表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/38

ふらふら。

 お母さんからドア越しに呼ばれて、お風呂の準備をする。その前に、スマホは、……ちかちか、緑色の通知ランプを灯してる。胸が重苦しいのに、ちょっとだけ、ほっとしてるわたしがいる。やっぱり、優しい。どうして、そんなになるのか、気になるほどに。


「お友達、かぁ……」


 たったそれだけの理由で、こんなにかまってくれるものなのかな。それも、今日初めて会ったばかりの人に。どういう距離感なのが正しいのかすら忘れてしまったわたしには、無理。恵理さんみたいに、懐に飛び込んでいくなんて。

 部屋着でそのまま寝るし、替えの下着だけ持っていけばいいか。でも、その前に、ちかちかと光るスマホの待ち受けを開く。相変わらず、明るくてよく通る声が聞こえてきそうな文面。


『おー、すっごくおいしそう!!φ(c・ω・ )ψ 』

『でも、テスト前だったよね、終わってからでいいよ、無理言ってごめん(。-人-。)』

『明日もお弁当一緒していい?(ㅅ˙ ˘ ˙ )♡』


 明日も、一緒にご飯なんて。想像しただけで、胸の奥が熱くて痛い。……でも、引き上げてくる糸を、自分から切り離すなんてできない。まだ、怖いよ。でも、嬉しくないなんてこともなくて。

 返事は、まだ打てないや。このまま書こうとしたら、多分寝るまで何も出来ない。

 大丈夫、きっと。恵理さんは、返事が遅れたくらいで見捨てるなんてしないはずだから。部屋の中に居たがる意識を、無理やりお風呂場まで引きずる。

 そんな状態じゃ、のんびりお風呂になんて入れるわけなくて、考えることばかりで、のぼせそうになる。どうして、……その先は、答えなんて見つからない、あるとしても、訊く事なんてできない。ふわふわして、落ち着かない。体を洗うのも、忘れそうになるくらい。あの顔が、頭の中で何度もよぎって。

 お風呂出たら、もう早く寝ちゃいたい。けど、いろいろしないといえないこともある。寝支度だってあるし、明日のお弁当のために、お米研いでおかないといけないし、……恵理さんのくれたメッセ―ジにも、返事しないといえないし。 

 リビングに行くと、お母さんがもう台所にいた。


「疲れてるんでしょ?炊飯器はもうセットしてるから早く寝なさい?」

「え、……うん、ありがと……」

「私が言えたことじゃないけど、もっと自分のために時間使ってもいいんだから」

「う、うん。……わかってる、おやすみ」


 あまり声聞けないからかもしれないけど、いつもより優しく聞こえる。リビングに行く理由がなくなって、「おやすみ」って返してくれる声に押されて洗面台に向かう。いつも通りの事を済ませて、ベッドに思いっきり倒れ込む。

 自分のために時間を使っていい、か。……自分で踏み出すための勇気は、もうどこにも見つかれないや。いつも、何かに引きずられてばかり。

 そうだ、恵理さんに返事しなきゃ。……ほら、こういうときとか。嫌とは言い切れないけれど、いつも、相手の顔色を窺ってばかり。


『試験前なの、私も忘れかけてました。そうして頂けるとありがたいです。』

『恵理さんが嫌じゃないなら、明日も大丈夫です。誘っていただき、ありがとうございます。』


 たったこれだけの文字を打ち終わる頃には、もうとっくに、お布団のぬくもりと、部屋の冷房でよく冷えた空気しか感じられなくなった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ