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すがって。

 レシピのこと、まだ教えてないんだった。メモにうつらうつらと書いてたものを綺麗に書き直して、写真を撮る。


『こんな感じで作ろうと思ってます。どうですか?』


 まだ、少し怖いのに、それでも、すがるように言葉を繋いで。ひょんなことで、繋がってしまった関係、下ろされた糸は、わたしを引っ掛けて、ひっぱり上げようとしてくる。それを、わたしから断ち切るなんて、無理だよ。落ちた時の痛みを、もう知ってしまった。それに、もう、どこまで浮き上がってるのか、わからない。足元は、ずっと真っ暗、上に見上げると、星屑みたいな一つの光。ずっと上なんて見てなかったから、最初からあったのかはわかんないけど。

 玄関が空く音がして、ドアから覗くと姿だけ見てほっとする。夜遅くまでいないことも多いから、あんまり言葉も交わせない。土日は休みを貰えてるみたいだけど、疲れて寝ちゃうみたいだから、あまり話しかけないようにしてるし。


「おかえり、いつも大変そうだね」

「ごめんね、あんまり話しもできなくて」

「いいよ、それだけ頼りにされてるってことでしょ?」

「そうだけどね、……いいよ、台所は。お風呂洗ってきてくれる?」


 いつも、お母さんのほうが先に帰ってきて、今日もおんなじ。お風呂を洗う前に帰ってくることは、久々だけれど。


「わかった、あっためてご飯盛るだけになってるから。お風呂は先いいよ、上がったら呼んで?」

「ありがと、わかったから」


 リビングに行ったのを見送ってから、お風呂を手早く洗う。わたしも、ちょっと疲れてるや、今日は。お風呂、やっぱり先に入ったほうがよかったかな。まあ、いいか。お湯が入ってくのを横目でちらりと見て、また部屋まで戻る。気が緩んだせいか、その瞬間、疲れが、どっとやって来た。誰とも話をしない時だって、無いわけじゃなかったから。お母さんにすら話すのに疲れるんだから、仕方ない、よね。……恵理さんと話して、ぐったりするのも。勢いのまま、ベッドに倒れ込む。

飛び上がったスマホに、着信は来てない。返事は、まだ来てないか。……そうだよね、わたしにばかり話してるわけじゃないもんね、恵理さんは。明るくて、よく笑う人。周りだけ陽だまりみたいにあったかくて、そんな人に、わたし以外の友達がいない訳が無い。体を引っ張り上げてくる、か細い一本の白い糸にすがるしかないわたしじゃないんだから。

 芋虫みたくベッドから這い出て、机に出したままの教科書に向き合う。もうすぐ、期末試験か。それでも、誰かとのつながりに怯えるよりは、まだ憂鬱じゃない。

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