じようにあっという間に話が過ぎていく。恵理さんもだけど、わたしも、笑ってた。今の自分がやったら、ほっぺが攣りそうになるくらいに。わたしなのに、わたしじゃない。こんな自分になれたらよかったのに。……とっくの昔に潰された夢、また夢見てる。思い出さないでいたのに、もう追えない夢なんて、苦しいだけだ。小学生みたいな、途方もない夢だったら、まだ笑っていられるのに。私のは、すぐ手に届くはずだった、ささやかな夢。そのはずだったのに。まだ、昨日の今日に受けた衝撃は収まってくれない。真っ暗で、何もなかったわたしの世界に突然現れて、わたしのこと、引っ張りあげてきて。
今は、考えなくていいのに。今起きたのだって、お弁当を作るためなのに。まだ眠気に落ちそうな頭を起こして、ベッドからのろのろ抜け出す。
たまには冷凍食品のおかずも使うけど、手作りの方が、自分の食べたい量と味にできて好きだったりする。と、その前に、ぴこぴこと点滅する通知ランプに目がいってしまう。
まだ、起きてないふり。液晶を灯すと、メッセージは三件来てる。
『ほんとにごめんね?つい舞い上がっちゃって;;(∩´~`∩);;』
『嫌だったら誘うわけないじゃんヾ(゜д゜ll)』
『こちらこそありがとうだよ・:*:・:(o゜ω゜)bイェィd(゜ω゜o):・:*:・』
相変わらず、その言葉はかわいらしい。強引に引っ張る手には、かわいらしさなんて全然ないのに。思い浮かべた顔も、どっちかというとキレイって感じだし、どこから、そんな気持ちが出てくるんだろう。……よく笑ってるし、表情だって豊かだ。メッセージに必ずといっていいほどついてくる絵文字とか、ちょっとオーバーにも感じる仕草とか、顔文字とかの表情が、そのまま浮かんでくるほどに豊かな表情とか。……ほわほわとしそうな頭を、強引に現実に引き戻す。今日のお弁当はそこまで手間はかからないけど、集中しなきゃ簡単に怪我しちゃう。
おかずと野菜は昨日の晩ご飯を残してあるし、あと一品くらいしか作らないけど。いつもは普通の卵焼きだけど、今日はじゃことほうれん草を入れようかな。恵理さんみたいなのとはいかなくても、野菜はちゃんと取らなきゃだし。
卵を混ぜながら、今日はお砂糖を控えめにしようかな。普段はスプーン一杯分だけど、今日はその半分。ちょうど解凍が済んだほうれん草と、袋に入れたじゃこも混ぜて、油をひいて中火にしたフライパンで、最初は三分の一くらいを入れる。固まってきたら奥に寄せて、同じくらいの量を入れて、同じことの繰り返し。フライ返しで形を整えたら、食べやすい大きさに切って、朝ごはんついでにつまみ食い。よかった、普段は作らないけど、おいしくできてる。
冷ましてる間に、他の具材の用意を済ませる。いつもより手早く済んだから、ちょっとだけ、いいよね。貰ったメッセージに、返事をするくらい。
『それだけ喜んでいただけて、嬉しいです。』
『それもそうでしたよね。お昼、またお待ちしてます。』
今は、何故か気分が浮かぶ。夢みたいに、とはいかないけれど、少しずつ、話せるようになってるのかな。